Danteネットワークでシステム構成されたライブ会場の現場では、ほとんどのシチュエーションでFOHがクロック・マスターとなっています。録音する側や中継、配信する場合にはそのマスター・クロックをもらって運用する事になりますが、多くの場合中継や配信のMADIシステムの中にもマスター・デバイスが存在するため同期が取れなくなるケースがあります。現実問題としてFOHをスレーブに設定してもらうなどのリクエストは現場では受け付けてもらえないでしょう。
この二つのシステムを接続するためには、アナログに一旦変換して縁切りするか、サンプルレート・コンバーター(以下、SRC)を使ってクロックの縁切りをする方法があります。
このチュートリアルでは、スイスのプロ音響機器メーカーAppsys ProAudio社製「MVR-64 multiverter(以下multiverter)」と「SRC-64(サンプルレート・コンバーター・オプション)」を使ってDanteシステムとMADIシステム2つのマスター・クロックを両立させて、録音、中継、配信する方法を紹介します。
上の図のように、会場の音声はスイッチング・ハブを中心に接続されたDanteシステム内のステージ・ボックスから受け取り、追加のアンビエント・マイクが追加されます。録音と配信/中継にはこのアンビエント・マイクの音声を追加する必要がありますので、Fireface UFX+でMADI回線に統合させて、中継車へと送ります。
FOHがクロック・マスターに設定されており、一方で中継車にはワードクロック・モジュールもしくは中継車内のFOHがマスターになっています。
Dante信号をSRC-64を搭載したmultiverterを介すことで、サンプルレート・コンバーターを経由するため、DanteシステムとMADIシステムはそれぞれ独立したクロック・マスターを維持することができます。
Dante録音セットアップガイドで説明される通りDanteシステムに接続する前に接続するデバイスの設定を確認することをお勧めいたします。
multiverterの本体クロックを「Dante」に設定し、サンプルレートをDanteシステムに合わせます。
Dante Controllerを起動して「Preferred Master」のチェックが外れていること、サンプリングレートがDanteシステムとマッチしていること、リダンダント設定が正しく設定されているかを確認します。
上記の確認ができたら、multiverterとPCをスイッチング・ハブに接続します。
まず、Sync状態を確認し、ステージ・ボックスからの信号をDante Controller上でmultiverterへルーティングします。
次に、multiverterでSRCの設定を行います。
multiverterのウェブ・ブラウザを用いたリモート・コントロールが便利です。
Danteクロック・マスターとMADIシステムのクロックの縁切りは、multiverterのSRCで行われます。
multiverterでは本体が使用する同期クロックと非同期のクロックを使用可能です。先に設定した「Dante」に本体は同期しているので、SRCの非同期のクロックを設定します。
SRCのOutputは「MADI Optical」を選択し、Clock sourceは中継車がクロック・マスターになっているため「MADI Optical」に選択し、SamplerateをMADIシステムに合わせます。
設定が確立されるとStatusが「Locked」に変わります。
この状態でDanteネットワークと、MADI Opticalで接続された中継/配信のMADIシステムのクロックは縁切りされました。
multiverterと中継車のMADI Opticalの接続では、SRCで使用するクロック信号をもらうためにIN/OUTの両方を接続します。
次にFireface UFX+の配線を行います。
Danteネットワークに接続されたmultiverterに、収録用のFireface UFX+をMADIコアキシャルで接続します。
Fireface UFX+のクロックは、Danteに同期したmultiverterに対してスレーブに設定します。
収録用に接続されたFireface UFX+のマイク入力へ、アンビエント収録用のマイクを接続することで、PA信号とアンビエントを合わせて録音することができます。
Fireface UFX+で追加されたアンビエント・マイクの信号を中継車へ共有する場合があります。
入力されたアンビエント信号をTotalMix FXで、ダイレクトにMADI回線へルーティングします。これによりアンビエント・マイクの信号がUFX+からMultiverterのMADI入力へと送られます。
TotalMix FX画面にて、アンビエント・マイクの接続された入力チャンネルをFireface UFX+のMADI出力チャンネルへルーティングします。最下段のハードウェア出力のMA61/62を選択した状態でMic 9/10のフェーダーを0まで上げます。
この時、TotalMix FX内のレイテンシーは限りなくゼロに近いため、遅延を計算する必要はありません。
次にFireface UFX+のTotalMix FXからのアンビエント信号をmultiverterでDante信号と融合し、MADIで出力して中継車に送ります。
multiverterのウェブ・リモートのROUTING画面でこの設定を行います。
マトリックス画面が表示されますので、ステージ・ボックスからの信号であるDante入力1〜60を中継車に接続しているMADI Opticalの1〜60にルーティングします。
Fireface UFX+からのアンビエント・マイク信号であるMADIコアキシャル61/62を、中継車に接続しているMADI Opticalの61/62にルーティングします。
TIPS:サンプルレート・コンバートされて同期している信号はこのROUTING画面上ではオレンジ色に表示されます。
以上の設定で、Danteシステムとクロックの縁切りされた信号がMADI中継/配信システムへ送出されます。DanteのPAとMADI中継/配信システムが混在したセットアップは終了です。