GOH HOTODA×鈴木夢時 - MAGIX SEQUOIAユーザー・インタヴュー「SEQUOIAが支える新しいマスタリングの役割」 - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
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MAGIX SEQUOIAユーザー・インタヴュー

「SEQUOIAが支える新しいマスタリングの役割」

 GOH HOTODA×鈴木夢時

MAGIX SEQUOIAユーザー・インタヴュー「SEQUOIAが支える新しいマスタリングの役割」GOH HOTODA×鈴木夢時

MAGIX SEQUOIAのユーザーにお話しを伺うこのコーナー。今回は、プロデューサー/ミックス・エンジニアであり、また近年ではマスタリングの分野でも活躍されているGOH HOTODAさん、そしてSEQUOIAのユーザー歴は7年というサウンド・エンジニアの鈴木夢時さんにご登場いただきます。ユニバーサル・ミュージックのマスタリング・ルームにお二人を訪ね、マスタリングの新しい在り方やSEQUOIAの使いこなしなどについてじっくりとお話しを伺いました。

文・取材◎山本 昇 撮影◎八島 崇


音楽メディアの形態が多様化する昨今、ますます注目されるのがマスタリングというプロセスだろう。CD、ハイレゾのダウンロード配信、にわかに復活の気配を見せているアナログ・レコード、そしていまや多くのリスナーが利用しているストリーミング配信など、一つの音源には実に様々な出口が求められており、それぞれの特性に合わせたマスタリングが不可欠だ。特に長いキャリアを誇るアーティストの多彩なカタログのリマスターの場合は、その音源が持っている魅力を、いかに時代を超えた新しいリスナーに上手く届けられるかということこそ、エンジニア諸氏が気を遣っているポイントであり、また腕の見せどころでもあるのだろう。

その意味でも、2018年4月にリリースされた松任谷由実のデビュー45周年を記念したベスト盤『ユーミンからの、恋のうた。』は注目すべき作品の一つだ。ファーストアルバム『ひこうき雲』(1973年)から38枚目の『宇宙図書館』(2016年)まで、まさにオールタイムのベストとなっているのだが、そのマスタリングを手がけたのが、『宇宙図書館』の録音やミックスも担当したGOH HOTODAさんであり、その作業には「音のいいDAW」として定評のあるMAGIXの「SEQUOIA」が使われたという。あるプログラムでユニバーサル・ミュージックのマスタリング・ルームで作業に当たるGOH HOTODAさんと、仕事を共にしている鈴木夢時さんのお二人に、現代におけるマスタリングの役割、そしてSEQUOIAのインプレッションや使いこなしなどについて語っていただいたので、本稿ではその内容をたっぷりとご紹介させていただこう。

ユニバーサル・ミュージックのマスタリング・ルームにセットされたGOHさんのマスタリング用システム。13インチのMacBook ProにはSEQUOIAがBoot Campを介して立ち上がっている。その右にあるDAコンバーターはRME ADI-2 DAC。メインのスピーカーはB&Wの805D3、パワーアンプはAYREのVX-5
ユニバーサル・ミュージックのマスタリング・ルームにセットされたGOHさんのマスタリング用システム。13インチのMacBook ProにはSEQUOIAがBoot Campを介して立ち上がっている。その右にあるDAコンバーターはRME ADI-2 DAC。メインのスピーカーはB&Wの805D3、パワーアンプはAYREのVX-5

現在のマスタリングに求められるもの

そもそも、プロデューサーやミキシング・エンジニアとしても活躍しているGOHさんは、どのようなきっかけでマスタリングに興味を持ったのだろう。

「今から10年くらい前に、仕事の拠点をアメリカから日本に移して自分の仕事場として“Studio GO and NOKKO”を造りました。そこではミキシングをメインにしていたのですが、仕事の幅を拡げるためにマスタリングもできるようになりたいと思っていたんです。海外にいたときは、僕がミックスしたものを例えばSTERLING SOUNDのエンジニアなどにマスタリングは任せていましたが、日本に帰ってきたのを機に自分でもマスタリングを一からやってみようと思い立ったのです」

当初は手探りの状態で、「最初の頃はミックスのような感覚でいじっていたんですよ。当然、うまくいかなかった(笑)。なんとか分かるようになってきたのが6年ほど前ですね」と振り返るGOHさん。では、マスタリングに精通することで、ミックスに生かされることはあるのだろうか。

