グランドピアノ録音におけるマイク配置の研究:音楽に適した音色を求めて - 名古屋芸術大学、ベルリン芸術大学、東京藝術大学 共同研究プロジェクト - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
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導入事例

グランドピアノ録音におけるマイク配置の研究:音楽に適した音色を求めて

名古屋芸術大学、ベルリン芸術大学、東京藝術大学 共同研究プロジェクト

グランドピアノ録音におけるマイク配置の研究

2022年4月、ドイツのベルリン芸術大学ホールにて、名古屋芸術大学、ベルリン芸術大学、東京藝術大学の共同研究プロジェクトの収録が、5日間に渡り行われました。

この研究の目的は、グランドピアノの録音においてマイク配置による印象の違いを主観評価実験によって調査し、曲目や演奏スタイル、楽器の特徴に応じた収録方法を提案することで、最終的に音楽的に魅力ある音色でピアノの録音を行うことができるようにすることです。

この研究のため、グランドピアノ6台を、2人のピアニストが、時代の異なる7楽曲を演奏し、その演奏を24ポイントの位置から比較試聴できるように録音、その比較試聴音源がWEBページで公開されました。

ピアノ録音のマイキングを考察するヒントになることはもちろん、演奏者や奏法、ピアノの機種や鍵盤蓋の開閉、マイクの位置によってのピアノサウンドの聴こえ方の違いを比較できますので、ピアノ奏者やリスナーにとっても新しい発見となる内容です。

このプロジェクトで収録した試聴可能な比較音源は、マイキングの音源資料となるだけでなく、今回の音源をサンプルにした主観評価実験にも使用されます。

この壮大な研究プロジェクトの収録がどのように行われたのか、そして収録された音源の比較試聴WEBページでの試聴方法をご紹介します。

プロジェクトについて

このプロジェクトの発起人である長江和哉氏は、「人間の感性を元に、どのマイク配置が音楽的に魅力ある音色で録音できるかを解明・提案する」ことをゴールとして設定しています。

ホールでのグランドピアノ録音

グランドピアノは音の放射特性が非常に複雑で、奏者、調律、ホール音響、ホールでの楽器位置など様々な要素によって音色が大きく変化します。

録音を学ぶ時、ピアノの録音位置については手探り状態で学んでいくことが多く、資料となるサンプル音源を入手することは困難です。

そのためこのプロジェクトでは、ピアノに対して複数のマイクを配置し、同一空間におけるピアノごとに比較可能な音源資料が制作されました。

今回録音・制作された比較音源は、学生のための資料となるだけではなく、理想的なマイク配置を検討する主観評価実験で使用されるサンプルとしての側面を持ちます。

収録はベルリン芸術大学のホールを使用して、名古屋芸術大学の長江和哉氏、ベルリン芸術大学のトースタン・ヴァイゲルト氏、東京藝術大学の亀川徹氏、丸井淳史氏とベルリン芸術大学トーンマイスターコース学生、東京藝術大学の卒業生によって行われました。

Mo Zhou(ベルリン芸術大学)

ベルリン芸術大学
収録の様子

収録の様子

録音に使用した6台のピアノ

録音には、メーカーや機種の異なる6台のグランドピアノ(Steinway&Sons D274、Bösendorfer 290 "Imperial"、280VC、YAMAHA CFX、Steingraeber & Söhne Model E、C.Bechstein D 282)を使用しました。

注目すべきは、大屋根の角度はピアノの種類によって若干異なるということです。角度が異なるということは、ハンマーと弦から発せられた音が、どのように大屋根に反射しホールの中で伝搬していくかが異なり、マイクで収録する音に対しても同じことが起こると言えます。

比較試聴WEBページでは「Lid open or not」ページにて鍵盤蓋をつけたままの状態、取り外した状態、閉めた状態、半開の状態の音を聴き比べることができます。

