白熱のライブレコーディング! 残響7秒のカテドラルの大空間に響く、初期バロックの大傑作─ モンテヴェルディ「聖母の夕べの祈り」 - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
RME Users
導入事例
白熱のライブレコーディング!残響7秒のカテドラルの大空間に響く、初期バロックの大傑作─ モンテヴェルディ「聖母の夕べの祈り」

白熱のライブレコーディング! 残響7秒のカテドラルの大空間に響く、初期バロックの大傑作 ─ モンテヴェルディ「聖母の夕べの祈り」

録音段階から24bit/96kHz以上の真のハイレゾ・コンテンツを供給するために設立されたレーベル「RME Premium Recordings」が、ユニークユーザー約20万人を誇る日本で最大のクラシック専門メディアでもある、インターネットラジオのコンテンポラリー・クラシック・ステーションOTTAVAの新レーベル「OTTAVA Records」とコラボレーションした第一弾作品『コントラポントのヴェスプロ』(Claudio Monteverdi:Vespro della Beata Vergine)

この作品は、日本を代表する古楽アンサンブル、コントラポントの結成10周年記念にして第20回定期演奏会として、2015年6月に東京・文京区の、カトリック関口教会 東京カテドラル聖マリア大聖堂で行われたコンサートの実況録音。クラウディオ・モンテヴェルディ作曲の「聖母の夕べの祈り」を、難曲であるがゆえに海外でもほとんど例のないライブレコーディングでお届けする意欲的な作品です。モンテヴェルディの時代の様式に忠実に演奏され、オルガンの前・後奏、グレゴリオ聖歌によるアンティフォナや祈祷などを含む2時間を超える演奏を、残響7秒の東京カテドラル聖マリア大聖堂の空気感そのままに、PCM 192kHz/24bitでハイレゾ収録。CDだけではなく、7.0chの3Dサラウンド、5.0chのサラウンド、通常の2ch、さらには、ヘッドフォンで立体音響を楽しめる「HPL」による11ch超立体ヘッドフォンサラウンドと、様々なフォーマットで配信を行っております。

この貴重な演奏の録音に使われたのは、高品位かつコンパクトなRMEのMADI機器と、低ノイズかつ非常にクリアな収録が可能なノイマンのデジタル・マイクロフォン。 録音エンジニアは、近年RMEのMADI機器とSEQUOIAを使い多くの3Dサラウンドの傑作を生み出している入交英雄氏。氏の語る録音コンセプトと共に、会場の空気感をそのままキャプチャーすることに成功した録音機材の詳細なレポートをお届けしたいと思います。

録音エンジニア:入交英雄氏のコメント

東京カテドラルの豊かな残響に包まれつつも、明瞭度の良い演奏が楽しめる録音

私が考える理想の録音とは、豊穣な残響と明瞭な音楽の両立である。しかし、残響と明瞭度は二律背反の関係にあり、極めて実現が難しい。長年の試行錯誤の結果、この両立のためには3Dサラウンドが最も良いという結論に達した。
3Dサラウンドにするとなぜ残響と明瞭度が両立するのか?それは、同じスピーカから直接音と残響成分が再生されないからである。客席で明瞭度もあり、豊かな残響も感じている場所で録音すると、残響だらけとなってしまうことが良くある。残響は実際にはあらゆる方向から聞こえ、直接音と同じ方向から聴こえないところに原因がある。

人間には方向性マスキングという、同じ方向化から聞こえる音では、大きい音に小さい音がマスクされやすいという性質がある。同じスピーカから直接音と残響を再生すると、かなり大きめに残響を出さないと残響を感じにくいものであるが、少しでも大きくなりすぎると、逆に残響が直接音をマスクし始め、明瞭度が悪くなってしまう。
ステレオ録音を行うとき、直接音と残響のバランスが難しいが、そのバランスはリスナーも人によって好みが別れるため、まことにエンジニア泣かせである。
3Dサラウンドにすると、一つ一つのスピーカから再生される残響成分はかなり小さくなり、先ずリスニングエリアが広がる。次に、方向性マスキングから解放されるため、残響音を大きめにしても明瞭度が崩れない。このため、良い座席で聴いたときのように、豊かな残響感と明瞭度が両立する録音が可能となる。しかも、ちょっとはっきりした音が好きであれば、前方スピーカ寄りに、ホールの雰囲気が聴きたければ後ろのスピーカ寄りに座れば、その通りに聞こえる。これが3Dサラウンドの大きなメリットである。

