「坂本龍一|音を視る 時を聴く」~後編~ 濱哲史氏が語る、インスタレーションにおけるRMEの優位性 - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
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「坂本龍一|音を視る 時を聴く」~後編~
濱哲史氏が語る、インスタレーションにおけるRMEの優位性

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」~後編~ 濱哲史が語る、インスタレーションにおけるRMEの優位性

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年
坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible...》2007年 ©2024 KAB Inc. 撮影:浅野豪

音楽家・アーティストである坂本龍一の大型インスタレーション作品による大規模個展「坂本龍一|音を視る 時を聴く」が、2024年12月21日から2025年3月30日までの約3か月間、東京都現代美術館にて開催されました。

会期中は記録的な来場者数を迎え、訪れた人々はRMEオーディオ・インターフェイスが音響演出に使用された多彩な作品展示空間を体験しました。

後編である本記事では、《TIME TIME》《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》のサウンド・プログラミングを手がける濱哲史氏のインタビューをお送りします。各展示におけるシステム構築や演出へのこだわりから、RME製品との出会いやその魅力について語っていただきます。

※ 前編では、《async–immersion tokyo》のサウンド・システム設計を担当したZAK氏へのインタビューをお届けしています。


《TIME TIME》は、今回が初公開となるインスタレーションで、坂本龍一氏と高谷史郎氏による舞台作品『TIME』をもとに、「坂本龍一|音を視る 時を聴く」のために新たに制作されました。

『TIME』は、坂本氏が生前に遺した最後の舞台作品で、2021年に世界最大級の舞台芸術祭「ホランド・フェスティバル」(オランダ・アムステルダム)にて世界初演されました。日本では、坂本氏の一周忌である2024年3月28日に新国立劇場で初演されています。水鏡のように舞台上で揺らめく水面と、精緻な映像を映し出すスクリーンに、ダンサーの田中泯、石原淋、そして笙奏者・宮田まゆみによるパフォーマンスが交差するシアターピースです。

《TIME TIME》は展示会場の入り口すぐの場所に設置されており、水面に浮かび上がるように配置された3面の大型スクリーンと、8.1chのスピーカーシステムによって構成されています。

「時間」をテーマに、夏目漱石の『夢十夜』、能の『邯鄲』のテキストと映像、さらに雨音や森の音といった自然環境音、そして笙の音が重なり合い、夢の中にいるような感覚とともに、時間の流れを静かに体感できる空間が創り出されていました。


- インスタレーション《TIME TIME》はどんな仕組みで動いているのですか?

『TIME』というシアターピースがあり、そこで使われた音と映像のシーン構成を組み替えたインスタレーションになっています。毎回ランダムにシーンの並びがシャッフルされていて、僕はそのプログラミングを担当しています。

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年《TIME TIME》

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年
坂本龍一+高谷史郎《TIME TIME》2024年 ©2024 KAB Inc.  撮影:福永一夫

 

- 展示室のスピーカー構成は8.1chになっていました

展示室には3つのスクリーンを設置し、それぞれの画面に対してフロント2ch、リア2chの4chサラウンドを構成するアイデアからスタートしました。それを最低限のスピーカーで構築するために前に4ch、後ろに4ch、最終的に8.1chの構成になっています。もともと『TIME』のシアターピースは7.1chで制作されていて、その構成を展開しています。

『TIME』では空間全体に様々な音があらゆる方向から聞こえてくるようになっていて、今回の展示も同様に、いろんな位置から音が聴こえてくるように工夫しています。

 

- 《TIME TIME》のサウンド・プログラミングにはどんな意識を持って取り組みましたか?

展示会場に入って最初に現れる作品なので、まずはオーディエンスを惹きつけたいという思いがありました。一方で、「静寂」を同時に感じられるようにしたいと考えていました。

《TIME TIME》の隣には、《water state 1》と《IS YOUR TIME》という、いずれも水盤を使った作品が配置されています。水面に水滴が落ち、波紋が広がってやがて静かな面に戻っていくように…。《TIME TIME》で使われている音も、全てが時間を感じさせる音だと僕は考えていて、そうしたイメージが伝わるように意識しながら制作していました。

 

- そのイメージを技術的にはどう表現していったのですか?

