RME導入事例
エンジニア/プロデューサーのミック沢口氏が主宰するレーベル UNAMAS から、ヴィヴァルディの「四季」を題材に作編曲家・土屋洋一によりサラウンド・アレンジされた弦楽四重奏を、バイオリン・竹田詩織(リーダー)、春日井久美子、ビオラ・飯野和英、チェロ・西方正輝といった新進気鋭のアーティストで構成された「The Quartet Four Seasons」によって演奏、24bit/192kHz サラウンド・ハイレゾ録音で収録された作品「The Four Seasons」が2014年6月20日にリリースされました。
今回の作品では、弦楽アンサンブル+ソロパートの多重録音を、理想的な音響特性を持つ軽井沢大賀ホールにてサラウンド(24bit/192kHz)収録。ジャズのレコーディングで卓越したマイク・アレンジ・テクニックを誇る沢口氏とRME Premium Recordingsでも高解像度の優れた録音が高い評価を受けている長江和哉氏がタッグを組み、クラシックのスタンダードである「四季」を題材にして斬新な切り口でアプローチした意欲的な作品となりました。コンデンサー/リボン/デジタルという3種類のマイクロフォンを使い分け、それぞれが持つ一番良いところを融合、昇華させ、素材としています。
また、アナログ・ケーブルを最小限にするために、多チャンネルのデジタル伝送規格であるMADIの光ファイバーによってモニター・ルームへ伝送。電源/ケーブル等周辺機材にも高品質の製品を導入し、音質の細部にもこだわったレコーディングが実現しました。さらに4Kカメラによるプロモーション・ビデオも同時に撮影が敢行され、音と映像の両面で次世代の「ハイレゾ」コンテンツを体感できる非常にチャレンジングな作品に仕上がっています。
今回のレコーディングでは、当日まで記録的な大雪により軽井沢の周辺の物流が寸断されており、録音の実施自体が危ぶまれていましたが、コンパクトな機材構成で高品位な収録を可能とするMADIシステムの恩恵を最大限に活用し、自家用車と新幹線での手荷物搬入で録音・撮影を敢行。交通を麻痺させた積雪が逆に外部からのノイズを完全に遮断して最高の録音環境が整い、まさに奇跡のレコーディングと呼ぶに相応しいものになりました。
─ Mick Sawaguchi(有)沢口音楽工房 代表 ─(ライナーノーツより抜粋)
アルバム・コンセプト
録音ステージングとミキシング
カルテットのメンバーは、ステージに円周上に配置して演奏しています。これはサラウンドMIXと2chステレオMIXを妥協せずに両立するための配置です。円周配置のメリットは、近接した4名がお互いの目線や呼吸を均等に感じて演奏できる点です。2ch MIXだけでもないし、コンサートでもないので、客席に向かって横一列配置に限定する必要はありません。もう一つのメリットは、均等に近接しているので4本のスポットマイクに相互のかぶりがきれいに飛び交います。この結果360度のサラウンド音場にスポットマイクを定位させても大変スムースなエンベロープを持った空間ができあがります。無理にMIXでリバーブを付加してエンベロープを作らなくても演奏の場で自然にできあがっている訳です。もう一つのメリットは、2chステレオとの両立性です。円周配置ですのでこれを2ch MIXで自由に定位を付けたい場合でも無理がありません。どのマイクも均等な情報を取り込んでいるからです。
マイクロフォン:
アンサンブル・スポット
Vl.1:Schoeps MK4 / AT-4081
Vl.2:Schoeps MK4 / AT-4081
Vla.:Schoeps MK4 / AT-4081
Vc.:Schoeps MK4 / AT-4080
アンサンブル・サラウンド
ステージ前方:DPA 4006
ステージ中央:Neumann D-01 / Neumann KM183D
ステージ後方:Sanken CO-100K
ソロ・パート
スポット:Sanken CO-100K / AT-4080 / Neumann M149
サラウンド前方:DPA 4006
サラウンド中央:Neumann D-01 / Neumann KM183D
サラウンド後方:Sanken CO-100K
マイクロフォンには、沢口氏定番のSanken CO-100Kを始めとするアナログ・マイクに加えて、今回は新たな試みとしてNeumann D-01およびKM183Dのデジタル・マイクを導入。ステージ中央のサラウンド成分の収録に使用されましたが、その圧倒的な解像度の高さに、沢口氏は新たな表現方法の可能性を見出されたようです。
マイク・プリアンプ:
