ADI-2/4 Pro SEレビュー 麻倉怜士氏 - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
RME Users

導入事例

ADI-2/4 Pro SE Review by Professionals :
オーディオ・ビジュアル評論家 麻倉 怜士氏

ADI-2/4 Pro SEレビュー 麻倉怜士氏
高い解像度と圧倒的な機能群を備えるハイエンド・コンバーターとして革新的な進化を遂げてきたRMEのADIシリーズに、新たなマスターピースとして登場したADI-2/4 Pro SEを、麻倉怜士氏、山之内正氏、生形三郎氏の3人にレビューいただきました。

"すべての音楽ファンのためのDACになった"

ADI-2/4 Pro SEの総合インプレッション

音の芯をたいへんしっかりと描くDACだ。音の中核の回りに剛毅な響きを配し、ディテールに至る音のグラテーションがたいへん豊潤で、音の情報量がひじょうに多い。それも周波数特性、ダイナミックレンジ特性、音のスピード(立ち上がり/立ち下がり)……といったオーディオ的なスペックが当然、十全のクオリティであることに加え、音楽性が実に豊かなのが前作のADIとの違い。表情の豊かさ、表現力の豊穣さ、音楽的なボキャブラリーの豊富さ……が、新しい美質と聴く。これまでは、まさに録音機メーカーが作ったDACというイメージで、モニター的な正確な音の再生にこだわっていたが、本機は「音再生機」から「音楽再生機」に進化したと聴いた。では、ここからさまざまなジャンルのハイレゾをリポートする。

ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート2023

フランツ・ウェルザー=メスト&ウィーン・フィル
flac 96kHz/24bit
作品詳細はこちら

フランツ・ウェルザー=メスト&ウィーン・フィル/ニューイヤー・コンサート2023。ADI-2/4 Pro SEは、新年のうきうきとした寿ぎ気分、さらには現代的に言うと、コロナが明けて、いつものようにたくさんの聴衆をムジークフェライン・ザールに迎えることができ、たいへん嬉しい---という、二重の喜びを聴かせる。もちろん音場細部の描写、ダイナミックレンジの広さ……というオーディオ的な美質もぬかりなく備え、さらに躍動感、伸びのクリヤーさ、音色のカラフルさ……という、音楽を愉しく聴くエッセンスが濃厚な、エモーショナルな鳴り方なのである。単に音を再生するだけでなく、そこに生命力を付加し、音楽をより深く聴かせてくれた。

ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート2023

チャイコフスキー:バレエ組曲「くるみ割り人形」
『Gabi Hartmann』

グスターボ・ドゥダメル指揮ロサンゼルス・フィルハーモニック,
ドイツ・グラモフォン
flac 96kHz/24bit

作品詳細はこちら

まことにチアフルな「くるみ割り人形」だ。音色が明るく、躍動的。ディテールの表情の細やかさ、弦の倍音の豊潤さはまさに刮目。低域から高域まで音が厚く、レンジが広く、透明感が高い。解像度が高いというだけでなく、音色が清涼で、まことに瑞々しいのである。音調には力感があり、ハイコントラストで鮮明。金管の華やぎも愉しい。録音会場のLAのウォルトディズニー・コンサートホールのリッチなソノリティにも耳を奪われた。音場に華麗な空気が舞っている。音が発せられてから広い会場に拡散していく様が手に取るように分かる。右側のハープ、中央奥のクラリネットなどの距離感も臨場感的。本音源はADI-2/4 Pro SEの音楽、音場再現力がいかに素晴らしいかを雄弁に述べている。

チャイコフスキー:バレエ組曲「くるみ割り人形」
『Gabi Hartmann』

ガビ・ハルトマン
flac 44.1kHz/24bit

作品詳細はこちら

フランスのジャズ/POPシンガーのガビ・ハルトマンの最新作。ADI-2/4 Pro SEで聴くと、音響的にも音楽的にも、ひじょうに解像度が高い。クリヤーに音場を見渡せ、ディテールまでの情報量がたいへん多い。このDACは低域から高域に、そして微小信号に至る音の微少な変化、表情のこまやかさを細大漏らさず、再生してくれる。

ヴォーカル、ベース、ドラムス、コーラスの音像が明確で、音の立ちもシャープだフレンチポップとスウィングジャズをミックスしたような、おしゃれなフィーリング。。少し気だるいような声の気質が素敵。ADI-2/4 Pro SEで聴くと、テンションを張りながらも同時に暖かいコケティッシュな声はたいそう魅力的だ。拡がりと進行が明瞭なコーラスとの対比感や、間奏のクラリネットのパリのエスプリ感が、とても心地好い。

