空間に立ちのぼる撥弦楽器の繊細な余韻をイマーシブ・サラウンドで捉えた 『月の沙漠~シルクロード 弦奏の旅路~』にみる録音手法 - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
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空間に立ちのぼる撥弦楽器の繊細な余韻をイマーシブ・サラウンドで捉えた
『月の沙漠~シルクロード 弦奏の旅路~』にみる録音手法

空間に立ちのぼる撥弦楽器の繊細な余韻をイマーシブ・サラウンドで捉えた
『月の沙漠~シルクロード 弦奏の旅路~』にみる録音手法

石の響き豊かな秩父ミューズパーク・音楽堂に集ったのは、ウード、リュート、ギター、琵琶、そしてソプラノという他に類を見ないようなアンサンブル「Moonlight Caravan」。ただでさえ音が小さい撥弦楽器の余韻を的確に捉えるべく、収録前にはエンジニアの入交氏による入念なホール下見が行われました。演奏場所とマイクロフォン位置を丁寧に設計し、13チャンネルのイマーシブ・サラウンド(Auro 13.1 フォーマット、LFEなし)にて収録を実施。空気の流れさえも感じさせる今回のレコーディングの肝は、「Double Decca Tree(ダブル・デッカ・ツリー)」他を構成する計16本のデジタル・マイクロフォンにあります。まるで 1本の大木を思わせるマイクロフォン群は、どのような役割を果たしているのでしょうか。現場からのレポートを是非ご一読ください。

入交英雄 Hideo Irimajiri
レコーディング・エンジニア:入交英雄 Hideo Irimajiri (株式会社WOWOW)

1956年生まれ。1979年九州芸術工科大学音響設計学、1981年同大学院卒。2013年残響の研究で博士(芸術工学)を取得。1981年(株)毎日放送入社。映像技術部門、音声技術部門、ホール技術部門、ポスプロ部門、マスター部門を歴任した後、2017年より(株)WOWOWへ出向中。1987年、放送業界初となる高校野球サラウンド放送のプロジェクトに関わる。2005年より放送のラウドネス問題研究とARIB委員、民放連委員を通じて規格化に尽力した。学生時代より録音活動を行い、特に4ch録音や空間音響について探求を重ね、現在では3Dオーディオ録音の技術開発と共に、精力的な制作や普及活動を行っている。また、個人的にも入間次朗の名前で音楽制作活動を行っており、花園高校ラグビーのオープニングテーマやPCゲームのロードス島戦記などを担当した。


秩父ミューズパーク・音楽堂

『月の沙漠~シルクロード 弦奏の旅路~』にみる録音手法

 

収録日時・場所:2017年10月19, 20日 / 三鷹市芸術文化センター 風のホール

録音フォーマット:PCM 192kHz / 24bit

 

マイクロフォン配置

本作のレコーディングにあたっては、前もって入念にホールの下見が行われました。入交氏はまるで拍子木を打ち鳴らすかのように手を叩きながらホール内を歩きまわり、まず、良い響きのする場所を見つけて演奏場所を決めていきます。次に、マイクロフォンの置き位置を、ここでも手を叩きながら定めます。上図が今回の収録におけるマイクロフォンの配置図となりますが、図にある金屏風は、飾りではなく反射板として設置されています。下見時に、音が散る傾向にあると感じた入交氏は、下見後すでに金屏風の活用を決めていました。どうやら、金屏風の金箔が音の反射にも貢献しているとのこと。手拍子ひとつで空間の響きを的確に捉えるその様からは、入交氏のエンジニアとしての卓越した技術を感じずにはいられません。

メイン・マイクロフォン:

Double Decca Tree(ダブル・デッカ・ツリー)

Double Decca Tree

Top Main:KM 183 D(L, R)、KM 133 D(C)
Mid Main:KM 133 D ×3

「Double Decca Tree」と名付けられた本作のメイン・マイクロフォン。 Decca Tree はイギリスのデッカ・レコードがステレオ録音に用いた方式で、左・真ん中・右と計 3本の無指向性マイクロフォンを配置します。この Decca Tree を上下(Top / Mid)にダブルで配し、Top が、Auro 13.1 / Top & Height Layer の HL, HC, HR に、Mid は、7.1 Surround Layer の L, C, R に配されます。Auro-3D のスピーカー配置については、こちらをご覧ください。

Decca Tree を 2層(Top/Mid)に連ねる大木を思わせるマイク・バーは、様々な器具を組み合わせて作られた入交氏のオリジナルです。

Double Decca Tree
Omni Cross(オムニ・クロス)

