RME導入事例
世界初の24bit/192kHzサラウンド録音によるピアノJAZZアルバム「FOREST」が記憶に新しいUNAMAS-JAZZから、新たに24bit/192kHzのサラウンド録音による全編ドラムソロ演奏によるアルバム「Everything for drums」が登場しました。
Everything for drumsもFOREST同様にレコーディングから編集、配信までが一貫した192kHzで行われており、制作にはRMEのプロダクトが活用されました。2011年7月に都内スタジオにて行われたレコーディングの様子を、本作のプロデューサー沢口真生氏の解説を交えながらご紹介します。
本作のプロデューサー/エンジニアを務めたのは沢口音楽工房代表の沢口真生氏。氏は、本レコーディングについて以下のように語った。
「ドラムという楽器は、ほかの楽器に比べて音階が無い分、メロディを演奏するには、大変制約のある楽器です。Jazzという音楽でもその役割は、常にフロントラインを鼓舞するリズムサポートという立場にあり演奏の中で掛け合いという形でドラムソロがフィーチャーされるのが一般的です。しかし、ドラムを構成する各楽器は、シンバル、ハイハットといった高域楽器からスネア、タム、フロアタム、キックドラムまでの幅広い音域と、奏法もスティックによるアタック打法からブラシ、マレット、そして手を使ったハンド奏法まで実に多様な表現ができる楽器です。現代音楽でのPERCATIONという演奏でのアルバムはありますが、JAZZアルバム全編をドラムソロだけで構成するというアルバムは、近年ありませんでした。
UNAMAS-JAZZでは、このドラムがもつ多彩な表現を24bit/192kHzのサラウンド録音で制作したいと企画し、その重責を担ったのは、UNAMAS-JAZZ VOL.03でCDをリリースしているドラマーの深水洋さんです。ドラマーにとって全編ドラムソロだけのアルバムは、一度は挑戦したい目標でもあり、しかしその実現には、どれくらいの困難とリスクがあるかも十分承知しているはずです。しかし、入念な準備期間とコンセプトを固めて、レコーディングに臨みました。」
AM 10:00
レコーディングのセットアップを開始。今回のセットアップもFOREST同様にマイクからの音はスタジオ・コンソールを介さずに、持ち込んだマイク・プリアンプへと入力され、RME Fireface UFXのアナログ入力へ受け渡される。Fireface UFXと沢口氏のラップトップ・コンピュータはUSBで接続され、レコーディングはコンピュータ内で動作するDAW「Pyramix Native」にて行われる。コンディションの良い音を、ロスなくダイレクトに録音する、シンプルかつ理にかなった方法だ。Pyramix Native内の音声はFireface UFXを通して出力され、スタジオ・コンソールを経由して本日のためにサラウンド環境(5ch)で用意されたモニター・スピーカーにてプレイバックが行われる。
PM 1:00
オーディオ回線のチェックを済ませ、昼食休憩を取り終えたタイミングでドラマーの深水洋氏がスタジオに到着。レコーディング・ブースにドラムキットが運び込まれ、ドラムキットの組立とチューニングが開始された。ドラムキットの周囲を歩きながら綿密なマイキング(マイクのセッティング)を施す沢口氏に今回のマイキングについて解説をお願いした。
「サラウンドの音場、すなわちリスナーを取り囲む再生環境を有効に活かすために『リスナーがドラマー』という定位を前提にしました。すなわちドラムスのキットの上にサラウンド音場のスピーカ配置である5chの配置を想定したサラウンド・ワンポイント・マイキングをメインとしました。これにスタジオ全体の空気を再現するための4chアンビエンスマイクを付加しています。メインマイキングで採用したのは、東京芸術大学音楽環境創造科の亀川徹教授が考案した[オムニ8]というマイキングを採用しています。このマイキングは、主にクラシックの録音を前提に考案した方式で、これをJAZZのドラムという単一楽器で使用した初めての録音という面でも興味深いマイキングといえます。」