今回の収録では、東京カテドラルの豊かな残響に包まれつつも、明瞭度の良い演奏が楽しめる録音が実現したものと思う。

今回のレコーディングでの使用機材

マイクロフォン:Neumann KMD133 / KMD143 / KMD183 / KMD184 / KMA131. Sennheiser MKH8090D / MKH8020Dなど

当日使用したマイクは予備も含め計28本。このうち、メインマイクとスポット・マイク、及びトップ・レイヤーに計24本のデジタル・マイクを使用。アナログ・マイクはミッド・レイヤーのサイドLRとリアLR用の計4本を使用した。以下は、それぞれのマイクロフォンと使用方法の詳細。

メインマイク メインマイクは、舞台に見立てた祭壇左右に2本のハイ・スタンドを設置し、さながら吊り橋のように各々のスタンドの先端の間に紐を渡し、その紐から電車の架線のようにクリップでマイクケーブルを吊るしてゆき、中央付近からマイクを垂らすという工夫を行った。

メインマイク用の吊り橋  メインマイク カプセル

メインマイクは3本使用し、約80cm間隔で一列に配置する、いわゆるフィリップス(オノ・スコルツェ)方式。マイクカプセルはLとRにNeumann KMD133、センターにSennheiser MKH8020Dを使用した。なお、設置位置は、指揮者のほぼ真上、高さ3.5m程度。

ミッド・レイヤー・アンビエンス用のサイド・マイクとリア・マイク 

ハイ・スタンドに設置されたサイド・マイク

ハイ・スタンドに設置されたサイド・マイク

パイプオルガン席に配置されたリア・マイク

パイプオルガン席に配置されたリア・マイク

ミッド・レイヤー用のアンビエンス・マイクは、サイド・マイクとして2本のハイ・スタンドの脇から、天井の左右方向を狙った2本、そして、リア・マイク客席後方の2階に設置されたパイプオルガン席に2本配置。これらのマイクにはNeumann KMA131を用いた。(この4本のみがアナログ・マイク)

トップ・レイヤー・アンビエンス用のマイク

カテドラル内上部のアンビエンスを収録するために立てられたハイト・サラウンドのマイク
カテドラル内上部のアンビエンスを収録するために立てられたハイト・サラウンドのマイク

今回は、豊穣な残響を捉えるため、3Dサラウンドのトップ・レイヤーに使用するハイトサラウンド(トップ・レイヤー)用のマイクを、最も残響が豊穣に聞こえる場所である客席最前列中央付近に高さ4.5mのハイ・スタンドを立て、4本のワイド・カーディオイド・デジタル・マイクを1.5m四方にアレイ状に配置。カプセルはSennheiser MKH8090Dを使用した。

スポット・マイク

スポット・マイク

スポット・マイク

スポット・マイク


スポット・マイクは、すべてデジタル・マイクで、計17本をステージ上に配置。

これら、すべてのマイクロフォンは、ステージ脇に設置されたマイクプリへと接続された。

 

 

マイクプリアンプ: RME DMC-842 / Micstasy, Neumann DMI-8

上の写真は、ステージ脇に設置されたマイクプリ群。上から、RME DMC-842が2台。続いてRMEのADI-842、NeumannのDMI-8、一番下が、RMEのMicstasyという構成となっており、すべてのチャンネル数を合計すると32チャンネルとなる。

