RME導入事例
エンジニア/プロデューサーのミック沢口氏が主宰するレーベル UNAMAS から、今年(2015年)生誕330年を迎えるバッハの晩年の難曲として名高い「The ART of FUGUE ─ フーガの技法」がリリースされました。次世代ハイレゾ・サラウンド音源として昨年軽井沢大賀ホールにて収録され、画期的な録音手法とその高いサウンド・クォリティにより、リリースから1年が経過した現在でも高い人気を誇る「The Four Seasons(UNAHQ2005)」。その UNAMAS レーベル「クラシック・シリーズ」待望の第2作となる「The ART of FUGUE ─ フーガの技法」は、前作以上に音楽的、技術的にハイレゾ・サラウンドにふさわしい取り組みを導入し、従来のイメージを打ち破る新たな「ART of FUGUE」に仕上がっています。今回もレコーディングの根幹としてRMEのMADIシステムが活躍し、理想的な音響特性を持つ軽井沢大賀ホールの豊かなサウンドを余すところなく収録しています。
アルバム・コンセプト─ Mick Sawaguchi 沢口音楽工房 代表 ─
「フーガの技法」は深遠なるバッハのポリフォニー世界を余すところなく
マルチチャンネルで再現した、世界的にも画期的なハイレゾ作品だ
─ 麻倉 怜士 AV評論、津田塾大学講師(音楽史)─
ハイレゾシーンでは、「ハイレゾ新録」がトレンドだ。添加の名演奏カタログのハイレゾ化もよいけれど、やはり、新しい皮袋には新酒が似合う。筆者は3月4日〜5日、軽井沢は大賀ホールで遂行された本録音セッションを体験した。そして今、自宅リスニングルームで再生する機会をもって、私が大賀ホールの客席で聴いていた音の印象と相当違う(もちろん良い意味)ことに驚いている。
ウナマスの大賀ホール録音は意表を衝くが、本質も突く。軽井沢に住居を持つ私は、大賀ホールには日常的に通い、いかにあのホールの響きが厚く、ソノリティの豊潤さに恵まれているかを知悉している。ここでは録音セッションが多いが、それはこのホールの長く良質な残響特性が音楽に潤いと輝きを与えることを狙うものだ。ところがウナマス・プロデュースは、大賀ホールで録りながら、大賀ホールの響きの良さだけに頼らない、潔癖さがある。
ウナマスは大賀ホールで録りながら、その客席で聴ける豊かなアンビエントをあえて拒否し、「舞台の上での直接音と間接音」で勝負するのだ。それが大賀ホール録音での意表を衝きかただ。でもそれは同時に、徹底的に楽曲の本質も突いている。
本「フーガの技法」は、深遠なるバッハのポリフォニー世界を余すところなくマルチチャンネルで再現している、世界的にも画期的な作品だ。音楽表現の大いなる可能性をこの録音プロジェクトに聴いた。─ ライナーノーツより抜粋
マイクロフォン:
メイン・マイク
Neumann KM-133D
ミッドレイヤー・サラウンド
Schoeps MK4
トップレイヤー・サラウンド
サラウンド前方:Mojave MA301 FET
サラウンド後方:Sanken CO-100K
各パートの楽器に向けられた五本のメイン・マイクには、無指向性(Omni)のデジタルマイク、Neumann KM-133Dを採用。圧倒的な解像度とS/N比により、演奏の微細なニュアンスまで完全にキャプチャーしています。サラウンドマイクは、3Dサラウンドを想定して、中層(ミッドレイヤー)と上層(トップレイヤー)にそれぞれ4本ずつのマイクを配置。より表情豊かな残響を録り込むことに成功しています。なお、リリース作品には使用されていませんが、ディレクションを担当したエンジニア入交氏による3Dサラウンド収録マイクも別途配置され、マイキングの違いによるサウンドの変化が比較できる貴重な資料として同時に録音が実施されました。
マイク・プリアンプ:
マイク・プリアンプには、メインとなるデジタル・マイクのプリアンプとしてDMC-842 Mが、サラウンド用の各アナログ・マイクのプリアンプとしてMicstasy MとOctaMic XTCが使用されました。OctaMic XTCの2系統のヘッドフォン端子は、コントロール・ルームからのMADI伝送をDAすることで、ステージ・モニタとトークバック・システムに利用されました。また、入交氏のデジタル・マイク(Neumann KM-133D)のプリアンプとしては Neumann DMI-8 が使用され、RME ADI-642でAESからMADIに変換されMADIの回線に合流しています。
オーディオ・インターフェイス:
アナログ・マイクとデジタル・マイクの併用で沢口氏・入交氏の二種類の3Dサラウンドを収録するため、デジタル(DMC-842 M + Neumann DMI-8)とアナログ(Micstasy M + OctaMic XTC)計4台のマイクプリを2系統のMADI回線に載せ、MADI Routerでメイン・レコーダーである沢口氏のMerging HORUS+Pyramixと、入交氏のMADIface XT+MAGIX Sequoiaに分岐。ステージ上とコントロールルームとのコミュニケーションは、MADIface XTに接続されたトークバックマイクとステージ上に配置されたOctaMic XTCにより実現しています。192kHzで全22chという大規模なレコーディングにも関わらず、コントロール・ルームは非常にシンプルかつコンパクトにまとめられるのもMADIシステムの大きな恩恵と言えます。
前作に続き、今回のレコーディングでもハイレゾ・多チャンネル録音を実現するためにRMEのMADIシステムが採用されました。マイクプリアンプとして、フラッグシップ・モデルとなるMicstasy Mと、最新鋭のOctaMic XTC(トークバックや演奏者のモニタ用としても活用)がアナログ・マイク用に、DMC-842がデジタル・マイク用としてステージ上に配置され、そこから光ファイバーのケーブルにより、遠隔にあるコントロール・ルームに設置されたMADI RouterににMADI伝送されます。 特に、メインで使用されたデジタルマイクは、マイクのカプセル内でAD変換されますので、アナログ伝送による信号の劣化を完全に防ぐことが可能です。 基本的にデイジーチェーンで接続されるMADIですが、MADI Routerを使用すれば自由自在に分岐、合流させることが可能です。
プロモーション・ビデオをYouTubeで配信
映像もハイレゾで ─ 4Kカメラにより撮影された「The Art of Fugue」のプロモーション・ビデオとインタビューがYouTubeで配信されています。YouTubeの4K再生に対応していますので、動画再生後、プレイヤー下部の「設定-画質」より「2160p 4k」を選ぶことにより現行フルHD(フルハイビジョン)の4倍の画素数となる4K画質でご覧になれます。
サラウンドは優れた表現媒体
沢口氏の言葉を借りると、ステレオは例えば「押し寿司」のように音場の情報を無理矢理2つのチャンネルに詰め込んでいるのに対して、5.0chのサラウンドでは、一つ一つのスピーカーから無理のない再生が可能になります。特に、大賀ホールのような自然のままの響きを持つ場所で行われた演奏を、その豊かな残響を濁らせることなく再生できるサラウンドは優れた表現媒体であり、ハイレゾの良さがサラウンドによりさらに高められます。Firefaceシリーズなどのマルチ・チャンネルに対応したRMEオーディオ・インターフェイスをお持ちの方は、ぜひとも本作品を体験してください。
「The Art of Fugue」はUNAMASレーベルよりリリースされ、e-onkyo music / HQM Store / mora の各サイトからダウンロード購入頂けます。
ミック沢口 ─ プロデューサー、ミックス、マスタリング
1971年千葉工業大学 電子工学科卒、同年 NHK入局。ドラマミキサーとして「芸術祭大賞」「放送文化基金賞」「IBC ノンブルドール賞」「バチカン希望賞」など受賞作を担当。1985年以降はサラウンド制作に取り組み海外からは「サラウンド将軍」と敬愛されている。2007より高品質音楽制作のためのレーベル 「UNAMASレーベル」を立ち上げ、さらにサラウンド音楽ソフトを広めるべく「UNAMAS-HUG/J」を2011年にスタートし24bit/96kHz、24bit/192kHzでの高品質音楽配信による制作およびCD制作サービスを行う。2013年の第20回日本プロ音楽録音賞で初部門設置となったノンパッケージ部門2CHで深町純「黎明」(UNAHQ-2003)が優秀賞を受賞するなど、ハイレゾ時代へのソフト制作を推進している。
入交英雄 ─ レコーディング・ディレクター
1956年生まれ。1979年九州芸術工科大学音響設計学、1981年同大学院卒。2013年残響の研究で博士(芸術工学)を取得。学生時代より録音活動を行い、特に4ch録音や空間音響について探求を重ね、現在のサラウンド録音の源流となっている。1981年(株)毎日放送入社。映像技術部門、音声技術部門、ホール技術部門、ポスプロ部門など経て、送出部門に至る。放送のラウドネス問題研究とARIB委員、民放連委員を通じて規格化に尽力。音声部門では放送業界で初めてのドルビーサラウンドによる高校野球中継などのプロジェクトに関わる。また、個人的にも入間次朗の名前で録音活動を行い大阪市音楽団のCD制作などを手がける。創作活動も行っており、JNN系高校ラグビーのオープニングテーマやPCゲームのロードス島戦記の音楽を担当。