Omni Cross(オムニ・クロス)
バトンから吊り下げられた 1.5m四方の「Omni Cross(オムニ・クロス)」は、入交氏考案のマイクロフォン・アレンジで、その名の通り無指向性の KM 131 D が 4本使用され、ロープワークによって位置が微調整されました。この 4本の音はそれぞれ、Auro 13.1 / Top & Height Layer の HL, HR, HLS, HRS に割り当てられています。

また、十字(Omni Cross)から約3m上には「Voice of God」用の MKH 8020 D があり、Auro 13.1 / Top & Height Layer の、トップ・スピーカーの音を担っています。

MKH 8020 D

スポットマイクロフォン:

D-01

D-01
主にヴォーカル用となった D-01は、指向性を調整できる Neumann のフラッグシップ・デジタル・マイクロフォンです。本作では無指向性で使用され、平家物語(琵琶弾き語り)でも活躍しています。

KM 133 D ペア
ソロ楽器用に、メインと共通の KM 133 D がペアで使用されました。カプセル部分の色が異なり、左右を見分けるのに役立ちました。

KM 133 D ペア
KM 143 D

KM 143 D
アンサンブル時など多用途に活躍しました。

客席に設置された、4本の CMC5 2S

客席に設置された、4本の CMC5 2S

本作で使用された唯一のアナログ・マイクロフォンです。近年のイマーシブ・サラウンド制作においては「オブジェクト臨場感」「フィールド臨場感」という言葉が使われ、各々に切り分けて収音する手法がとられています。今回の収録では「Double Decca Tree」が主に “オブジェクト”(=楽器自体の音)を狙っており、この客席の 4本のマイクロフォンは “フィールド” を担当しています。

マイクプリアンプ:RME DMC-842 M / Micstasy M

ステージ脇に設置されたマイクプリアンプは、写真上から、RME DMC-842 M が 2台と Micstasy M の構成で、ステージ上にある 16本のデジタル・マイクロフォンと、客席に設置された 4本のアナログ・マイクロフォン、収録実験用の AMBEO VR MIC の計24チャンネル分が接続されました。録音室(楽屋)の MADIface XT とは MADI オプティカル・ケーブル で繋がっており、アナログ・ケーブルによる伝送を極力排除して低ノイズを実現。音の小さな撥弦楽器のレコーディングに最適なシステムとなっています。

オーディオ・インターフェイス:RME MADIface XT

RME MADIface XT
RME MADIface XT 背面

ステージ脇のマイクプリアンプ群と MADI オプティカル・ケーブルによって接続された RME MADIface XT。写真のオレンジ色のケーブル 4本が 1本にまとまったドラムケーブルを敷設するのみで、24チャンネル、192kHz / 24bit の伝送を叶えています。

DAWソフトウェア:MAGIX SEQUOIA 13

SEQUOIA の音質はマスタリング用途で高く評価されていますが、通常の DAWソフトウェアに比べ非常に大きなバッファー値を設定できるため、動作が安定している点はレコーディングにとって大変魅力的です。また、本場ドイツのクラシック音楽の録音現場において、同じドイツのブランドである RME と SEQUOIA のコンビネーションは良く見られる光景で、クラシック音楽編集に便利な機能を備えていることも特徴となっています。


本作では、5chサラウンド、HPL13 も配信。ぜひ、Auro 13.1 のエッセンスをご体感ください!


『月の沙漠~シルクロード 弦奏の旅路~』

アルバム情報

月の沙漠~シルクロード 弦奏の旅路~

 

シルクロード二千年の時間旅行

ササン朝ペルシアを起源とするアラブの楽器ウード。
魅惑の調べは時を超え、絹の道を東西に旅した。
ウード、リュート、ギター、琵琶の名手と歌が綴る饗宴! 

