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加藤訓子インタビュー - 世界的パーカッショニストとBabyface / Fireface UFXとの共演

英国スコットランドの有名レーベル Linn Records から発売された、日本を代表するパーカッショニスト加藤訓子のソロアルバム kuniko plays reich(クニコ・プレイズ・ライヒ)は、タイトルの通り、ミニマル・ミュージックの大家と謳われるスティーブ・ライヒの代表作を、加藤訓子の手により世界で初めてパーカッション用に編曲されたカウンターポイント三作品を収録。ライヒが絶賛し、自身が監修を手掛けるアルバムとして世界へ向けてリリースされ、2011年度 Linn Records のベストアルバムを獲得。

レコーディング開始から二年半、加藤とライヒ両氏の情熱と揺るぎない高みへの挑戦が生み出した奇跡のワークが、6月6日から三夜連続ライブで実現。今回の横浜公演ではカウンターポイント・シリーズの最新作として待望のニューヨーク・カウンターポイントを日本初演する。

RME BabyfaceADI-8 という組み合わせで、100トラック近くあるファイルを場所の形状やアコースティックによって組み合わせやバランス調整しながら10chにアサインして出力し、そこにライブ・ソロを合わせたアンサンブルという形態が特徴的な加藤氏のパフォーマンス。先日のニューヨーク公演からは、Fireface UFX の DURec 機能を使った、コンピュータ・レスのプレイバックも取り入れるようになった。

今回は、10年におよぶ RME ユーザーである加藤氏と、アルバムのミックスを担当した深田晃氏に話を伺った。


『アンサンブルでの楽しさに惹かれていた頃にマリンバと出会いました』

— まず、打楽器をはじめられたきっかけを教えてください

加藤:小さい頃まず始めたのはピアノでした。ヤマハにも通っていたんですが、そこでは作曲や編曲をはじめとして、いろいろな楽器やアンサンブルで様々なジャンルの音楽を楽しむ機会があって、それが私の普段の生活の中の音楽として自然にありました。ピアノも、地元のコンクールで賞をいただくなど結構頑張ってはいたのですが、なにせ今でもオクターブがやっとというほど手が小さくて、リストやラベルといったような大曲や、自分で好きな曲も弾けずモーツアルトばかり・・・などなど、子供ながらにジレンマを抱えていました。また、一人で楽器と向き合う厳しさより、アンサンブルで演奏する楽しさに惹かれて、そんな中で出会ったマリンバや、シンプルにリズムを繰り返すパーカッションのパートがなんだか楽しくて、物心ついた中学生のある日、突然自分で「私は打楽器をやる!」と言い出して、翌日からマリンバを習い出しました。

その時のマリンバの先生が、音大の道へと導いてくださり、世界的マリンビスト安倍圭子のいる桐朋学園大学へ通うために上京しました。打楽器を本格的にやり出したのは大学に入ってからです。

ー 昨年リリースされた話題のアルバム『kuniko plays reich』について、ライヒの楽曲に挑んだ経緯やコンセプト等を聞かせてください。

加藤:はい、最初に挑戦した曲は「エレクトリック・カウンターポイント」ですが、これはもともと私のオリジナル・プロジェクト「Steel drum works」の中の中心となる曲でした。 これは所謂インダストリアルなドラム缶を用いた、夢のように美しい(!)舞台で、2005年にさいたま芸術劇場で元ネーデルラント・ダンス・シアターに居た、中村恩恵さんという素晴らしいダンサーの舞台の音楽を担当したことがきっかけで生まれたプロジェクトでした。その後ドラム缶だけのライブで RME の Babyface と ADI-8 を使って音を出すようになりました。この舞台は、20体ほどのドラム缶がステージに並ぶ中、いろんな細工を施したりそれらの音を発展させて行ったりといった、音のインスタレーションが主なのですが、その中で普段私が使っているマリンバやビブラフォンといった楽器に移り変わってゆくというコンセプトに基づく、中核となる曲を入れたいと思いました。そこで思いついたのが、ライヒの「エレクトリック・カウンターポイント」です。ドラム缶からできている楽器、スチールパンで始まって、金属の鍵盤であるビブラフォン、そして木の音色のマリンバへと移り変わってゆく・・・これは名案だと思い、早速ライヒさんに手紙を書きました。

