RME導入事例
株式会社クリプトンが運営する高音質音楽配信サイト「HQM Store」にて、世界初の192kHz/24bitサラウンド録音によるピアノJAZZアルバム、「FOREST」が配信されます。レコーディングから編集、配信までが一貫して192kHzで行われているこのアルバムの制作を支えたのは、RMEのオーディオ・インターフェイス「Fireface UC」。2011年1月に都内スタジオで行われた、そのレコーディングの様子をお伝えします。
この「192kHz/24bitサラウンドのピアノJAZZアルバム」を企画したのは、本Webサイトでも度々ご紹介をさせて頂いている沢口音楽工房の沢口真生(Mick Sawaguchi)氏。収録前の打ち合わせの日、沢口氏は今回のレコーディングのコンセプトについて、こう語っています。
「コンピュータでオーディオを聴くことが徐々に浸透してきた中で、最近では普通のオーディオ・リスナーでも手の届く価格帯のオーディオ・インターフェイスやDAコンバーターにも、192kHz再生対応の製品が次々と登場してきています。ところが、せっかく再生する側の機械が対応しているのに、192kHzで聴ける音楽がない。じゃあ、録ってみようか、ということです。」
沢口氏のイメージする理想は、可能な限り高音質でレコーディングした音を、そのままのクオリティでユーザーへ届けること。今回はあえてデータ容量に制限のあるパッケージ・メディアでの販売は想定せず、当初からインターネットでの配信を視野に入れていたことからも、その想いが伝わってきます。
演奏は、UNAMASレーベルで親交の深いユキアリマサ氏によるピアノ。収録も馴染みのある音響ハウス第1スタジオ。奇をてらわずに、普段から慣れ親しんだスタイル、何より自身が本当に好きなものを、最高のクオリティで。こうして、この世界初の試みは当日のレコーディングを迎えることになります。
AM 10:00
スタジオ内でレコーディングに向けたセットアップが開始。今回の録音ではマイクからの音はスタジオ・コンソールを介さずに、持ち込まれたマイク・プリアンプへ入力され、RME Fireface UCのアナログ入力へ受け渡される。Fireface UCは沢口氏のノートPCとUSBで接続され、レコーディングはコンピュータの中で動作するDAW「Pyramix Native」で行われることになる。スタジオのコントロール・ルーム側で音をモニターできるように、Pyramix Nativeの音がFireface UCを通して出力され、スタジオ・コンソール経由でモニター・スピーカーから再生される。
左の写真が、今回のレコーディング・システムの全容である。大掛かりな機材に頼ることなく、幾多の試行錯誤の末に辿り着いた沢口氏のセレクトは、極めてシンプルな構成。これが、現在における高音質レコーディングのひとつの回答と言っていいだろう。
レコーディング・ブース側もご覧のとおり、ピアノの音を拾うマイクが並ぶだけのシンプルなセッティングである。録音に使用されるマイクは全部で4本。ただし、1本はステレオ仕様のマイクなので、実質的に5つのオーディオ・トラックが192kHzで録音されることになる。なお、演奏本番の前後でのユキ氏とのコミュニケーション用にマイクが1本、演奏者に近い位置に用意されているが、これは録音には使用されていない。
左の写真がピアノの音を近い距離で狙うマイク群。奥に見える2本のやや細身の黒いマイクが、100kHzまでの広帯域を収録可能とするSANKEN CO-100K。この2本のマイクが、今回の録音におけるマイクの中でもメインの役割を果たすことになる。そして、手前に見えるのはFETコンデンサーマイクのBrauner Phantom-Classic。こちらは主に低域を拾うための、沢口氏の秘密兵器のひとつである。
一方、右の写真に写っているのがSANKEN CU-180。1つのマイクに2つのカプセルが搭載されているため1本でステレオでの収録ができ、ピアノからやや離れた位置で「響き」を含めたサウンドを担当する。
AM 11:30
セッティングが済み、オーディオ回線のチェックが進められていく。マイクプリアンプは2台。SANKEN製のマイクの音はすべて沢口氏が「色付けの無いサウンド」と高く評価するRME OctaMic IIへと入力される。Brauner Phantom-Classicのみ、TL Audio A1が使われる。このA1は回路上で真空管の温かみを加えることができる製品だが、沢口氏は「この機能をOFFにしたA1」の音が好みだという。OctaMic II、A1とも沢口氏が実際に所有して使い続けているモデルであり、各々の性能・特性を十二分に把握した上で意図された役割分担となっている。
余談だが、今回のレコーディングにはちょうど日本国内での発売開始を間近に控えていたRME Fireface UFXも持ち込まれ、録音のバックアップ機として使われた。録音用の回線はOctaMic IIとFireface UCから分配され、本線にはまったく影響を与えずにバックアップ・システムとして動作。こういった柔軟なワイアリングが可能となっているのもRME製品のメリットのひとつと言える。
PM 12:00
調律師によるピアノの調律が始まり、コントロール・ルーム側はユキアリマサ氏が来るまで昼食を兼ねた休憩へ。調律師の福間理枝さんもユキ氏とは長い間柄で、演奏者の好みやクセに合わせた調律ができる「その道のプロ」。すべてにおいて最高の条件が整い、いよいよ192kHzでのレコーディングが開始されることになる。
PM 13:00
ユキアリマサ氏が到着。お互いの能力を信頼し合うユキ氏と沢口氏は、ほとんど打ち合わせも無しでレコーディングに入る。「何から弾く? 最初はちょっと練習してもいい?」「もちろん。でもRECは回してるよ。」
アルバムに収録する曲目さえも、レコーディングが進む中で決められていく。そんな和やかな現場の空気も、演奏が始まると共に独特の緊張感に包まれる。
演奏の達人、そして録音の達人。2人の達人同士による真剣勝負が幕を開ける。
演奏が終わると、ユキ氏がコントロール・ルームに来て録音のプレイバックを確認する。沢口氏がOKを出しても、自身で納得が行かなければもう一度弾き直す。そんな妥協の無いレコーディングが重ねられ、濃密な時間が刻々と経過していく。
PM 19:30
「もう曲数は十分だし、これでいいんじゃない。まだ弾きたいのある?」「いや、満足したかな。」
長いようで、終わってみるとあっという間に感じられたレコーディングが終了。すべての演奏はRME Fireface UCを通して192kHzでPyramix Nativeへ記録され、192kHzでの編集を経て、192kHzのままユーザーへ届けられることになる。オーディオ・ファンのための最高の心尽くし、1人でも多くの方に堪能して頂きたいと思って止まない次第である。
このユキアリマサ氏のピアノ演奏を収録したアルバム「FOREST」は、高音質音楽配信サイトHQM Storeでお買い求め頂けます。世界初の192kHz/24bitサラウンドによるピアノJAZZを是非ご体感ください。
なお、RMEユーザーの皆様に1つだけ大切なことをお伝えします。上記でもご紹介させて頂いているとおり、このアルバムのレコーディングはすべてRME Fireface UCで行われています。つまりこの「FOREST」は、RMEのオーディオ・インターフェイスを通して再生することにより、制作者が意図した本来のサウンドをもっとも忠実に皆様の下へお届けできるということです。
言い換えれば、高音質レコーディングで使用されるものとまったく同じクオリティの製品が、いま皆様のお手元にあるということでもあります。末永くご愛用頂ければ幸いです。
96kHz/24bit配信「UNAMAS HUG サラウンドスケープ」記事はこちら (※サラウンド再生設定ガイドもご紹介しています)