「自分でマスタリングをするようになって、ミックスの仕方が変わったことがあります。例えば、10曲入りのアルバムを録音が終わった順にミックスしていきますよね。やがて曲順が決まると、ミックスしたものをもう一度、曲順に並べ替えて聴き直すんです。そのときに、ヴォーカルのレベルや聞こえ方が違ったりしたら、ミックスを見直します。そのようにして、マスタリングに回す前に、曲ごとのプロダクションとして問題がないかを掘り下げて、関係者と共有し合うようになりました」

レベルを直すのは「ほんのニュアンス程度」なのだそうだが、「それをそのまま通してしまうと、マスタリングですごく無理をしなければならなくなる」とGOHさん。「そういうストレスを与えないようにミックスを見直すということが増えてきました」と明かしてくれたが、最終的にいい音で送り出すという目的のためにも非常に大事な考え方だと思う。

マスタリング・エンジニアを目指すことになったきっかけをこう語るのは鈴木夢時さんだ。

「僕は自分で曲作りをしていて、ミックスなどの理論的な知識も表現として必要だと考えて、専門学校に通うようになりました。いろいろ学んでいくうちにマスタリングというステージがあることを知るわけです。それがどういうものなのか、学校や当時の音楽雑誌では抽象的な情報しか得られない事もあり 、今一つ分からない部分もあったのですが、興味を引かれていたところ、たまたま学校の求人で見かけたのがビクターのマスタリングセンターの募集でした」

飛び込んだスタジオで、あの小鐵徹さんらのアシスタントをするうちにマスタリングというものの捉え方が分かってきたという鈴木さんも、すでに10年のキャリアを積み上げている。

ところで、そうしたマスタリング作業は当然のごとくスタジオで行われているものと思いきや、GOHさんがこんな面白いお話を披露してくれた。

「アナログのEQやコンプレッサーを使うのは自分のスタジオで行いますが、それを取り込んだあとはこのラップトップのパソコン内での作業になりますから、クルマの中や新幹線でもDAWのMAGIX SEQUOIAを立ち上げてマスタリングが行えます。Bluetoothのヘッドフォンも使ったりしますが、それがいちばん、実際のリスナーに近いモニタリング環境だと思うんですよ」

もちろん、ノイズを丁寧に探したりするにはスタジオの高性能なスピーカーが必要だが、「音楽の聞こえ方については現実的なリスニング環境に合わせることも大事です」と指摘するGOHさんは、さらにこう続ける。

「アーティストの立ち会いがない場合は、他の曲と聴き比べることもあります。それこそ、Apple Musicなどに上がっている曲と、今自分がマスタリングしている曲を並べて聴いて、遜色がないようにするわけです。だから、マスタリング・スタジオに籠もるというよりも、今はフリーアドレスみたいな感じで作っています。そうした中で決まった音はやっぱりいいですね。そういうスタイルのマスタリング・エンジニアも増えてきていると思います」

DAWをスタジオから持ち出すことで見えてくるマスタリングもあると語るGOHさん
DAWをスタジオから持ち出すことで見えてくるマスタリングもあると語るGOHさん

現代におけるマスタリングの在り方として非常に興味深いお話だが、そのあたりについては鈴木さんもこう同調する。

「僕も、これからはそういうフットワークの軽いマスタリングが重要だと思います。立派なスピーカーのある部屋だけで完結するマスタリングは、同じような環境で聴けば素晴らしいのですが、実際にはクルマの中やスマホに繋いだイヤフォンで聴かれるわけで、そういう検証が大きなスタジオではあまり行われません。マスタリング・エンジニアがデータを持って外に出ることで、よりユーザーに近い音で試せますし、結果的に質の高いマスタリングが行えます。フリーアドレス的な自由な発想がこれからのマスタリングには必要だと思います」

もちろん、リスナーの試聴環境に合わせることだけが目的ではないことは、GOHさんの次のコメントからも明らかだ。

「大事なのは、そうした環境の中でも、アーティストの意図した音がはっきりと聴き取れるようにすることでしょう。例えば、ハイもローもぴったりの素晴らしいバランスなんだけど、ヴォーカルが埋もれて言葉が聴き取りにくくなってしまうのは、マスタリングとしては失敗に近いと思うんです。ほんのちょっとした成分を引き出すだけでヴォーカルが艶やかになったり、言葉が心に響いたりするわけで、そういう部分が大事だと思います。それはきっと、インストの曲でも同じだと思います。また、昔の音源であれば、10年20年という時間を感じながらも、今につながる魅力をいかに引き出すかも大切ですよね」

