業務仕様に対応するオーディオ機器と民生機を接続する場合、適切なレベルで機器同士を接続しないと、出力側の機器でメーターが適切に振れているのに入力側の機器で音が歪んでしまったり、アンプに音を送る機器からの信号が小さすぎることでアンプのボリュームを不必要に上げてしまいノイズが大きくなる原因となります。
本ガイドでは、HiFiシステムのアナログ入力にADI-2 DAC FSを接続する際に、正しい信号レベルで接続する方法を解説します。それ以外の製品の場合でも設定方法が異なりますが、信号レベルを合わせる考え方は同じですので、ぜひ参考にしてみてください。
音声には小さな音から大きな音までダイナミクスがあり、さらに楽曲ごとにレベルも違います。そのため、機器同士で音声を送受信する際に、「大体このくらいの音量(電圧)の信号で受け渡ししましょう。」という基準レベル(Reference Level)が定められています。
一般的に、民生用機器では-10 dBV(0.3162 Vrms)、業務用機器では+4 dBu(1.228 Vrms)が基準レベルとして使用されています*。
民生用機器同士を接続する場合は、メーカーによって差があるものの、入力と出力の基準レベルが-10 dBV付近で統一されているので、例えばCDプレイヤーとプリメイン・アンプを接続する時はあまり基準レベルを気にせずに接続できます。
しかし、業務仕様にも対応したオーディオ機器と民生機器を接続する時には適切なレベルで信号を受け渡しするために基準レベルを適切に合わせる必要があります。
* 民生機と業務機の基準レベルについてはこちらの記事をご覧ください。
ADI-2 DAC FSのアナログ出力には、業務用、民生用関わらず、接続先のオーディオ機器に合わせて最適なレベルを送れるように、基準レベルを切り替える機能があります。
RCA出力の場合:-5 dBu、+1 dBu、+7 dBu、+13 dBu
ADI-2 DAC FSからデジタルの最大レベルである0 dBFSの信号を出力する時に、RCA端子から出力されるアナログ信号レベルを上記の値から選択できます。
XLRバランス出力の場合:+1 dBu、+7 dBu、+13 dBu、+19 dBu
XLRバランス出力の基準レベルの設定値はRCA出力と同じですが、実際に出力されるレベルは6 dB高く出力されます。
ADI-2 DACやADI-2 Pro、Fireface UCX II、Babyface Pro FSなどのRMEインターフェイスで選択できる出力基準レベル値はそのまま最大レベルを表します。
つまり、+13 dBuの基準レベルを選択した場合、ボリューム・ノブやフェーダーが0の状態でデジタルの最大レベルの0 dBFSの信号を再生すると、アナログ出力されるレベルは+13 dBuになります。技術仕様では以下のように記されます。
出力レベル:+13 dBu @ 0 dBFS
(0 dBFS再生時に+13 dBu のレベルを出力)
一方、Fireface UC/UCX/UFX/802/UFX II/UFX+など、基準レベルと最大レベルの間に予備のレベル(ヘッドルーム)が追加されていて、基準レベル = 最大レベルではない機種もあります。以下の仕様では、+4 dBuの基準レベルを選択すると、デジタルの最大レベルの0 dBSの信号を再生した時に+13 dBuのアナログ信号が出力されます。+4 dBuの基準レベルに9 dBのヘッドルームが追加されていることになります。
出力レベル:0 dBFS @ +4 dBu:+13 dBu
(0 dBFS再生時に+4 dBuの基準レベルで+13 dBuのレベルを出力)
お使いのインターフェイスの出力レベルや入力レベルを設定する際には、ヘッドルームの有無を考慮する必要があります。お使いの製品の技術仕様、ユーザーガイドの「アナログ出力」の章をご確認ください。
また、アナログとデジタルのレベル定義の違いや、民生機と業務機の最大入力レベルの違い、ヘッドルームの詳細についてをこちらの記事で解説しています。
