一般家庭でも3D映像やサラウンドが楽しめるようになりつつある中、最先端の分野では5.1chや7.1chといったサラウンドのさらに先を行く、3D音響の研究が活発になっています。中でも、ヨーロッパを中心にプロジェクトが進められている「Wave Field Synthesis(WFS)」は、部屋の壁面の周回をぐるっと多数のスピーカーで囲むことにより、スイートスポットが限定されない独自のアプローチを可能としています。
WFSの基本的な考え方は、決して難しいものではありません。音源となる1つのソースがあった場合に、その位置情報をプロセッサーへ伝え、計算された結果を壁一周に配置されたスピーカーを使って再生することで「平面波」と呼ばれる音の波を再現するという仕組みです。部屋そのものを1つの再生機器のように扱うことで、5.1chなどの一般的なサラウンドとは異なり、部屋のどの場所にいても音源の位置や移動を聴き取ることが可能となります。
WFSのプロセッサーは既に商品化が進んでいて、スイスの Sonic emotion 社「Sonic Wave」や、ドイツ IOSONO 社「Spatial Audio Processor IPC100」といった製品が、映画館やホール等の設備で導入され始めています。Sonic WaveはApple LogicもしくはPyramixで利用できるのに対して、IPC100はNuendoをホストとして動作しています。これとは別に、ドイツのベルリン工科大学も独自のWFSプロセッサーを開発しており、このソフトウェアは無償で公開されているため、今後の発展が期待されています。
一方、このWFSを導入する上で大きな課題となるのが、沢山のスピーカーを設置し、配線を行う必要があるという物理的な問題です。これまでに稼動しているケースでは平均して128本、多いものでは500本を超えるスピーカーがプロセッサーによって計算された信号を受け渡され、再生しています。これほどの膨大な数のスピーカーへ音声信号を伝える回線を構築するにあたって、RMEのMADIソリューションが活躍しています。
沢口真生氏が主催する「サラウンド寺子屋塾」にて、2010年12月にシンタックスグループのMax HoltmannがWFSについての技術紹介を行いました。同ページで当日のレポートが掲載されているほか、Ustreamのアーカイブとしても提供されています。3D音響の最新事情にご興味のある方は、併せてこちらもご覧ください。
第69回 サラウンド寺子屋塾報告「WFS技術とその応用例」 | Ustreamアーカイブを見る |