圡屋洋一 ─ アレンジ
東京、渋谷に生まれる。20歳よりピアノを、その後作曲を始める。2011年東京芸術大学作曲科を卒業。”Cori Spezzati Nova”(5.1ch)が131st AES Convention New YorkのRecording Critiquesにてイーグルス、エアロスミス、スティーリー・ダンなど多くの著名アーティストのミキシングや音楽プロデューサーとしても知られるElliot Scheinerにより称賛を受け、数々のグラミー賞ノミネートアルバムを世に送り出している2LレーベルのMorten Lindbergをして「聴いたことの無い音楽を聴いた」と評される。翌年5.1ch楽曲制作コンテストに入賞(DTM MAGAZINE 2012年06月)2014年2月自身のサラウンド作曲集「The Universe for Surround UNAHQ2004」をUNAMASレーベルよりリリース。
UNAMAS FUGUE QUINTET:
田尻順 ─ 第1ヴァイオリン
7歳よりヴァイオリンを始める。本間美子、故久保田良作各氏に師事。1988年桐朋学園大学を卒業。卒業と同時に群馬交響楽団に入団、在籍中は首席代理奏者を務める。群馬交響楽団とコンチェルトの共演やリサイタルを開催するなど主に群馬県を中心にソロや室内楽の活動もする。1994年“プラハの春”国際音楽祭、ウィーン芸術週間に参加。1994年首席奏者として東京交響楽団に入団。皇居内の桃華楽堂において御前演奏するなど東京交響楽団ともソロを共演。1998年同団のアシスタントコンサートマスターに就任。2002年NHK FMリサイタルに出演。2004年にシリウス弦楽四重奏団を結成。東京交響楽団弦楽四重奏団としても光が丘IMAホールでのシリーズを展開。他にもスタジオミュージシャンとしてもCMや映画音楽などの録音にも携わりその活動は多岐にわたっている。
竹田詩織 ─ 第2ヴァイオリン
1988年生まれ。2010年東京藝術大学音楽学部器楽科ヴァイオリン専攻卒業。京都芸術祭「世界に翔く若き音楽家の集い」京都市長賞受賞、全日本学生音楽コンクール、日本クラシック音楽コンクール、横浜国際音楽コンクール、ルーマニア国際音楽コンクール等数々のコンクールに上位入賞、入選を果たす。大学在学時より、ソロ・オーケストラ・室内楽での活動の他、多数の著名アーティスト楽曲レコーディングやライブサポート等様々なフィールドで活動。自身がリーダーを務めるストリングスでの活動も多数。様々な音楽活動を経て、2012年より東京交響楽団ヴァイオリン奏者としてのキャリアをスタート。現在プロオーケストラ奏者としての顔の他に、その経験を生かした多彩な音楽活動を展開している。
萩谷金太郎 ─ ヴィオラ
東京都出身。東京音楽大学卒業、桐朋学園大学院大学修了。PMF2011、パブロカザルス国際音楽祭、アフィニス夏の音楽祭などに参加。
京都市交響楽団契約団員を経て、現在NHK交響楽団アカデミー在籍。
ヴァイオリンを藤原浜雄に、ヴィオラを百武由紀に、室内楽を上田晴子、岩崎洸、銅銀久弥の各氏に師事。
内田佳宏 ─ チェロ
大阪府出身。東京芸術大学大学院修士課程を首席に相当する大学院アカンサス賞を受賞して修了。学位審査会においては異例の自作曲をプログラムに組み込んだことでも注目される。
ザルツブルグ=モーツァルト国際室内楽コンクール2012第3位受賞。第11回ビバホールチェロコンクール第2位受賞。他多数受賞。
クラシックのみならず、ジャズミュージシャンや和楽器奏者とのコラボレーション、タンゴ、ロックなど様々なジャンルで自在に演奏活動を行うほか、レコーディングやテレビ出演等も多数行う等、活動の幅は多岐にわたる。近年作曲家としても、劇判の作品制作などにも携わるなど積極的に創作活動を行っている。
北村一平 ─ コントラバス
埼玉県出身。2002年東京藝術大学器楽科卒業、05年同大学院修士課程修了。在学中、別府アルゲリッチ音楽祭に参加。2005年、ガウデアムス音楽祭(オランダ)参加、JULIAN YU作曲PENTATONICOPHILIAにてソリストを務める。2006年小澤征爾音楽塾Ⅶ「復活」に参加。コントラバスを永島義男、黒木岩寿、西田直文、山本修、石川滋の各氏に師事。オーケストラから吹奏楽、スタジオワークやミュージカルまで、幅広く活動。東京藝術大学管弦楽研究部非常勤講師を経て2006年に東京交響楽団に入団し、現在に至る。