ADI-2 DACとプリアンプを接続した際に、「プリアンプでボリューム操作する場合」、「ADI-2 DAC FSでボリューム操作する場合」 の、2通りのレベル設定方法を解説します。
ADI-2 DAC FSをホームオーディオの中核として使用
一般的な民生用プリアンプでは、適切な基準レベルを設定するために必要な最大許容入力電圧の値が表記されていない場合があります。しかしながら、CDプレイヤーやネットワーク・プレイヤーなどをそのまま接続して最適な信号レベルで受け渡しできるように設計されていますので、ADI-2 DACの最大出力レベルも民生機と同じになるように設定して固定し、プリアンプ側でボリュームをコントロールします。
CDプレイヤーなどの民生機器の最大出力レベルは、多くの場合2.0 Vrms 〜 2.2 Vrms(=+8.239 〜 9.067 dBu)に設定されています。よって、ここでは以下の手順のようにAuto Ref Level(自動基準レベル)機能をオフにして、手動でADI-2 DACの最大出力レベルを8 dBuに設定します*。
*dBu換算については「VrmsとdBuについて」をご参照ください。
*その他の出力レベル設定については「2.0 Vrms以外の出力レベルについて」をご参照ください。
*XLR端子はRCA端子より出力されるレベルが6 dB高い
この設定でパソコンの音楽再生ソフトウェアまたはDACのデジタル入力に接続された機器をフルボリュームにして音楽を再生してください。音楽を再生した時に、プリアンプのボリューム位置に対して通常より音が小さい、または大きい場合はボリュームを調整してから再度固定します。ボリュームは0.5 dB単位で微調整が可能です。
以上で出力レベルの設定は完了です。以降の音量の調整はプリアンプのボリュームで行います。
5バンドEQやBass/Trebleを使用すると、実際の出力レベルは変化します。また、極端にEQを上げると、デジタル・レベルが高くなり、オーバーロードする場合があります。オーバーロードは出力レベル・メーターが赤くなり簡単に確認できますので、その場合はボリュームを少し下げてください。
お使いのオーディオ・プリアンプの入力レベルが2.0 Vrms以外のレベルを受け入れる場合は、仕様に合わせて0.5 dB単位で最適なレベルを出力できます。
例えば、接続先のプリアンプが2.5 Vrms(8 dBV、+10.2 dBu)のレベルを受け入れる場合、ADI-2 DAC FSの基準レベルを+13 dBu、ボリューム・ノブの値を-3 dBに設定すると、ADI-2 DACから最大+10 dBuのレベルを出力できます。
以下はADI-2 DACの主な出力レベルの設定例です。XLRは基準レベル値より+6 dB高く出力します。(下記表には、RCAとXLRそれぞれのレベル設定を記載)
表1
接続先の機器の最大入力レベル | ADI-2 DAC FS基準レベル設定 | VOLUMEノブ位置 Auto Ref Levelオフ |
出力レベル |
---|---|---|---|
4 Vrms (12 dBV、+14.2 dBu) | +13 dBu | RCA +1 dB XLR -5 dB |
+14 dBu |
3.5 Vrms (10.9 dBV、+13.1 dBu) | RCA +13 dBu XLR +7 dBu |
0 dB | +13 dBu |
3 Vrms (9.5 dBV、+11.7 dBu) | RCA +13 dBu XLR +7 dBu |
-1.5 dB | +11.5 dBu |
2.5 Vrms (8 dBV、+10.2 dBu) | RCA +13 dBu XLR +7 dBu |
-3 dB | +10 dBu |
2 Vrms (6 dBV、+8.2 dBu) | RCA +13 dBu XLR +7 dBu |
-5 dB | +8 dBu |
1 Vrms (0 dBV、+2.2 dBu) | RCA +7 dBu XLR +1 dBu |
-5 dB | +2 dBu |
0.775 Vrms (-2.2 dBV、0 dBu) | RCA +1 dBu XLR -5 dBu |