ではここからは、『ユーミンからの、恋のうた。』、そしてお二人がマスタリング作業に活用しているDAW「SEQUOIA」について詳しく伺っていこう。

『ユーミンからの、恋のうた。』のリマスタリング

--今年4月にリリースされた松任谷由実さん自身がセレクトした3枚組のベスト・アルバム『ユーミンからの、恋のうた。』が好評ですね。

GOH 『ユーミンからの、恋のうた。』は、コンセプトがとてもしっかりとしたベスト盤で、松任谷由実さんが今聴いてほしいと思うご自身の歌という意図で選ばれたものでした。鈴木君と初めて仕事したのも、このベスト・アルバムだったんです。

--マスターからの取り込みはどのようなフォーマットで行いましたか?

鈴木 32bit/96kHzで取り込みました。

--マスタリング作業の流れを教えてください。

GOH 作業環境を二人で合わせるため、DAWはSEQUOIAを使用して、今回はプラグインにiZotope Ozone8も使っています。また、SEQUOIAやOzone8でも音作りはできるのですが、もっと作り込みたい場合は、自宅スタジオのPro Toolsに取り込んでパーツを作り、両側にノリシロを作っておいてこのスタジオに持ち込んではめてもらいます。CDのマスタリングではあまりやらないやり方ですけどね。

--作業を通じて、松任谷由実さんの音楽やヴォーカルについて、改めて感じられたことがございましたらご紹介ください。

GOH 僕も彼女のファンだったのでこの仕事ができて幸せなのですが、改めて聴いてみるとやはり歌詞の世界が面白いですよね。今回はそこを上手に引き出したいと思って作業しましたが、とても楽しかったです。1枚のアルバムが小説や映画のようになっているのも彼女の作品の魅力です。でも、今はアルバム1枚を通して聴かないリスナーも多い。アルバムにこだわらず、好きな曲ごとにプレイリストを作って聴くことも多いわけですから、すべての曲のレベルが変わらないようにしなければなりません。その際の基準は、彼女の歌で揃えるのがいちばん分かりやすいですよね。どこを取ってもユーミンの歌だと思ってもらえるのが大事だと思っています。

鈴木 歌のメロディ周りはもちろん、演奏の部分も僕は意識しました。今回のリマスターには、歌と演奏をよりドラマチックに引き出すような処理も含まれています。例えば70年代の作品は、歌と生楽器のアレンジが、よりリアルで立体的に配置されるようにしたり、80年代の作品では、デジタルなビート感が増していきますが、当時のノリを継承しながら、よりグルーヴィーにしています。

GOHさんをサポートするサウンド・エンジニアの鈴木夢時さん
GOHさんをサポートするサウンド・エンジニアの鈴木夢時さん

DAW「SEQUOIA」のオーディオ・エンジンによる優れた音質

−−では、MAGIXのDAW「SEQUOIA」について伺います。鈴木さんはすでに7年ほど使われているそうですが、GOHさんはいつ頃から使われているのですか。

GOH 僕は今年に出たベスト盤『ユーミンからの、恋のうた。』のマスタリングで初めて使いました。

--どうして使ってみようと思われたのでしょう。

GOH 以前使っていたDAWの信頼性に問題があったこともあるんですが、SEQUOIAがマスタリング業界ではスタンダードに近くなっていることもありますね。あと、何と言っても音がいいんですよ。DAW一つでそんなに変わるものかと思われるかもしれませんが、けっこう違うんですよね。

--SEQUOIAのオーディオ・エンジンの良さは、レコーディングで使っているエンジニアの方からも評判がいいようですね。そのあたりは実感されると?