Gabi Hartmann
情家みえ/エトレーヌから「CHEEK TO CHEEK - チーク・トゥ・チーク」

ウルトラアートレコード
flac 192kHz/24bit

作品詳細はこちら

私のUAレコードの第一回リリース作品。スタジオのモニタースピーカーで聴いていた音調に極めて近い。これまで幾多の高級DACでも、なかなかその域に達した音が得られなかったが、ADI-2/4 Pro SEは、それを軽々と飛び越え、本録音が行われた代々木スタジオの調整室でのモニター音を彷彿させてくれた。冒頭のアコースティック・ベースの剛直感とスピード感、音の核をしっかり持った雄大さは、まさに私のイメージ通りだ。ヴォーカルの明晰感、細部の表情、歌い上げの伸びとパワー感も同じく、私が長年、聴きたかった歌声だ。情感豊かに、言葉のニュアンスをとても大切にしている歌い方が伝わってくる。

山本剛のピアノもハイファイだ。「チーク・トウ・チーク」はへ長調。ピアノはトニックのFから始まり、F Dm Gm C7と定番のコード進行で進む。この演奏では、F和音の第一音が軽い装飾音から始まる。その微細な弱起的な音からして、ひじょうにクリヤーなのだ。躍動的なピアノリフと、ソロパートの飛び跳ね感も素晴らしい。水滴が葉の上を転がるような透明でリリシズム溢れるピアノが、部屋にさざ波のように拡がりゆく。

ヴォーカル音像とピアノ、ベース、ドラムスの間の空間感が濃密で、見晴らしがたいへんクリヤー。音楽的な表情感とオーディオ的な明確さのどちらも得た意義ある音だ。ヴィヴットな時間進行も心地好い。

情家みえ/エトレーヌから「CHEEK TO CHEEK - チーク・トゥ・チーク」

アナログLP

マゼール/ウィーン・フィル 1980年ニューイヤー・コンサート(デジタル録音)

ドイツ・グラモフォン LP 28MG0009

第一曲「こうもり」序曲。実に生々しい臨場感だ。1980年というとまだデジタル録音の最初期だが、「テクニクスSL-1200+オルトフォンのMMカートリッジ+ADI-2/4 Pro SEのフォノ・イコライザー」の組み合わせは、ムジークフェライン・ザールの音響的な爽やかな空気感と、ウィーン・フィルならでの溌剌感、颯爽感を実に新鮮に再現してくれた。

アナログLP再生でも、ハイレゾファイル再生と同様に、音源が持つリソースを細大漏らさず再現するというADI-2/4 Pro SEのミッションが色濃く感じられた。それも、単に音質が良いというだけに留まらず、音源に収録されている音楽性もよりリアルに濃く再現してくれる。この後、11回もニューイヤー・コンサートの指揮台に登る(ウイリー・ボスコフスキーの25回に次ぐ多数回)マゼールの初回の演奏だから、まさにフレッシュ!

「こうもり」冒頭のシャンペンコルクの弾け音の輝かしいエネルギー感と溌剌感は、まさにその象徴だ。この系で聴くと、特にウィーン・フィルの弦の歌いの細やかさ、潤い感が濃い。それは「潤い」という情緒的な情報量を、ひじょうに細かく高解像度で再現してくれるADI-2/4 Pro SEの持つ技に他ならない。ワルツの急下行旋律の弦の切れ込み、ウィーン・フィル的な高雅な刻み、倍音の豊潤さ、アーティキュレーションにおけるテンション感と溜……、もう、たいそう音楽的なのである。ADI-2/4 Pro SEのフォノ・イコライザーの実力の高さが分かった。

マゼール/ウィーン・フィル 1980年ニューイヤー・コンサート(デジタル録音)
情家みえ/エトレーヌから「CHEEK TO CHEEK - チーク・トゥ・チーク」

ウルトラアートレコード LP UA-1005

さきほどのハイレゾの情家みえ「CHEEK TO CHEEK」と同じ録音だが、音源は同じでも、録音方式が違う、ハイレゾはProToolsの192kHz/24bitのデジタル録音。このアナログLPは、スチューダーA-820で、2インチ/76rpmでアナログ録音し、ミックスダウン、マスタリング、カッティングまで一切デジタルプロセスは、ない。いまの時代アナログ録音は極めて稀だ。コンディションの良いテープレコーダーを常備したスタジオが少なく、オープンリール用のテープが入手しにくいからだが、ウルトラアートレコードは、あえて純アナログに挑戦した。