ヒントになったのは、高谷史郎さんとのミーティングの中で出た“最初の頃に戻ってほしい”という言葉でした。『TIME』のシアターピースは、公演を重ねるごとにパフォーマンスの内容に合わせて音の構成が少しずつ変化してきたのですが、高谷さんから「オランダの初演の頃、坂本さんが手を加えた最終版のプロジェクトファイルに一度戻ってみたら」と提案されました。最初の音構成を手がかりに再構築していきました。

技術的にはPro Toolsのセッション・ファイルから全ての音を抜き出し、それぞれの音がどの音量で、空間のどこに広がって鳴るかを、Maxのプログラムでコントロールしています。

 

- 使用する音響機材はどのように選定にしたのですか?

《TIME TIME》では、坂本さんが生前に使用されていた機材にこだわって選定しました。

スピーカーにはmusikelectronic geithain RL901K、サブウーファには同社のBASIS 14Kを使用しています。これは坂本さんがご自身のスタジオで普段から使われていた機材です。

オーディオ・インターフェイスにRMEを選んだのも、これまでのインスタレーション作品で坂本さんが選んで使用されていたからです。音質面のこだわりからこれらの機材が選ばれていたのだと思います。

 

《TIME TIME》ではFireface 800をそれぞれオーディオインターフェイス、DAコンバーターとして2台使用。

《TIME TIME》ではFireface 800をそれぞれオーディオインターフェイス、DAコンバーターとして2台使用。

 

- 《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》の音響も濱さんが担当されています。この展示はもともと2007年にYCAMで公開されたものですが、今回の展示は当時との変化はありましたか?

このインスタレーションでは、9つの水槽の脇にそれぞれの2本スピーカーが吊られていて、時には大きなサウンドを鳴らすシーンもあります。

会場によって展示空間を囲む様に4chのスピーカーを設置することもあるのですが、今回はその4chも加えた構成で、YCAMでの初回の展示に近い形になりました。

また、東京都現代美術館の展示室は天井が高くて響きがあるので、その響きに合わせて、ベストな音量になるように調整しています。坂本さんが現場で調整されていた際にも、空間ごとの響きに合わせて音量を設定をされていました。音の作品はどれも毎回、展示環境ごとに音量を細かく整えて、その空間に合うバランスに仕上げていきます。

《LIFE – fluid, invisible, inaudible…》は、2007年にYCAMで初公開された作品です。20世紀の音楽様式を精密にシミュレートした楽曲と、20世紀の歴史的事件の記録映像から構成された、坂本によるオペラ作品『LIFE』を解体・再構築したインスタレーションです。

展示室の中空に浮かぶ9つの水槽には霧が充満しており、その上から映像が投影され、刻々と姿を変えていきます。 各水槽にセットされたスピーカーからは多様な音が鳴り響き、会場全体で音が共鳴しているように感じられました。

水槽の霧はまるで地球の雲のようにも見え、それぞれの映像がうごめき続ける中、音が呼応したりしなかったりすることで、 地球上のさまざまな世界が同時進行しているかのような感覚を体験することができました。


- 《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》は場面によっては音量も小さくなり、意識して聴くように自然となる印象でした。

僕は「歩きながら音を聴く」インスタレーションだと思っています。もちろん水槽の下に入ってじっと聴くこともできますし、たとえば森を歩きながら耳を澄ませるといろんな音がいろんな場所から聴こえることに気づくように、水槽に近づいたり離れたりしながら音の変化を感じてもらえたらと思っています。

《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》は、この作品単体でも展覧会が成立するほど豊かな作品です。いろんな角度から見たり聴いたりしながら、ベストポジションを探してほしいですね。

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年 坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible...》2007 ©2024 KAB Inc.  撮影:丸尾隆一

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年
坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible...》2007 ©2024 KAB Inc. 撮影:丸尾隆一

 

- 水槽に映し出されている映像と音はリンクしているのですか?