GOH そうですね。96kHzのファイルを44.1kHzにサンプリング変換してプレイバックすると、他のDAWだとやっぱり小さくなったなという感じになるんですが、SEQUOIAだとそれがあまり感じないんです。もちろん実際にデータとしては小さくなっているんですが、そうとは感じさせないほど、処理能力が高いんじゃないでしょうか。

鈴木 GOHさんもおっしゃるとおり、サンプリングレート・コンバーターはすごく優秀です。しかも、SEQUOIAは複数のサンプリングレートのものを一つのセッションに並べることができるんです。96kHzでも88.1kHzでも、それらを同時に44.1kHzでリアルタイムに扱うことが可能で、それは他ではあまりない機能ですね。

GOH 今回のように、時代もバラバラなベスト盤などのマスタリングには絶対に必要な機能です。

鈴木 あと、SEQUOIAはメーターをはじめとするいろいろな表示機能が優れていますね。ユーザーがカスタマイズできるものもありますし、Spectrogramでは高周波に不要なノイズが出ていないかを視覚的に確認できます。聴感では分からないものもありますから、それらは先日のベスト盤でも役立ちました。実際にデジタルのテープを取り込むときに、聴感上は気にならなくても、部分的にノイズが乗っていることが視覚的に確認できることがあったんです。SEQUOIAの表示機能は、そういう品質チェックの面でも非常に優れています。

GOH 聴き落としというか、見落としがないんですね。

--操作性についてはいかがですか。

鈴木 UIは一般的なものなので、初めて使う人でもすぐに入り込めると思います。

GOH 僕も今回、初めて使ったわけですが、意外とすぐに使えるようになりましたよ。どの機能がどこにあるのかなど、慣れが必要な部分はもちろんありますけどね。

--SEQUOIAならではの特徴として、オブジェクト・ベースの編集機能がありますが、そのあたりはどうですか。

鈴木 もう大活躍しています。

GOH これによって、リミックスのような感覚でマスタリングを行えるんです。1曲を一つのオブジェクトと捉えるんですが、例えばイントロをもう一つ切り出して、二つ目のオブジェクトとして扱えばイントロだけで全然違う音作りができるんです。このように、バースや間奏で別々にオブジェクトを立ち上げればより複雑なマスタリングが行えます。これまでは、すべて一様にEQなどを施すことしかできませんでしたが、今はそのような単位でできますからね。ドラムのフィルが、1回目より2回目が小さかったら、2回目だけを上げたりすることもできます。

--マスタリングで曲中にメリハリや展開を付けられるということですね。

GOH そうそう。昔はミックスにも限界がありましたが、今だからこそのやり方でそこをちょっと補正してあげられるんです。本当はこの音はもうちょっと出したかったんじゃないかというのも、そこだけを上げることができる。それがオブジェクト・ベースのすごいところです。Pro Toolsでそれはできませんからね。

鈴木 すごくいいレベルの入れ方や音作りができたとして、あるところで歌が入ると歪んでしまうことがありますよね。普通であれば、もう一度セッティングを見直さなければならないわけですが、SEQUOIAならそこのオブジェクトだけを切って歪みを抑えることができます。そういう意味では、あきらめなくていいといいうか。

GOH ノイズがあったとしても、そこだけをオブジェクトで除去してまた元に戻すことも可能ですね。細かいところでは、子音なんかも補正できますからね。ちょっときついなという部分はそこだけ直しちゃうんです。

鈴木 子音をトータルで補正するとボケてしまうんですが、その部分だけを補正することでその問題は解決できます。

GOH こうなってきて、ようやくこれまでやってきた自分のミキシングのスタイルとマスタリングが一緒になったというか。やっと思い通りのイメージを思い通りに描けるようになったということですよね。その他の機能では、クロス・フェードもいいよね。

鈴木 そうですね。クロス・フェードもSEQUOIAは優秀ですね。

−−クロス・フェードはマスタリングでどう生かされるのですか。

GOH 先ほどご紹介したようなやり方、つまりオブジェクトで切った部分を戻すときはそのままではつながりません。そこは微妙なクロス・フェードをかけながらつなげていくわけです。まぁ、糊(のり)のような感じですよね。そこがうまくいくのもSEQUOIAのいいところだよね。

鈴木 そうですね。

−−SEQUOIAの安定性についてはどうでしょうか。

GOH 安定性もいいですよ。PCベースのSEQUOIAを僕はMacでBoot Campを使って走らせていますが、その組み合わせでも安定しています。ただ、メモリはたくさんあったほうがいいですね。今回のようにたくさんのマスタリングを進めていると、例えば1曲につき10のオブジェクトがあるとすると、10曲で100くらいのオブジェクトができてしまうし、さらにその中にOzoneのような重たいプラグインが1個ずつ入ることになりますから……。