※編注:「カウンターポイント」は「対位法」とも呼ばれ、和音とメロディの組み合わせという構造ではなく、それぞれ独立した複数の旋律が同時に組み合わさって楽曲が構成される作曲技法を指す。スティーブ・ライヒのカウンターポイント・シリーズは、「エレクトリック・カウンターポイント」に代表されるように短いフレーズが繰り返されながら徐々に変化して折り重なり、濃密な響きを構築していくのが特徴。

最後にお会いしてから10年くらい経っていましたので、時代は変わって手紙と言っても電子メールで送信したんですけどね。添付書類に丁寧な手紙をつけてドキドキしながら送ったところ、ものの五分で返事が返ってきたのには驚きと感動!ただ、曲をやることには喜んでいただいたものの、私のそのアイデアにはちょっと難色を示されました。特にスチールパンは不安定な楽器だけに、曲の緻密な音構成やコンセプトが正しく表現されるのだろうかという疑問があったのだと思います。しかし最近はずいぶん寛大になったというライヒさん、「まずは君の頭にある音を作ってデモを送りなさい」と言われました。そこで自宅でマイクを立て、三日三晩寝ずのデモ作りで何とか出来上がったものを送ったところ、これまたすぐに返事が来て「Very good! Your electric counterpoint works very well」とアレンジのお許しが出ました。もうライブも間近に迫り約2ヶ月を切ったところ、すぐにアメリカの自宅の近所にある Blackbird Studio に駆け込んだわけです。

その後出来上がったものにも「Bravo!」をいただき、それから「CDを作らないのか?」と言われたことから、次なる曲への取り組みが始まりました。実は私は自分のことをライブの人間だと思っており、音を残すこと=CDを作ることに対してあまり執着がなかったのですが、こんな機会をいただいてこれも一つの挑戦かなあと思いまして。


『横に並んだ音が瞬間瞬間に生み出すパターンはまるで万華鏡のようでした』

― スティーブ・ライヒとはどのような経緯で出会われたのですか?

加藤:ライヒの作品は我々世界中の打楽器奏者にとって大変ポピュラーなレパートリーです。私も大学時代からよく演奏していましたが、特にヨーロッパにいた頃はアンサンブル・イクトウスというベルギーのアンサンブルで、drumming などの打楽器アンサンブルを始め、18musicians やTehillim など、大編成のものや室内楽までほとんどの作品を演奏していました。時にはイクトウスと同じ屋根の下のスタジオのローザスというコンテンポラリー・ダンス・グループとも一緒の舞台で世界中を回っていました。

ライヒさんと直接お会いしたのはその頃でしたが、ベルギーのパレ・デ・ボザールという有名なホールでの「オール・ライヒ・プログラム」コンサートがあった時で、その時一緒に共演もしました。随分私の演奏を気に入っていただいたようで、コンサートの直後舞台裏でライヒさんが大喜びして、なんと私をひょいっと持ち上げられたのを忘れられません。

その後アメリカに移ってソロ活動にフォーカスしてゆくようになってから、一人でもまたライヒの作品を演奏したいなと思って、このカウンターポイントを打楽器用に編曲することを思いつきました。オーバーダビングでプリレコードの部分を録音しているわけですが、この私のアレンジでの音づくりでは、すべてのパートを一人で全部最初から最後まで演奏して重ねてゆきます。楽器によってはずっと吹きつづけるのは不可能なんてこともありますが、打楽器の場合は全く問題ありません。drumming などの打楽器アンサンブルも生演奏ですし、18musicians のマリンバ1のパートは60分間ずっと刻み続けていましたので、そうした感覚の方が私にとっては自然で、より人間的になるのではないかと思いました。あと、このカウンターポイント・シリーズは、「ライブ・ソロとテープ」というタイトルのところに「またはアンサンブルによる」とも書かれています。生の演奏家としては、例え一人であっても生のアンサンブルにしたいと思いました。なので機械的なループやクォンタイズは一切していません。

― 本作のレコーディングはどの様に行われたのでしょうか?おっしゃるようにオーバーダビングによるサウンド・デザインが印象的な作品ですが、実際の作業はどのように進められたのでしょうか?