-1 dB | 0 dBu |
0.5 Vrms (-6 dBV、-3.8 dBu) | RCA +1 dBu XLR -5 dBu |
-5 dB | -4 dBu |
0.315 Vrms (-10 dBV、-7.8 dBu) | -5 dBu | RCA -3 dB XLR -9 dB |
-8 dBu |
交流電圧のエネルギーを表す単位で、音響機器では入出力レベルを表す単位として使用されています。多くの場合、民生用機器ではVrms(実効値電圧)、業務用機器ではdBuが用いられています。dBuは0.775 Vrmsを0 dBの基準とした電圧比を表す単位です。本ガイドでは、VrmsからdBuへの変換にはAnalog Devicesのユーティリティーを使用しています。
注意1:
プリアンプの仕様については、お使いの機器の技術仕様をご確認ください。機器によっては、機器の出力が歪まないで扱える最大レベルを示す最大許容入力電圧が公開されている場合があります。DAC側の出力を設定する際には、オーディオ・プリアンプの最大許容入力電圧を超えないようにご注意ください。特に記載がない場合には、DAC側の出力が2.0Vrms 〜 2.2Vrmsを超えないように設定します。入力感度(プリアンプの出力が定格出力になる時の入力電圧)と最大許容入力電圧(プリアンプの出力が歪まない最大の入力レベル)とは異なるのでご注意ください。
注意2:
5バンドEQやBass/Trebleを使用すると、実際の出力レベルは変化します。また、極端にEQを上げると、デジタル・レベルが高くなり、オーバーロードする場合があります。オーバーロードは出力レベル・メーターが赤くなり簡単に確認できますので、その場合はボリュームを少し下げてください。
以下の手順では、プリアンプのボリュームを固定して、ADI-2 DAC FSでボリュームを操作します。
ADI-2 DAC FSでボリュームを操作する事で、入力ソースの切り替え、RMEのこだわりが詰まった独自のラウドネス機能やBass/Trebleなどの細かな補正機能の調整など、様々な機能を本体ではもちろん、リスニング・ポジションからのリモコン操作も可能になります。
また、出力レベルに応じて最適なS/N比になるように基準レベルを自動選択するAuto Ref Level機能を備えており、基準レベルを意識することなく適切な設定で好みのサウンドを楽しめます。
※XLR端子とRCA端子で出力レベルが6 dB変わるため、設定例1と同様に、接続端子と接続先の機器に合わせて最大出力レベルを調整してください。
ADI-2 DACでボリューム操作する場合は、お使いのプリアンプ(プリメイン)の最大許容入力電圧(最大入力レベル)を超えない範囲でADI-2 DAC FSでボリュームの操作を行う必要があります。最大入力レベルとは機器の出力が歪まないで扱える最大レベルのことです*。
例えば、最大入力レベルが2.5 Vrms (8 dBV、+10.2 dBu)の機器と接続する場合は、ADI-2 DACの出力が10 dBuを超えない範囲でボリューム操作を行います。(接続先の機器の最大入力レベルとADI-2 DACのボリューム値については、表2参照)
本手順を行う際には、お使いの機器の最大許容入力電圧(最大入力レベル)を取扱説明書等でご確認ください*。仕様が確認できない場合は、このガイドに従って最大+8 dBuまでの範囲でボリューム操作を行ってください。
*最大許容入力電圧(プリアンプの出力が歪まない最大の入力レベル)と入力感度(プリアンプの出力が定格出力になる時の入力電圧)とは異なるのでご注意ください。
以上で設定は完了です。ADI-2 DACでのボリューム調整は-5 dBrまでの範囲で行います。接続先の機器の最大入力レベルが分かる場合は、以下の表を参考にし、同じ要領で最大入力レベルを超えない範囲でADI-2 DACのボリュームを上げます。プリメインアンプのボリュームを大きく設定するほど、ADI-2 DACでボリューム調整できる範囲は広くなります。Auto Ref Level機能によりADI-2 DACからはどの音量でも常に最適の基準レベルで信号が送られます。