ピアノの種類についてはこちら
▶︎ Piano Information

比較試聴WEBページで音源を聴く
▶︎ 収録音源の試聴方法

2人の演奏者と調律師

ベルリン芸術大学で学ぶ2人のピアニストのモ・ジョウ氏、太田糸音氏が、異なる時代の楽曲を7曲ずつ演奏しました。

同じマイクの位置、同じ楽器、同じ楽曲であっても、演奏者が異なればそのサウンドは大きく異なります。違うピアニストが同じ条件で演奏することで、録音にどのような差が出るかを比較することができます。

また、同じピアニストでも曲が異なると奏法が変わるため、その違いも興味深く聴き比べられます。

Mo Zhou(ベルリン芸術大学)

Mo Zhou
(ベルリン芸術大学)
太田糸音(ベルリン芸術大学・名古屋芸術大学)

太田糸音
(ベルリン芸術大学・名古屋芸術大学)

そして、ピアノ音楽に欠かせない重要な役割であるのが優れた調律師です。この収録では、ゲルト・フィンケンシュタイン氏ら2名の調律師がピアノの調律を担当しました。

ゲルト・フィンケンシュタイン氏ら2名の調律師がピアノの調律を担当

録音システム

マイクの位置によってどう聴こえ方が変化するのかを比較できるように全指向性マイクSchoeps MK2H 28本(マイク配置図A〜W)とダミーヘッドマイクNeumannKU100(マイク配置図X)を配置し、マイク・プリアンプからMADI回線でコントロール・ルームへ伝送、収録されました。

マイク配置図 上
マイク配置図 横
マイク配置図

28本の全指向性マイクSchoeps MK2Hを、55cm幅で24ステレオ・ペアとなるよう、異なる位置および高さに設置して同時収録。比較試聴WEBページではマイク配置図A〜Wそれぞれのマイク位置から音の違いを比較して聴くことができます。

26本の全指向性マイクを異なる位置と高さとなるように設置

26本の全指向性マイクを異なる位置と高さとなるように設置
Schoeps MK2H
Schoeps MK2H
Schoeps MK2Hを55cm幅の間隔で設置
Schoeps MK2Hを55cm幅の間隔で設置

ピアノの直接音と、空間で反射した間接音がどのような音かを聴く事ができるように、収録後にマイクの指向性を変更できるアンビソニックスマイクSennheiser AMBEO VR MICや、ヘッドホンで左右のみならず上下も含めた立体的聴取が可能なダミーヘッドマイクNeumannKU100も設置。

ダミーヘッドマイク NeumannKU100と、その後ろにアンビソニックスマイク Sennheiser AMBEO VR MICを設置

ダミーヘッドマイク NeumannKU100と、その後ろにアンビソニックスマイク Sennheiser AMBEO VR MICを設置
RME 12Micを4台を用いて48kHz 24bitで録音

RME 12Micを4台を用いて48kHz 24bitで録音

この収録では、マイクの録音にRME 12Micを使用しています。

長江氏は12Micの採用に際して以下のようにコメントされています。

今回のプロジェクトのテーマはマイクの位置となり、理想としてはマイク以降の部分は同じ特性で、サウンドの色付けが少ない機材を用いたいと思っていました。

今回使用した12Micは、私自身も2021年より所有しており収録機材として信頼しています。 また、ベルリン芸術大学も所有していることもあり、今回このように48ch分同一のHA ADCを用いて収録することができました。

私は2012年からMicstasyを使用してきましたが、12Micは、Micstasyと同様に簡単にすばやくファントム電源のオン・オフやHAのゲインを設定することができます。

比較試聴音源の聴きどころ

長江氏は今回のプロジェクトについて

「マイク配置の重要性をエンジニアやプロデューサーだけではなく、演奏者の皆さんにも知っていただきたいと考えており、HA ADCは影の存在となっていますが、収録したサウンドはマイク位置の違いをとてもよく表していました。