加藤:最初はクリックを聞きながら基となるパートから始め、それと対になっているパートや同じ音色の組みになっているパートを順に重ねてゆきながら曲を構築していくんです。15分の曲が16パートあるとしたら単純計算でも240分、ぶっ続けでも4時間はかかりますね。エレクトリック・カウンターポイントをレコーディングした Blackbird Studio には世界に知られるエンジニア、ジョージ・マッセンバーグがおり、彼のアイデアにより壁一面デフューザーで囲まれた、スタジオCというのがあります。本作はそこではなく、もう少し広めのアコースティックの調整ができるスタジオDというところで丸2日間かけて録りました。最初この曲を録りたいんだと相談に行ったところ、「できるだけいい音で録ろう!」とジョージさんも張り切って、一緒にスコアにも取り組んでくださいました。これが私にとっても初めての192kHz/24bitの録音でした。

最初は各パートに6種くらい(音色ごとに違うマイク、リバーブ用、チェンバーなど)のマイクを設置し、どんどん録っていったのですが、録っても録っても終わらない・・・一つのパートを念入りに繰り返すなどという余裕もほとんどありませんでした。 大変な作業でしたが、その後、録ったままの全パートをパンと同時に音を出してみて、それを聴きながらジョージさんが「THIS IS GREAT!! IT IS A NEW WORLD!!!」と何度も何度も興奮して言っていたのがとても印象的でした。

 

tl_files/images/rme_user/kuniko_kato/macbook.jpg次に挑戦した「シックス・マリンバ」は、東京にあるオノ・セイゲンさんのサイデラ・マスタリング・スタジオで録りました。地下のスタジオ内に一緒に入り、マリンバのすぐ横の地べたにしゃがみこんで、卓は回さずにコンピュータへ直接録ってゆきました。ソフトは Pro Tools でしたが、曲全体が16分弱、全パートが6パートにそれぞれにマイクはオンとオフの2本ずつ、やはり192kHz/24bitですが、6×4で24トラックなのでコンピュータ的には問題ありませんでした。この曲は通常は生でアンサンブルするもので、私も何度か生でやったことがあるのですが、マリンバの減衰してゆく一音一音では隣の人とアンサンブルすることさえ難しく、ましてスコアに書かれている音のつながりやパターンや効果なども含め、なかなか満足できないことが多かったのです。ならば一人でやればそれは簡単!と思うかもしれません。でも実際に同じテンポで休みなく16分間を弾き続けるのは、しかもそれを6回も繰り返すのはなかなか至難の技でした。また一箇所乱れると、次のパートに影響を及ぼすので気も抜けず、かなりの集中力と体力を必要とし、2日間で2バージョンを録り切った時はヘトヘトでした。でもヘッドホンの中に重なってゆく音像があまりに構築的に渦巻いて「本当はこういう曲だったんだ!」と感動的でした。横に並んだ音が瞬間瞬間に生み出すそのパターンの無限なこと!まるで万華鏡のようでした。

 

ヴァーモント・カウンターポイントは名古屋芸術大学のスタジオを使わせていただき、そこで講師もされている長江和哉さんに録っていただきました。 私もすでに3曲目となるとかなり準備も万端で、事前に何度も何度も録っては重ね、という練習を死ぬほど繰り返しましたし、長江先生も事前によく下調べされており、レコーディングはとてもズムーズでした。学校の Pro Tools が、ある時点にくるとどうしても止まってしまうというアクシデントもありましたが、その場でトラックをまとめたりしながら再生し、それを聴きながら演奏して乗り切りました。12パートに4本のマイクで計48トラックの192kHzファイルを録り切り、その後の編集作業は長江先生のコンピュータでトラック数が無限な Seqoia を使われていました。

そしてライヒのカウンターポイント・シリーズ、残すは「ニューヨーク・カウンターポイント」ということで、カウンターポイント全制覇(笑)となる作品は、こちらにいらっしゃる深田さんに録ってただきました。ライヒのOKが出たばかりで、5月にはニューヨークで世界初演、日本では横浜で初演します。乞うご期待!

深田:ニューヨーク・カウンターポイントはクラリネットとテープのための作品として書かれています。他の作品と同じように加藤さんがマリンバ用にアレンジし、スティーブのアプルーブをとってレコーディングをしています。パーカッションの様々な音色と可能性を考えて加藤さんは楽器を選んでいます。


『私の居る音楽界とは違ったジャンルの方にも活動を見てもらえるようになってきました』

ー 深田さんは本作にクレジットされていますが、どのような作業を担当されたのでしょうか?