左からフロントのセンターにセッティングされたSHOEPS CMC6+MK8 双指向性カプセル。これは1本のマイクに2つのカプセルが搭載された双指向性マイクであり、ドラムの前後を見晴らすようにセッティングが行われた。中はキックドラム用に設置されたAUDIX D-6。キックドラム用の定番マイクであり、キックドラムの音圧にも負ける事無く鮮明かつタイトな音を収録可能だ。他、キックドラムには「漫才マイク」として有名なSONY C-38Bもセッティングされた。右はアンビエンス用にセッティングされたNeumann U-87Ai。ドラムキットを前後左右囲う様に4本が設置され、このアンビエンス用の4本はFireface UFXのマイクプリへと接続された。Fireface UFXにはRME独自の並列AD処理が施された最新鋭のマイクプリアンプが搭載されており、飛躍的な低ノイズとS/N比を実現している。楽器やボーカルでの使用はもちろん、今回のケースの様に「空気感を収める」アンビエンスにも最適といえる。
今回使用されたマイクおよび機材は以下の通り。
Everything for Drums 録音機材リスト
サラウンドメインマイク(オムニ8方式) | ・サラウンドアンビエンス |
・フロント | Neumann U-87Ai x 4 |
L:B&K 4011 |
・キックドラムスポット |
C:Shoeps CMC6+MK8双指向カプセル |
AUDIX D-6/SONY C-38B |
R:B&K 4011 |
・マイクプリアンプ |
・リア | RME Octamic Ⅱ / TLAudio A-1 |
Ls:B&K 4003 |
・オーディオインターフェイス |
Rs:B&K 4003 |
RME Fireface UFX |
・DAW | |
MERGING Pyramix Native |
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PM 2:30
全てのセッティングが完了し、レコーディング・ブースでは深水氏が黙々とリハーサルを続ける。深水氏はレコーディングの話を受けてから2ヶ月近い時間を準備に費やし「夢の中でもドラムを叩く日々だった」と、この前代未聞のレコーディングに挑む苦労を語った。
リハーサルを続ける深水氏に沢口氏が「一遍録ってみますか?」と問いかけ、一呼吸おいて「とりあえず」の返事でレコーディングが開始。スタジオに設置されたサラウンド・モニターからドラムの力強い音が流れ出し、現場は緊張した空気に包まれた。
数曲連続してレコーディングが終わると、深水氏もコントロール・ルームに来てプレイバックを確認する。ドラムの皮の張り具合、シンバルの細かな震え具合までも見えてくる濃密な音に浸っていると「CD(16bit / 44.1kHz)では余韻の音が切れてしまう。これ(24bit / 192kHz)はCDでは出せない音だよ」と沢口氏が満足そうに呟いた。また深水氏に対して「もっとサラウンドの醍醐味を活かした演奏を。例えば外側のシンバルを左右交互に叩くと、空間に広がりが生まれるから」と身振り手振りで説明を行い、プロデューサーとしての顔ものぞかせていた。
PM 7:40
深水氏が「ラストにもう一度」と言ってレコーディング・ブースに入った。そして10分後、演奏が終わりプレイバックの確認が行われた。「もう叩けないよ」と、疲れた体をソファに預けた状態で深水氏が笑い、本日のレコーディングが終了した。レコーディングされた音源は、前作のFORESTと同様に192kHzでの編集を経て、192kHzのままオーディオ・ファンに届けられる。
「リスナーがドラマー」
リスナーが演奏者の音場を体験できる意欲的な本作は、クリプトンHQMストアより好評発売中です。前作FORESTに続いて録音から編集、配信までもが一貫して24bit /192kHzで行われた本作品は、過去の作品を単にハイレゾ・フォーマットで焼き直しただけの作品とは違い、真のハイレゾ作品といえます。ドラムの多彩かつ豊かな表現、幅広い音域を圧倒的な情報量で楽しむ事ができます。
Fireface UCなどのマルチ・チャンネルに対応したRMEオーディオ・インターフェイスをお持ちの方は、ぜひとも本作品を体験してください。制作者が意図した本来のサウンドを、ほぼ同じクオリティで体験する事ができます。
深水 洋「Everything for Drums」 試聴・ご購入はこちら
96kHz/24bit配信「UNAMAS HUG サラウンドスケープ」記事はこちら (※サラウンド再生設定ガイドもご紹介しています)
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"Everything for Drums - 24 bit / 192 kHz Drum Solo Surround Recording"