つまり、音色が良い位置のマイクは素晴らしいサウンドで収録でき、そうでない位置のマイクの位置はそのようなサウンドで収録することができました。

そういうことからも12Micは、サウンドの色付けが少なく、サウンドの変化も少ないのではと感じています。 今回の収録は48kHz 24bitで行いましたが、Web再生ページではインターネットスピードの関係により44.1kHz 320kbps mp3での試聴となります。

そのフォーマットになってもマイクの位置の違いが聴き分けられるということはとても興味深いと思います。

ぜひどの音色がその音楽にとってふさわしいかを考えていただきたいと思います。」

とコメントしています。

12Mic

比較試聴音源の試聴方法

このプロジェクトで収録した音源は、比較試聴WEBページから試聴することができます。
比較試聴は曲目ごと(作曲家の名前で表記)にページが別れています。
それぞれのページのA〜Xの24のマイク位置をクリックし、音源をスムーズに比較試聴することができます。

■比較試聴WEBページ
http://soundmedia.jp/nuaudktua/

トップページの読み方

トップページにある作曲者リストのリンク先に試聴ページがあります。

試聴ページ

①Comparision playback(比較試聴一覧)
ピアノの種類ごとにセクションが別れており、作曲者(曲目)別にリストになっています。

②ピアノの種類
ピアノの種類を記載しています。

例)Steinway & Sons D274
スタインウェイ&サンズ D274という機種のピアノで演奏した音源が、③に記載のリンクから試聴できます。

使用したピアノの種類はこちら、もしくは④Piano Informationを参照してください。

③作曲者(曲目)別リスト
作曲者(曲目)別に記載しています。
リンク先へジャンプすると音源が試聴できます。

例)Bach
バッハ作曲「Partita No. 2 in C Minor, BWV 826: I. Sinfonia」をリンク先で比較試聴できます。

試聴できる曲目は以下の通りです。

リストに記載の作曲者名 曲目
Bach Partita No. 2 in C Minor, BWV 826: I. Sinfonia
Beethoven Sonata No. 28 in A major, Op. 101
Mendelssohn Fantasie, Op.28, 3rd mov
Brahms Six Pieces for Piano Op.118, No.1 Intermezzo
Skrijabin Piano Sonata No. 5, Op. 53
Debussy Images II No. 1 Bells through the leaves
Prokofiev Etude op. 2,1
Lid open or not ピアノの鍵盤蓋を閉じた状態/開けた状態での比較試聴
Scale スケール演奏の比較試聴

④Piano Infomation(ピアノについて)
収録に使用した6台のピアノの詳細をリンク先ページに記載

試聴ページの読み方

「比較試聴WEBページ」トップページから作曲者名のリンクをクリックすると、曲目別の試聴ページにジャンプします。

このページでは以下の内容が確認できます。

①ピアノの種類
②作曲家:曲目
③演奏しているピアニスト名
④再生ボタン

試聴方法

試聴ページ④の▶︎Playをクリックするとロード画面になり、「Loading… %」と表示されます。
10秒程度で100%ロードされ、音源が再生されます。

再生画面上のAからYまでのいずれかの文字をクリックすると、その位置から録音した音源が再生されます。

再生画面の解説

⑤視聴したいマイク位置の選択
アルファベットA〜Yまで24の文字を選ぶと、この位置のマイクで録音した音源を再生します。
選択した文字が赤色になります。

⑥マイク位置の表示
再生しているマイクの位置を赤色で示します。

⑦停止ボタン
音源の再生を停止します。

⑧音量スライダー
スライダーを動かすことでボリュームを調整できます。

プロジェクト関連動画

共同研究プロジェクト「グランドピアノ録音におけるマイク配置の研究:音楽に適した音色を求めて」
The direct and indirect sounds of the Grand Piano
グランドピアノの直接音・間接音の視聴比較
The influence of the Lid
ピアノ鍵盤蓋の影響をSennheiser AMBEO VR Micで比較
The influence of the Lid : Frequency difference
ピアノ鍵盤蓋の閉開によるマイク位置ごとの周波数特性
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