深田:私が担当したのはエレクトリック・カウンターポイントのステレオ・ミックスです。この曲はナッシュビルの Blackbird Studio でジョージ・マッセンバーグが録音しました。楽曲は1楽章、2楽章、3楽章で、それぞれの楽器の構成が異なります。そして例えば1楽章は12のパートがあります。2楽章は14のパート、3楽章は9つのパートがあります。それぞれのパートを一つずつ録音していくわけですが、一つのパートでも「はっきりした音」、「少し響いている音」などいくつかのマイクを用いて録音し、しかもそれぞれを全て192kHz/24bitで録音しているので、コンピュータの処理能力の限界で、全ての音が同時に再生できないという状況になります。

一応の録音が完成したあとから、私の作業が始まりました。まずはトラックの整理です。パートによって必要な音とそうでない音を仕分けし、トラックを少しずつ減らしていきます。今回は Pro Tools を用いていますが、それでもかなり再生が難しい状況でした。その後ミックスの作業を行うのですが、Pro Tools 内ではまず完結できないのと処理能力の関係でアナログでのミックスを行いました。ただ、この楽曲のあり方はどのような形でもありうる有機的なものなので、どういった音色でどういったバランスにするかという点については、加藤さんの想像の中にある形を目指すという方向になりましたが、録音されたもののバランスをとれば終わると言うようなものではなく、相当な処理を行っています。

そしてそのデータ・ファイルをアメリカ(ナッシュビル)と東京とで何度も往復しながら完成に持っていったわけです。 私の仕事はこのステレオの完成ファイルをつくることと、ライブ用にソロ以外の各パートを書き出すという作業でした。

— LINN Records でのリリース以降、常にチャートインし続ける程の大ヒット作となりましたが、日本を含め世界中からの反応はいかがでしたか?

加藤:2011年5月に Linn からリリースされた直後は日本では全く反応がありませんでした。それから徐々にCDの新盤として雑誌に取り上げられ始めた感じで、『レコード芸術』や『CDジャーナル』といった雑誌を始め、特に高音質、高配信の先駆けとなった LINN Records での初の日本人アーティストということもあり、オーディオ界にだんだんと注目され、たくさん取り上げられるようになりました。そうした広がりが普段の私の居る音楽界とも違ったジャンルの方にも私の活動を見てもらえるようになったようです。

今回は Linn が英国のレーベルで、まずは世界リリースであったということ、私のアレンジが世界初のパーカッション・バージョンだったということもあり、着々と世界に広がり、反応もたくさんいただきました。ダウンロード第一位の期間も長かったようで、2011年のベストに選ばれたことも本当に光栄です。でもその一瞬だけでなく、作品の価値として長く、皆さんに聴いていただきたいと願います。


『他の機器を通さずできるだけ質の高い音で再生できるように RME から直で再生しています』

ー 本作のリリース以降、世界中でライブ活動を展開されていますが、ライブではどのように本作を演奏(再現)されているのでしょうか?また、ライブ時のサウンド・システムについて教えて下さい。

加藤:ライヒの作品をライブで再現するには、基本はステレオで通常奏者は自分の背後にあるモニターを使ってバランスを取りながら演奏します。当然すべての音をきちんとマイキングし、PAスピーカーでPAエンジニアの手によりバランスされたものを届けます。これはライヒのカウンターポイント作品としては共通して言えることで、どのスコアにも、まず冒頭にこのシステムのことが書かれています。ただ私は通常の活動の中では生楽器を演奏する立場として、こうしたPAにおけるステレオ2ch再生、いわばカラオケにはあまり魅力を感じず、もっと生身の演奏家に近づけるようなサウンド・システムが組めないかと思いを巡らせていました。

ライヒのカウンターポイントは、ステレオ再生の他、生の奏者によるアンサンブルでも可、としていることにもヒントを得ています。ライヒさん自身も、プリレコードされたものを会場で流す時には TSCAM の8チャンネルのマルチ・レコーダーを使われていたようですが、それはアウトとしては基本のステレオ再生に変わりはないのですが、プリレコードと各生楽器のバランスや音色を現場のアコースティックに合わせて調整したかったのだと思います。コンサート会場でのリハの時のバランス作りはとっても厳しいですよ!