マイク・プリアンプには、RMEのフラッグシップであるMicstasy Mと、標準でMADI接続に対応する新機種であるOctaMic XTC、そしてデジタル・マイク(AES-42)プリアンプであるDMC-842 Mが導入されました。OctaMic XTCには、マイク・プリでありながらMADIの任意のチャンネルをDAできるヘッドフォン端子が2系統搭載されており、今回はオーバーダブ時の演奏者のイヤーモニターと、ステージ上とコントロール・ルーム間のトークバック・システムに利用されました。今回のようなホールでのセッション録音では非常に有用なツールと言えます。
オーディオ・インターフェイス:
今回の収録は192kHz/24bitサラウンドという仕様に加え、アナログ・マイクとデジタル・マイクを並列で収録するという意欲的なプロジェクトのため、アナログ(Micstasy M + OctaMic XTC)とデジタル(DMC-842 M)それぞれのマイクプリからの2系統のMADI回線を、MADIface XTでバックアップ機であるMacBook Proに接続。さらに、MADIface XTのTotalMix FXで、2系統に分かれているMADI信号を16chにまとめて、3つ目のポートからメイン機となるMerging HORUS + Pyramixへ送られました。ステージ上とコントロールルームとのコミュニケーションは、MADIface XTに接続されたトークバックマイクとステージ上に配置されたOctaMic XTCにより実現。MADIface XTが、インターフェイスとしてだけでなくMADIのハブおよびルーターとしても活用されました。
今回の収録では、ハイレゾ・多チャンネル録音を実現するためにRMEのMADIシステムが採用されました。マイクプリアンプとして、フラッグシップ・モデルとなるMicstasy Mと、最新鋭のOctaMic XTC(トークバックや演奏者のモニタ用としても活用)がアナログ・マイク用に、DMC-842がデジタル・マイク用としてステージ脇に配置され、そこから光ファイバーのケーブルにより、遠隔にあるコントロール・ルームに設置されたMADIface XTにMADI伝送されます。 アナログ・ケーブルによる伝送とは異なり、MADIによるデジタル伝送ではケーブルを長く引き延ばしても音質の劣化が一切生じないため、マイクから極力短い位置でデジタル化(AD)された信号はそのままの鮮度を保ったまま、コントロール・ルームへ届けられます。 MADIface XTは、3系統のMADI入出力を搭載したオーディオインターフェイスであり、今回はアナログ・マイク、デジタル・マイクと、メインのレコーダーであるMarging Horusとの間で信号を受け渡しするルーターとしての役割も果たします。 これだけの規模の収録が、僅か5Uラック+ハーフラックの機材で実現するのは、まさにMADIを活用することの最大のメリットと言えます。
The Four Seasons プロモーション・ビデオをYouTubeで配信
192kHz/24bitのハイレゾ・サラウンドと並行して、4Kカメラにより撮影された「The Four Seasons」のプロモーション・ビデオとメイキング・ビデオがYouTubeで配信されています。YouTubeの4K再生に対応していますので、動画再生後、プレイヤー下部の「設定-画質」より「2160p 4k」を選ぶことにより現行フルHD(フルハイビジョン)の4倍の画素数となる4K画質でご覧になれます。
サラウンドは優れた表現媒体
沢口氏の言葉を借りると、ステレオは例えば「押し寿司」のように音場の情報を無理矢理2つのチャンネルに詰め込んでいるのに対して、今回のような5.0chのサラウンドでは、一つ一つのスピーカーから無理のない再生が可能になります。特に、今回の録音は大賀ホールの自然のままの響きを収録しているため、豊かな残響を濁らせることなく再生できるサラウンドは優れた表現媒体であり、ハイレゾの良さがサラウンドによりさらに高められます。Firefaceシリーズなどのマルチ・チャンネルに対応したRMEオーディオ・インターフェイスをお持ちの方は、ぜひとも本作品を体験してください。
「The Four Seasons」はUNAMASレーベルよりリリースされ、e-onkyo music / HQM Store / HIGHRESAUDIO.jp の各サイトからダウンロード購入頂けます。
ミック沢口 ─ プロデューサー、ミックス、マスタリング
1971年千葉工業大学 電子工学科卒、同年 NHK入局。ドラマミキサーとして「芸術祭大賞」「放送文化基金賞」「IBC ノンブルドール賞」「バチカン希望賞」など受賞作を担当。1985年以降はサラウンド制作に取り組み海外からは「サラウンド将軍」と敬愛されている。2007より高品質音楽制作のためのレーベル 「UNAMASレーベル」を立ち上げ、さらにサラウンド音楽ソフトを広めるべく「UNAMAS-HUG/J」を2011年にスタートし24bit/96kHz、24bit/192kHzでの高品質音楽配信による制作およびCD制作サービスを行う。2013年の第20回日本プロ音楽録音賞で初部門設置となったノンパッケージ部門2CHで深町純「黎明」(UNAHQ-2003)が優秀賞を受賞するなど、ハイレゾ時代へのソフト制作を推進している。