RME DMC-842とNeumannのDMI-8はデジタル・マイク・プリアンプとなっており、すべてのデジタル・マイクは、これらのマイクプリへ直接AES/EBUケーブルによってデジタル接続。デジタル・マイクはマイクロフォン上にてAD変換を行うため、通常のアナログ・マイクに比べ信号の劣化が少なく、非常に低ノイズでクリアな音質での収録が可能なため、今回の収録にも多数使用した。なお、すべてのマイク・プリアンプはMADI接続(オプティカル・ケーブル使用)されているが、NeumannのDMI-8はAES/EBUでの出力となるため、RME ADI-648にてAES/EBUからMADIへと信号を変換を行った。なお、ステージ脇に設置されたマイクプリ群から、録音用のMADIインターフェイスとPCが置かれた場所までは、距離にして30m程離れているため、その間はMADIオプティカルケーブルを使って接続。ちなみに、使用したMADIのオプティカルケーブルはドラムタイプで、4本のオプティカルケーブルが1本のケーブルにまとまっているため、32チャンネル分の信号を上記の配線図のように一本のケーブルで引き廻すことが可能だ。

次に、別部屋に設置された録音システムについての説明だが、今回は予備も含めて計32チャンネルの信号を、一旦、RMEのMADI Routerにて受け、その信号を2系統に分配した。そして、それぞれの信号をメインとバックアップそれぞれのシステムに192kHz/24bitにて収録。写真をみると分かるように、システムはとてもシンプルかつコンパクトだ。

オーディオ・インターフェイス:RME MADIface XT、HDSPe MADI FX

オーディオ・インターフェイスには、それぞれ、RME MADIface XT(メイン)、RME HDSPe MADI FX(バックアップ)を使用した。両インターフェイスとも非常にコンパクトながら、最大で192チャンネル(@48kHz)ものMADI信号を受けることが可能だ。サンプリング・レートが192kHzの場合は、録音可能なチャンネル数は最大で48チャンネルまでに制限されるが、今回の収録は合計32チャンネルだったため全く問題がなく収録することができた。なお、デスク上に置かれたモニタースピーカーは、直接MADIface XTのアナログ・アウトに接続されており、ヘッドフォン・アウトと共に、モニターが必要な現場では余計な機材を用意する必要がないらないめ、とても便利だ。

DAWソフトウェア:Magix Sequoia 13

今回の収録には、メイン/バックアップ共に、Bootcamp起動したMacBook Pro上にて走るMAGIXの SEQUOIA 13を使用した。最大384kHzのサンプリング・レートにまで対応しているこのDAWソフトウェアは、マスタリング・ソフトウェアとしてもその素晴らしい音質が高く評価されているが、通常のDAWソフトウェアに比べ、非常に大きなバファー値を設定できるため、バッファーのアンダーランエラーなどで録音が止まってしまっては困るコンサートの収録などでは、安心して録音に集中することができる。

コントラポントのヴェスプロ
古楽アンサンブル コントラポント

白熱のライブ収録!残響7秒のカテドラルの大空間に響く、初期バロックの大傑作

日本を代表する古楽アンサンブル、コントラポントの結成10周年記念にして第20回定期演奏会として、6月に東京・文京区の、カトリック関口教会 東京カテドラル聖マリア大聖堂で行われたコンサートの実況録音。クラウディオ・モンテヴェルディ作曲の「聖母の夕べの祈り」を、難曲であるがゆえに海外でもほとんど例のないライヴ・レコーディングでお届け。モンテヴェルディの時代の様式に忠実に演奏され、オルガンの前・後奏、グレゴリオ聖歌によるアンティフォナや祈祷などを含む2時間を超える演奏を完全収録。

全曲完全収録のハイレゾ版は「RME Premium Recordings」から、また、モンテヴェルディの作曲部分を中心に抜粋したCD版は「OTTAVA Records」からのリリースとなります。

Ottava records
RME Premium Recordings
制作インタビュー
『コントラポントのヴェスプロ』制作インタビュー(YouTube)

 