音と映像がリンクしているパートと、ランダムに組み合わさるパートがあります。音のシーンは全部で40ほどあり、展示のたびに新しいシーンが追加されてきました。

僕はこの作品が巡回している段階で引き継ぐ形で参加したのですが、最初に観客としてNTT ICCの展覧会で体験した時、音と映像がものすごくリンクしているように感じられて感動したのですが、実際に引き継いだプログラムを見てみるとかなり自由な同期システムになっていて驚きました。

どのように音と映像が組み合わさっても成立するように、素材自体が厳密にデザインされていて、一つの決まった構成に縛られることなく、無限に自由な解釈を引き出す仕組みになっているんです。そうした構造にはとても大きな影響を受けました。

 

- 《async–immersion》の音響システム設計に濱さんが関わっているとZAKさんからお伺いしました。 《async–immersion》ではどんなシステムを構築されたのですか?

各曲のマルチトラックのサウンドファイルをプレイリスト化し、映像と同期して再生するプログラムを組みました。

初めて展示を行ったAMBIENT KYOTOでは、35chのスピーカーシステムを使用しましたが、今回は会場規模に合わせて13chへとスリム化しています。それに合わせて、RMEとMacのみというミニマムな機器構成で、システム・チューニングまで完結できる様プログラミングを設計し直しました。

ZAKさんは会場サイズに合わせて、IRCAM Spat RevolutionとPro Toolsを駆使してミックスをやり直されています。制作時には、ZAKさんのMacからAVB Toolを経由してMADIでUFX IIIに音を入力し、そこからシステム・チューニング機能を組み込んだMaxプログラムに音を送り、録音を行いました。今回、AVB Toolを初めて使用しましたが、大量のチャンネルを自由にルーティングできるうえ、機能も直感的で非常に扱いやすい印象を持ちました。

 

- 「坂本龍一|音を視る 時を聴く」で濱さんが関わっている作品では、すべてオーディオ・インターフェイスにRMEの製品を選定されています。RMEの製品にどんな印象をお持ちですか?

オーディオ・インターフェイスは、メーカーごとに何かしらの音のクセがあるように思うのですが、RMEはすごくフラットで、音を通すことでむしろよく聴こえる印象があります。僕の中では、RMEは“良いカメラ”のようなイメージです。良いカメラって、現実よりも少し美しく写してくれることがありますよね。RMEもそれに近くて、音を自然に、でも美しく感じさせてくれるように思います。

機能的な面でも非常に信頼しています。僕はプログラマーの性分で、合理的に考えることが多いのですが、RMEの製品は分かりにくいところがないのがとても安心します。必要な機能はすべて揃っていて、無駄なものがない。「こういうことが出来てほしい」と思うことは全てできるようになっている。

たとえばTotalMix FXではルーティングをどの様にでも自由に変更できて、細かなボリューム調整もすぐアクセスできる。そういう意味でも、本当に頼りになる存在です。

 

- 濱さんはいつからRME製品をお使いですか?

使い始めたのは、YCAMでサウンド・エンジニアをしていた2009年頃からです。当時YCAMにはFireface 800とFireface UFXが導入されていて、僕もよく使用していました。他社のオーディオ・インターフェイスも色々と使いましたが、音質と機能の両面でRMEは信頼できるのでよく選択していました。それで僕自身もFireface 802を購入して愛用しています。RMEの音には、インスピレーションが湧いてくるような美しさがあると思います。

先ほどお話ししたように、RMEは機能面でも非常に分かりやすく設計されているので、特に海外の美術館などで展示を巡回させる際には安心感があります。

どうしてもRME以外のオーディオ・インターフェイスしか使えない状況もあるのですが、そういった他社製品では、基本的な仕様—たとえば何チャンネル出力できるのか、どのOSに対応しているのか、ルーティングはどうするのか—といった情報が分かりにくく、メーカーに問い合わせないと分からないことも少なくありません。特にマルチチャンネルの機材になると、そのハードルは一気に上がります。その点、RMEはマニュアルやWebサイト上に明確に情報が記載されていて、不安がありません。そういう意味でも、RMEは普段からとても頼りにしています。

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」ではほとんどの展示でRMEを使用している。《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》ではRME Fireface 800をオーディオインターフェイス、Fireface UFX、Fireface 802 FSをDAコンバーターとして3台使用。

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」では多くの展示でRMEを使用している。《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》ではRME Fireface 800をオーディオインターフェイス、Fireface UFX、Fireface 802 FSをDAコンバーターとして3台使用。

 

- TotalMix FXはどのような場面で使っていますか?