長江和哉 ─ アシスタントエンジニア、デジタル編集
1996年名古屋芸術大学音楽学部声楽科卒業後、録音スタジオ勤務、番組制作会社勤務等を経て、2000年に録音制作会社を設立。2006年より名古屋芸術大学音楽学部音楽文化創造学科 専任講師、
2014年より准教授。2012年4月から1年間、名古屋芸術大学海外研究員としてドイツ・ベルリンに滞在し、1949年からドイツの音楽大学で始まったトーンマイスターと呼ばれる、レコーディングプロデューサーとバランスエンジニアの両方の能力を持ったスペシャリストを養成する教育について研究調査し、現地のトーンマイスターとも交流を持ちながら、オーケストラから室内楽までの数々の録音に参加した。
圡屋洋一 ─ アレンジ
東京、渋谷に生まれる。20歳よりピアノを、その後作曲を始める。2011年東京芸術大学作曲科を卒業。”Cori Spezzati Nova”(5.1ch)が131st AES Convention New YorkのRecording Critiquesにてイーグルス、エアロスミス、スティーリー・ダンなど多くの著名アーティストのミキシングや音楽プロデューサーとしても知られるElliot Scheinerにより称賛を受け、数々のグラミー賞ノミネートアルバムを世に送り出している2LレーベルのMorten Lindbergをして「聴いたことの無い音楽を聴いた」と評される。翌年5.1ch楽曲制作コンテストに入賞(DTM MAGAZINE 2012年06月)2014年2月自身のサラウンド作曲集「The Universe for Surround UNAHQ2004」をUNAMASレーベルよりリリース。
The Quartet Four Seasons:
竹田詩織 ─ 第1ヴァイオリン
1988年生まれ。2010年東京藝術大学音楽学部器楽科ヴァイオリン専攻卒業。京都芸術祭「世界に翔く若き音楽家の集い」京都市長賞受賞、全日本学生音楽コンクール、日本クラシック音楽コンクール、横浜国際音楽コンクール、ルーマニア国際音楽コンクール等数々のコンクールに上位入賞、入選を果たす。大学在学時より、ソロ・オーケストラ・室内楽での活動の他、多数の著名アーティスト楽曲レコーディングやライブサポート等様々なフィールドで活動。自身がリーダーを務めるストリングスでの活動も多数。様々な音楽活動を経て、2012年より東京交響楽団ヴァイオリン奏者としてのキャリアをスタート。現在プロオーケストラ奏者としての顔の他に、その経験を生かした多彩な音楽活動を展開している。
春日井久美子 ─ 第2ヴァイオリン
1987年生まれ。2009年東京藝術大学音楽学部器楽科卒業後、スイスのカヤレイ・ヴァイオリン・アカデミーにてハビブ・カヤレイ氏の元で4年間研鑽をつみ、ディプロマを取得。改めて活動の場を日本に移す。大学在籍中よりソリスト、室内楽奏者、また様々なオーケストラやレコーディングに携わるなど、多岐にわたって精力的に活動している。春日井恵とともに定期的にデュオのコンサートを開催し、好評を博している。
飯野和英 ─ ヴィオラ
5歳よりヴァイオリンを始め、印田礼二、吉川朝子両氏に師事。18歳より東京音楽大学に入学。入学時にヴィオラに転向。兎束俊之、大野かおる両氏に師事。東京音楽大学在学中、東京音大シンフォニーオーケストラにて海外演奏旅行に参加。卒業後、東京芸術大学大学院音楽研究科ヴィオラ専攻修士課程に入学。川崎和憲氏に師事。芸大奏楽堂において、第38回、及び第40回室内楽定期に出演。2014年3月に卒業。サントリーホール室内楽アカデミー第二期フェロー。パブロカザルス国際セミナー等に参加。第8回ブルクハルト国際コンクール弦楽器部門審査員賞。第3回蓼科音楽コンクール弦楽器部門第3位。第12回日本演奏家コンクール弦楽器部門第2位(1位無し)。第11回大阪国際音楽コンクールage-U入選。
西方正輝 ─ チェロ
1989年千葉県出身。10才よりチェロを始める。チェロを鈴木典子、伊藤耕司、河野文昭、西谷牧人の各師に師事。第9回ビバホールチェロコンクール第一位をはじめ、多数のコンクール、オーディションで上位入賞。オーケストラとも多数共演、リサイタル、室内楽、TVドラマの音楽やメジャーアーティストのサポート等、幅広く活動している。東京芸術大学卒業、在学中に同声会賞受賞。同大学院修士課程修了。チェロアンサンブルXTCメンバー。