私の方は、これらのカウンターポイントが3つ揃い、CDも出て、いざライブ!という一方で、 Steel Drum Works というプロジェクトも継続していた中で、富士通テンの Eclipse スピーカーとの出会いがありました。「レスポンスの早い正確なこのスピーカーが数台あれば、生のアンサンブルのような立体感のあるカウンターポイントが実現するのではないか?」という、最初は私のかなり想像の域でのアイデアから始まったライブシステムでした。実際 Eclipse TD712z を10台使えるという環境をいただき、10個のアウトをストレートにマルチ・チャンネルとして出力できるプレイヤーを探していました。ところが実際にはそんな都合の良い機械がなかなか存在せず、予算の面やライブ・ツアーでの安全性や携帯性も含めて使いやすくしかも音がいい!というのがいくら探しても見つかりませんでした。

そこで、処理能力の上がったコンピュータの力に賭け、コンピュータからインターフェイス = RME Babyface+ADI-8という組み合わせに至りました。100トラック近くあるファイルを同時に流し、場所の形状やアコースティックによって組み合わせやバランス調整しながら10chにアサインして出力します。そこにライブ・ソロを合わせて、そこでの生のアンサンブルという音作りをして、それをお客様に聴いてもらうのですが、時にはサークルに組んだスピーカーの中にお客さんもいれてしまうこともあります。そこは本当に幸せな音の世界ですよ!実際にパッチを組んで、欲しいところから音を出してゆくとなかなか立体感があり、かなり私の理想的な音空間になってきたと思います。

 

ステージ風景

 

深田:ライブはそれぞれの場所の状況や条件によって変わってきます。 現在はある程度の形に落ち着いては来ましたが、それも環境次第だと思います。 ライブの基本は8〜10本の EclipseTD スピーカーを用いて各パートを各スピーカーから再生します。ソロを演奏する加藤さんを中心として、8人から10人の仮想の加藤さんが同時に演奏するわけです。このスピーカーはパワーは出ませんがレスポンスが速いので楽器の音がなまらないのです。 また、スピーカーを用いていますが、PAと言う考えではなく一本のスピーカーが一台の楽器であると考えています。ですからスピーカーの向きは円形で基本的には中心に向かっています。

加藤さんは自分の演奏した他のパートと競演を行うのです。 一方聴衆のみなさんはそのアンサンブルされた音全体を聞くということになります。 例えばステージ上に10台のマリンバを演奏しているとすると、それらのまとまった音を客席では聞いているわけです。それと同じように各楽器(スピーカー)が混ざりアンサンブルとなったものを聞いていただくというスタイルをとっています。 システムは10chのパートに分けた録音されたオーディオ・ファイルを、Pro Tools を使い Babyface のADAT出力とアナログ出力の10chを直接パワーアンプに入れスピーカーを駆動しています。他の機器を通さずできるだけ質の高い音で再生できるように、RME から直で再生してるのです。Fireface UFX を使うこともあります。

ー RME製品の使用感はいかがですか?また、RME製品を選んだ理由は?

加藤:録ったままの生のファイルをストレートに出すので、音に変な癖をつけずに正確に再生されること、それからとにかく音がいいこと!が第一ですね。個人的にも昔から使っていた Multiface のクリーンな音が好きで、コンピュータから音を出すなら RME と決めていました。あと、コンピュータの負荷がかからないということも魅力です。最初は携帯性に優れ、192kHzの音も聴ける画期的な Babyface から ADAT で ADI-8 につないで使っていましたが、その後、Fireface UFXで、USBメモリにレコーディングができて、スタンドアローンでの再生も可というところで、ずっと気になっていました。それで、実際に今までのライブに使っていた 48kHz/24bit のファイルなら同時に30chを録音し、そのままマルチ再生して、その場での音調整、マイクのインプットを合わせて、最終的に10アウトにマルチ出力可能ということも確認できました。それらすべてをTotalMixの画面で見渡せることも非常に嬉しいですね。また将来的には、厳選した10chならもっと高いサンプルレート —実際レコーディングしたのは192kHz/24bitですから— でのプリレコード再生するということも半ば夢ではないようです。

深田:RME製品を使用している理由はやはり音質です。また動作が安定しているので安心感があります。Babyface はコンパクトで汎用性がありますから持ち運びにも非常に便利です。Fireface UFX は使用してみてさらなる安定性を感じますし、WAVファイルのマルチチャンネル再生も行えますから今後バックアップ系統を考えたり、コンピュータ再生の不安定さを解消するのにより役立つのではないかと考えています。 Babyface やUFX は TotalMix FX の豊富な機能を使って高音質で様々な利用方法があるので手放せない重要なデバイスだと思います。