『コントラポントのヴェスプロ』天よ、聞いてください
『コントラポントのヴェスプロ』天よ、聞いてください
『コントラポントのヴェスプロ』二人のセラフィムが
『コントラポントのヴェスプロ』二人のセラフィムが

入交英雄入交英雄 ─ レコーディング・エンジニア

1956年生まれ。1979年九州芸術工科大学音響設計学、1981年同大学院卒。2013年残響の研究で博士(芸術工学)を取得。学生時代より録音活動を行い、特に4ch録音や空間音響について探求を重ね、現在のサラウンド録音の源流となっている。1981年(株)毎日放送入社。映像技術部門、音声技術部門、ホール技術部門、ポスプロ部門など経て、テクニカルマネージャー部門に至る。放送のラウドネス問題研究とARIB委員、民放連委員を通じて規格化に尽力。音声部門では放送業界で初めてのドルビーサラウンドによる高校野球中継などのプロジェクトに関わる。また、個人的にも入間次朗の名前で録音活動を行い大阪市音楽団のCD制作などを手がける。創作活動も行っており、JNN系高校ラグビーのオープニングテーマやPCゲームのロードス島戦記の音楽を担当。

アーティスト・プロフィール

花井 哲郎(指揮)花井 哲郎(指揮)

古楽演奏家。早稲田大学第一文学部哲学専攻卒業後、アムステルダム・スウェーリンク音楽院にて、オルガンとチェンバロを学ぶ。ロッテルダム音楽院において合唱指揮と管弦楽指揮のディプロマを取得。ブラバント音楽院にて古楽声楽アンサンブルをレベッカ・ステュワートに師事。滞欧中、教会音楽家、合唱指揮者、鍵盤楽器奏者として活動し、またグレゴリオ聖歌の研究・演奏活動にも従事する。1997年に東京にてヴォーカル・アンサンブル カペラを創設、以来ルネサンス・フランドルの宗教作品の演奏を続ける。2005年には古楽アンサンブル コントラポントを結成、リーダーとして17世紀を中心としたバロックの宗教音楽演奏にも力を注ぐ。また、古楽をレパートリーとする管弦楽団、合唱団、声楽アンサンブルを指導、徹底した古楽の立場からの演奏普及に努める。フォンス・フローリス古楽院院長、国立音楽大学講師。
公式サイト:http://www.fonsfloris.com/tetsi/

古楽アンサンブル コントラポント古楽アンサンブル コントラポント

花井哲郎をリーダーとして2005年に結成された古楽声楽家、古楽器奏者によるアンサンブル。17世紀を中心に、後期ルネサンスからバロックの宗教音楽をレパートリーとする。2010年に合唱隊を併設。プログラムによって、各パート一人ずつの器楽・声楽によるアンサンブル、ア・カペラの合唱、そして独唱、合唱にバロック・オーケストラという形態まで、それぞれの作品にふさわしい編成をとる。作品の持つ可能性を最大限に引き出すために、時代・地域に固有の演奏形式に徹底的にこだわった演奏、また声楽家と器楽奏者が音楽のみならず「音」そのものに対するイメージを共有して、各自の独創性を活かしながらも「対位法的に」一体となった演奏を目指している。これまで取り組んできた音楽は、パレストリーナ、ビクトリア、ジェズアルドといったルネサンス音楽、ガブリエリ、モンテヴェルディなどヴェネツィア宗教音楽の黄金時代、ドイツ・バロックの3大Sであるシャイン、シャイト、シュッツ、スペインのビリャンシコと18世紀イエズス会宣教時代ラテン・アメリカの宗教作品、フランス・バロックの作曲家シャルパンティエ、リュリ、デュ・モン、カンプラ、ジャン・ジル、クープラン、ド・ラランド、モンドンヴィルなど、多岐にわたる。2015年に結成10周年を迎え、6月の記念演奏会でモンテヴェルディ「聖母の夕べの祈り」を演奏し好評を博す。

戻る