表2
接続先の機器の最大入力レベル | ADI-2 DACの 最大出力レベル |
RCA接続のボリューム値 dB relative:+13 dBu に対しての比較値 |
XLR接続のボリューム値 dB relative:+19 dBu に対しての比較値 |
---|---|---|---|
4 Vrms (12 dBV、+14.2 dBu) | +14 dBu | +1 dBr | -5 dBr |
3.5 Vrms (10.9 dBV、+13.1 dBu) | +13 dBu | 0 dBr |
-6 dBr |
3 Vrms (9.5 dBV、+11.7 dBu) | +11.5 dBu | -1.5 dBr | -7.5 dBr |
2.5 Vrms (8 dBV、+10.2 dBu) | +10 dBu | -3 dBr | -9 dBr |
2 Vrms (6 dBV、+8.2 dBu) | +8 dBu | -5 dBr | -11 dBr |
1 Vrms (0 dBV、+2.2 dBu) | +2 dBu | -11 dBr | -17 dBr |
0.775 Vrms (-2.2 dBV、0 dBu) | 0 dBu | -13 dBr | -18 dBr |
0.5 Vrms (-6 dBV、-3.8 dBu) | -4 dBu | -17 dBr | -23 dBr |
0.315 Vrms (-10 dBV、-7.8 dBu) | -8 dBu | -21 dBr | -27 dBr |
DACの出力レベルがオーディオ・プリアンプの最大許容入力電圧(最大入力レベル)を超えないようにご注意ください。
注意2:
5バンドEQやBass/Trebleを使用すると、実際の出力レベルは変化します。また、極端にEQを上げると、デジタル・レベルが高くなり、オーバーロードする場合があります。オーバーロードは出力レベル・メーターが赤くなり簡単に確認できますので、その場合はボリュームを少し下げてください。
ADI-2シリーズにはボリューム・ノブのゲイン値と基準レベルの関係をDSPで判断し、常に最適なSN比が得られるように基準レベルを高品質アナログ回路で切り替えるAuto Ref Level機能があります。
例えばADI-2 DACのRCA出力で基準レベルを+13 dBuにして、ボリューム・ノブを-20 dB下げた場合、+ 13 dBu - 20 dBで- 7 dBuのレベルを出力します。この時の信号のSN比は、120 dB(+13 dBu時のRCA出力のSN比) - 20 dBで100 dB(RMS unweighted)になります。
もちろん+13 dBuの設定のままでノイズが聴こえる訳ではありませんが、基準レベルを-5 dBuにしてボリューム・ノブを-2 dB下げると、-5 dBu - 2 dBで同じ「-7 dBu」の出力レベルに対して、SN比は112 dB(-5 dBu時のRCA出力のSN比) - 2 dBで「110 dB(RMS unweighted)」になり、+13 dBuに設定したときよりもSN比を10 dB改善できたことになります。
Auto Ref Levelはこれらの最適な基準レベルを自動で選択するので、ユーザーが基準レベルを意識することなくボリュームを変更しても、常に最適なSN比を保ってくれます。
参考)ADI-2 DAC FSのRCA端子の技術仕様
基準レベル変更のしきい値は、EQを使用した時の歪みの発生を避けるために、EQゲインを踏まえた上で設定されています。
ADI-2 Pro FS R Black Edition | ADI-2 DAC FS |
2チャンネル・ハイエンドAD/DAコンバーター | PCM 768kHz / DSD 11.2MHz 対応 リファレンス・クラス DAコンバーター |
イベント情報、サポート情報、技術情報、お得なキャンペーン情報をはじめ、アーティストのインタビューや現場レポートなど、お役立ち情報を満載でお届けします。さらにはメールニュース限定の情報も!ぜひご登録ください。