 

 

詳しくはこちらのページをご覧ください。

 

Moonlight Caravan

Moonlight Caravan

左から、
櫻田亨(リュート)
柴田杏里(ギター)
田原順子(琵琶)
大城みほ(ソプラノ)
常味裕司(ウード)

アーティスト・プロフィール

Oud: 常味裕司(YUJI Tsunemi)

日本のみならず、東アジア地域におけるウード演奏家のパイオニア、第一人者と称される。スーダンのウード奏者、故ハムザ・エル=ディン氏のもとで学び、1989年よりアラブ世界を代表するチュニジアのウード奏者、故アリ・スリティ氏に師事。帰国後は積極的な演奏活動を展開。ウードの魅力を伝え続けるとともに日本人ウード奏者の輩出にも寄与し、各ジャンルへ影響を与え続けている。全国各地でのライブ、コンサート出演のほか、都内各国大使館での演奏も多い。NHK『新・シルクロード』ではアラブ音楽の監修を行う。楽曲提供、レコーディングも多数あり、その稀有な存在はテレビ、ラジオ等でも多く取り上げられている。
http://www.oud.jp/

Lute: 櫻田亨(TORU Sakurada)

日本ギター専門学校卒業後、オランダ王立ハーグ音楽院でリュートを佐藤豊彦に師事。リュート属の撥弦楽器を幅広く演奏し、時代やその音楽にふさわしい使い分けを行っている。ガット弦を用いて歴史的な表現を引き出す演奏スタイルは世界でもまだ数少ない。また、伴奏者としての柔軟な対応力は多くの共演者から信頼を集めている。ソロCDに『やすらぎのガット』『皇帝のビウェラ・市民のリュート』(レコード芸術誌・準特選盤)、『パッヘルベル 恋人のため息』(同・準特選盤)、『テオルボの音楽』(同・準特選盤)がある。2017年発売の、佐藤豊彦・佐藤美紀との三重奏CD『ネーデルランドのリュート音楽』は、同・特選盤に選ばれた。リュート&アーリーギターソサエティ・ジャパン事務局長。
http://www.lutelute.com/

Guitar: 柴田杏里(ANRI Shibata)

マドリッド王立音楽院を主席で卒業。在西中、ホルヘ・アリサ、ナルシソ・イエペス、サインス・デ・ラ・マーサ、ホセ・ルイス・ゴンザレスの各氏に師事。1978年タレガ国際ギターコンクール1位。82年ホセ・ルイス・ゴンザレス国際ギターコンクール1位。98年11月にはブラジル政府より第6回ヴィラ=ロボス国際ギターコンクールの審査員として招聘され、同時にコンサートも行った。これまでに、ソロアルバム『エル・ラストロ』『パラ・ス・ノヴァ』『エル・メスティーソ』『王子のおもちゃ』を発表し、クラシックCDとしては異例のロングセラーとなった。伴奏者、アレンジャーとしての才能にも富み、弦楽器、管楽器、歌まで様々なユニットの編曲や伴奏を手がけ、古典から現代音楽に至るまでレパートリーは多彩で定評がある。優れた音楽性と天性のリズム感は聴く人を魅了し、世代を問わずファン層は厚い。

Biwa:田原順子(JUNKO Tahara)

小さなホールで客と語り合いながらのコンサートを好んで続ける琵琶奏者。『平家物語』を代表とする伝統的な語り物はもちろん、多くの創作語り物や現代音楽を演奏し、現代人の感覚にあった琵琶音楽を模索し続けている。 故・山田美喜子、山崎旭萃(人間国宝)両師のもとで筑前琵琶を習得。1982年、琵琶楽コンクール第1位。文部大臣奨励賞、日本放送協会会長賞等受賞。リサイタル、コンサートを各地で開催のほか、創作物の初演など新しい試みも積極的に行う。日本音楽集団団員として、国内はもとより世界各国での演奏活動に加え、79年「音楽之友社賞」「レミーマルタン音楽賞」、88年「松尾芸能賞」、90年「モービル音楽賞」を受賞。2005年『宮尾本・平家物語』全8章のCDをリリース。
http://naks.biz/biwa-jun/

Soprano:大城みほ(MIHO Oshiro)

武蔵野音楽大学声楽科卒業。プロ合唱団所属後フリー。各地のホール、音楽サロン等のコンサートに多数出演のほか、テレビ、ラジオ、CD、映画音楽、教科書教材等の制作にも多数参画。第九、メサイア等のソリストも務める。世界九カ国の歌を原語で演奏。ソロ、およびギターとのデュオで11回のリサイタルを東京にて開催。ウード奏者・常味裕司氏とのデュオ「UTAUD」ではアラブ音楽と日本古謡のクロスオーバー・クラシックを追求するなど演奏活動はアンサンブルを軸として幅広く展開。撥弦楽器をこよなく愛し、2012年より「月の沙漠コンサート」シリーズを企画、演奏、主宰。CDに『大和し美し』『エスパーニャ』『月に寄す』ほか。癒し系シルクヴォイスと172cmの舞台映えする容姿でファンを魅了し続けている。
http://www.oshiromiho.com/

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