それをADI-2/4 Pro SEで聴くと、ひじょうにアナログらしい音調が、実に高解像度で再現された。それは「音の生命力」と言っていい、溌剌とした優しさ、暖かな精密感、剛直でヒューマンな味わいが、デジタルとは異なるアナログの特質であることが、同じDACで比較しているから、より正確に分かるのである。これまでもこのハイレゾとアナログLPの比較は何回も行っているが、DACを同じくしての試聴は初めての経験だ。プロデュースした者として、これほどの質感の違いがあることに再度、驚いた。アコースティック・ベースの剛毅で同時にしなやかな進行、ドラムスのスネアワークの丁寧さ、ヴォーカルのヒューマンな潤い、山本剛のピアノの叙情的な煌めき……アナログはいいなあ。そんな質感が、ADI-2/4 Pro SEで色濃く感じられたのである。

情家みえ/エトレーヌから「CHEEK TO CHEEK - チーク・トゥ・チーク」
Oh Lady Be Good

小川理子(ピアノ)カルテット
ウルトラアートレコード 78回転LP UA-1004

ウルトラアートレコードの特別LP。78回転という超スピードで、カッティングした"LPシングル"である。CD、331/3回転LPでも発売されているピアニスト小川理子の『Balluchon』から「Oh lady be good」と「Smile」の2曲を、表裏面に収録。ProToolsでのDXD音源をアナログ変換している。

ADI-2/4 Pro SEは見事に、78回転盤特有の超絶音調を再現してくれた。同じプロセスで33回転盤と比べると圧倒的なレンジの広さと、ディテールの情報量、そして音の切れの俊敏さが聴けた。回転数が増えると線速度が速くなり、再現できる情報量が増えるのは理論的摂理だが、同じ音源でも低域から高域までのレンジが、ここまでワイドになるかと驚く。Fレンジ的にも、Dレンジ的にも、天井が限りなく高い。しかも密度感がたいへん濃密だ。ピアノの剛性感、突きぬけ感も凄い。小川理子のストライド奏法による、左手のスフォルツアンド的な強調感と右手のオクターブ重音がひじょうに尖鋭。アコースティック・ベースの音階解像度がこれほど明瞭に再現されるとは驚きだ。田辺充のギターの艶々としたセクシーさ、バイソン片山のドラムスの鮮鋭な切れ味も、格段のレベル。ADI-2/4 Pro SEはハッピー・ジャズの愉しさと躍動を、きわめて精密に聴かせてくれた。

<パーソネル>
小川理子(ピアノ)
田辺充邦(ギター)
山村隆一(ベース)
バイソン片山(ドラムス)

Oh Lady Be Good

まとめ

ADI-2/4 Pro SEは音楽的なボキャブラリーを、ひじょうな高解像度で表現する、刮目のDACであることが確認できた。ハイレゾのファイルミュージックのみならず、アナログLPも、まったく同じ切り口だ。これまでのADIは録音機メーカーのDACだったが、ADI-2/4 Pro SEはすべての音楽ファンのためのDACになった。

 

オーディオ・ビジュアル評論家:麻倉怜士
オーディオ・ビジュアル/音楽評論家。UAレコード合同会社主宰。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長)を経て、独立。津田塾大学では2004年以来、音楽理論、音楽史を教えている。2015年から早稲田大学エクステンションカレッジ講師(音楽)。HIVI、モーストリー・クラシック、PEN、ゲットナビなどの雑誌に音楽、映像、メディア技術に関する記事多数執筆。音楽専門局「ミュージック・バード」では、2つレギュラー番組を持つ。ネットではアスキーネット「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」、AVウォッチ「麻倉怜士の大閻魔帳」を連載。CD、Blu-ray Discのライナーノーツも多い。

▶︎ 山之内正氏、生形三郎氏のレビューはこちら

ADI-2/4 Pro SEレビュー 山之内正氏

ADI-2/4 Pro SEレビュー 生形三郎氏

関連製品
ADI-2/4 Pro SE ADI-2 Pro FS R Black Edition ADI-2 DAC FS
ADI-2/4 Pro SE
ADI-2 Pro FS R Black Edition
ADI-2 DAC FS

AD × 2ch / DA × 4ch フラグシップ・マスター・コンバーター

2チャンネル・ハイエンド
AD/DAコンバーター

PCM 768kHz / DSD 11.2MHz 対応
リファレンス・クラス DAコンバーター

メールニュースのご案内

イベント情報、サポート情報、お得なキャンペーン情報をはじめ、アーティストのインタビューや現場レポートなど、お役立ち情報を満載でお届けします。さらにはメールニュース限定の情報も!ぜひご登録ください。

メールニュース登録

戻る