NY公演にてエンジニアのジム・アンダーソン氏と
NY公演にてジム・アンダーソン氏と

ー 最後に、 お二人の今後の予定を教えて下さい

加藤:つい最近、新しいカウンターポイント「NY counterpoint version for marimba」のライヒさんのアプルーバルが取れたので、ミックスしたり、ファイルを選択したり、ライブで演奏するための準備をしています。その世界初演を兼ねたニューヨーク公演 Kuniko plays reich US premier が5月14日にあります(編注:公演は盛況の内に終了しました)。 そして横浜は象の鼻テラスで6月6~8日の3日公演、その後ヨーロッパ・ツアーに出かけます。今年はアルメニアの Steel drum works から始まり、パリ、マドリード、バルセロナ、ケルン、スイスと回ります。旅から帰ると、7月14日には茨城県龍ケ崎市、7月27日には白寿ホールでソロ・コンサート、その間にも新しいアルバムのためのレコーディングなども同時に進行させています。 9月は約3週間オーストラリア各地を回り、帰国して桐朋学園の記念オーケストラ、また kuniko plays reich を目黒パーシモンで行い、その後各大学なども回ります。

まだまだ日本の音大は電子音楽や音響についての学科が少なく、学校側もなかなかついてゆけていません。 しかしこれからの時代の音楽や作品の可能性、そして今の時代の若者には、コンピュータや電子音楽の世界というのもより自然に取り入れられ、レコーディング技術も含め、アコースティックの世界もクオリティが高く広がってゆくことと思います。この生音とのコラボレーションである kuniko plays reich を使って、そして深田さんのような技術と知識と更に経験からなるすばらしいお力をお借りして、これからの音大や音楽界の未来にも貢献できればと思います。

深田:私の方は、4月末、沖縄にてフィールドでのボーカル・レコーディングをある歌手の方と行います。 その後5月にニューヨークにて加藤さんのライブのお手伝いをします。 また、4月〜6月にかけてジャズ・クラブでのライブ・レコーディングのディレクターとしての仕事があります。 加藤さんとの大学などでのマスター・クラスの予定やクラシックのレコーディングの予定も入って来ています。

ー お二人ともお忙しい中、本日はありがとうございました

加藤訓子(カトウ・クニコ)|パーカッショニスト

Kuniko Kato

桐朋学園大学卒業。同校研究科在席時から渡欧し、ロッテルダム音楽院を首席で卒業。世界的な指揮者や作曲家から注目される打楽器奏者として世界を舞台に活躍する。その技量、音楽性、芸術性の高さは、学生時代から注目され、ソリストとしてマリンバ、打楽器に天性の才能を発揮する。武満徹、スティーヴ・ライヒやフランコ・ドナトーニをはじめ、著名な作曲家や演奏家とも数多く共演、ソロ以外でもアンサンブル・ノマド、サイトウキネンオーケストラ、アンサンブル・イクトゥス(ベルギー)など国内外のグループへ参加。クラシック音楽の古典から同時代の音楽作品まで幅広いレパートリーを持ち、絶妙な音楽的洞察力と表現力の高さ、卓越した身体能力が創り上げる演奏スタイルが高く評価される。音楽教育と文化貢献にも精力的に取り組んでおり、ワークショップ、マスタークラス、公開リハーサルを自身のソロリサイタルと並行して実施している。米国在住。

www.kuniko-kato.net

深田晃(フカダ・アキラ)|レコーディング・エンジニア

Akira Fukada

作曲活動、CBS/SONY(現Sony Music Entertainment)録音部チーフ・エンジニア、NHK放送技術制作技術センター番組制作技術部チーフ・エンジニアを歴任。 数々のCD制作及びTV番組制作、音響空間デザインを行う。 AES (Audio Engineering Society) Fellow IBS 英国放送音響家協会会員、JAPRUS 日本音楽スタジオ協会個人正会員、洗足学園音楽大学音楽・音響デザイン客員教授、国立音楽大学非常勤講師。アーティストのCD制作、ドラマ、ドキュメンタリーなどの音楽録音、N響などのオーケストラ・レコーディングを主に担当。1996年以降はサラウンド音響について研究をはじめ、1997年のニューヨークでのAESコンベンションで「Fukada Tree」を発表、様々な文献で紹介されている。以降多くのサラウンド番組制作・国際共同制作などに関り、ドイツ・カナダ・アメリカ・中国などでも多数講演を行っている。

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