主に、展示が始まってお客さんが入るようになってからの音量調整に使っています。

人が会場に入ると、無人で調整していた時と比べて音の印象が大きく変わることが多いんです。そういった場合、作品本体のプログラムには手を加えず、出音のボリュームだけをTotalMix FXで細かく調整することがよくあります。

今回の展示でも音量の微調整を展覧会がオープンしてから何度か行いました。

Maxで作品としてきちんと組んだ部分はキープしておいて、展示の状況に合わせて音量を微調整する場面で、TotalMix FXはとても便利なツールになっています。

 

- 先日の取材でZAKさんはRMEのメリットについて“安定性”とお答えしていました。その点に関して濱さんはどんな意見をお持ちですか?

全く同感です。僕自身、インスタレーションやパフォーマンスなどさまざまな現場で、これまでに何百回とRMEを使ってきましたが、世界各地でちゃんと状態の良いものが届くし、万が一「もう一台必要」というハードな状況になっても、すぐ入手できるという点もRMEを選ぶ大きなメリットです。

実際、どの国でオーダーしても、レンタル会社やミュージシャンがRMEを持ち揃えているのを見ると、「やっぱりRMEが選ばれているんだな」と実感します。

 

- 改めてRME製品の魅力について教えてください。

まず第一に、音質の良さです。そして次に、機能面において“必要十分”であることです。必要な機能が完璧に揃っているのと同時に、不必要な機能もついていないという点がとても気に入っています。機能の多さはクリエイティビティとは関係がなく、むしろ邪魔にもなる部分だと思っていて、僕は「これさえあればOK」というスタンダードを指向した機材のほうが信頼できるし、好きです。

そういう意味で、RMEは質実剛健という言葉が思い浮かぶツールで、しっかり設計されたプロダクトだと思います。僕はRME一択です。


前編では、《async–immersion tokyo》のサウンド・システム設計を担当したZAK氏へのインタビューをお届けしています。

会場ごとに異なる音響空間への対応や、坂本龍一氏の音楽と向き合って生まれた音作りの背景が語られています。まだお読みでない方は、ぜひそちらもご覧ください。

濱哲史濱哲史

アーティスト・プログラマー・サウンドエンジニア。コンピュータ・プログラミングを駆使し、サウンド、映像、インスタレーションを制作。

坂本龍一、大友良英、高谷史郎、池田亮司、クリスチャン・ボルタンスキーをはじめ、多様なアーティストのインスタレーションやシアターピースの制作に携わる。2018年よりアーティストグループ「ダムタイプ」のメンバーとして活動。

坂本龍一氏が手がけた作品では、インスタレーション《TIME TIME》《async-immersion》《Dumb Type 2022》《IS YOUR TIME》《Sensing Streams》《LIFE-WELL》《water state 1》《Forest Symphony》、シアターピース「TIME」、コンサート「KAGAMI」「Fragments」「dis・play」「async at the Park Avenue Armory」などに参加。

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」は、2000年代より音を展示空間に立体的に設置する試みに取り組んでいた坂本龍一の作品を一堂に介した大規模な展覧会です。

坂本作品の多くに関わってきた高谷史郎との共作である5つの作品《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》、《TIME TIME》、《water state 1》、《IS YOUR TIME》、《async–immersion tokyo》に加え、タイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンとの《async–first light》、《Durmiente》、2000年代前半より坂本と作品制作を手掛けてきた電子音楽家のカールステン・ニコライの作品に坂本の音楽を用いた《PHOSPHENES》、《ENDO EXO》、真鍋大度との共作であり電磁波を捉えたセンシング・ストリームズの最新作《センシング・ストリームズ 2024―不可視、不可聴(MOT version)》、「霧の彫刻」で知られる中谷芙二子と高谷史郎との共作《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662、岩井俊雄との音楽と映像のコラボレーションによるアーカイブ展示作品《Music Plays Images × Images Play Music》が展開されました。

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