鈴木 10曲なのに、実質的には切り分けたものを含めると100曲分が並んでいるという感じになってしまうのでメモリは多めに積んでおいたほうがいいですね。

--SEQUOIAを使っていて、その他に何か便利だと思った機能などはありますか。

鈴木 GOHさんとはセッション・ファイルをやりとりするだけで、作業を分担できるのは便利ですね。

GOH そう。僕が音を作ったりチェックしたりする中で、歪みが見つかればそのすべてにマーカーを入れて、鈴木君に伝えて直してもらうわけですが、その際、同じオーディオ・ファイルを共有しています。

鈴木 その修正を確認してもらうためにこちらから送るファイルは100KBくらいで済みますからね。

GOH メールに添付できるくらいだから、仕事も早いよね。

--SEQUOIAのノイズ除去機能はどうですか。

鈴木 DeClicker/DeCracklerもよく使っています。

GOH けっこういいですよ。あと、今回はマスタリングでは初期の頃の作品はテープ・ヒスが多いので、ヒス・ノイズを取り除くDeHisserもよく使いました。でも、全部は取らないんですよ。イントロの部分のヒスだけを取って、あとは残すんです。場合によってはヒスも音楽の一部ですから。

--それは興味深い部分ですね。

GOH イントロのピアノしかないところでスーッと鳴っていると気になりますから取りますが、そのあとは分からないようにつなげていくんです。曲の中に入れば無理して取る必要はないんです。レストアではないからね。

--むしろ、リミックスのような感覚もあるのでしょうか。

GOH そうなんです。聞こえ方を変えられる情報が驚くほど多いですから、今のリマスタリングはリミックスに近いですね。

−−ベスト盤『ユーミンからの、恋のうた。』を聴くと、オリジナルのCDに比べて松任谷由実さんのヴォーカルが活き活きとした感じになっていて、さらに全体的な奥行き感なども広がった印象で驚きました。

GOH 僕はミキシング・エンジニアでもあるので、マスタリングでもそうした観点で曲を捉えるところがあり、ヴォーカルをもう少し目立たせた方がいいなとか、もっとベースを大きくした方がいいかなとか、なんとなく感じたことをマスタリングに適応させていきます。もちろん、マスタリングではミキシングに比べて扱えるレベルは微々たるものですが、例えば10バンドくらいのダイナミックEQや帯域コンプを使って処理すると、リズム全体のノリが良くなったりするんです。ほんの少しだけの変化なんですけど、それによってキックの出音が良くなると、これに付随するベースなどもいい感じになっていくんですよ。

SEQUOIA×RMEが拡げる最新マスタリングの可能性

--ところで、ここではRMEのADI-2 DACが使われていますが、GOHさんはADI-2 Proもスタジオに導入されているとのことですね。これらRMEのDACやオーディオ・インターフェースとSEQUOIAの連携は、マスタリング作業にどんなメリットをもたらしますか。

GOH ADI-2 Pro本体にはスペクトラムのメーターが付いていますが、その反応が速くていいですね。これを見れば、どのくらいのところがブーストすると出てくるのかなというのが視覚的に分かる。それが意外に便利なんです。また、音も色付けがなくていいですよね。あと、ヘッドフォン・アンプとしても重宝しています。というのも、僕らはヘッドフォンで音楽を作ることはせず、専らノイズをチェックするためなんですが、そこがちゃんと聞こえないと困りますから。

鈴木 僕もRMEのBabyface Proを使っていますが、いちばんいいのは何もトラブルが起きないことですね。あと、RMEが提供しているソフトウェアDIGICheckのレベル・メーターやスペクトラム・アナライザーもよく使っています。こうしたメーター機能があれば、自宅で作業する場合も、変な音になることはないと思います。また、RMEはデスクトップ・ミキサーのTotalMixも提供していますね。例えば自宅のルーム・コンディショニングで、スピーカーからローが回ってしまっている場合もこのミキサーでディップしたりすることで、一般家庭でもそれなりのモニターはできるようになります。

GOH モニター環境と言えば、今作業しているこの組み合わせもすごくいいですよ。スピーカーはB&Wの805D3、パワーアンプはAYREのVX-5です。前回のベスト・アルバムで同じくB&Wの805Dを自宅のスタジオで使ったら作業がやりやすかったので、こちらでも使ってみました。DACはここではRMEのADI-2 DACを使っていますが、このモニターとの相性も悪くないですね。

マスタリングの可能性について語るGOH HOTODAさん
マスタリングの可能性について語るGOH HOTODAさん

--現代のマスタリングに求められる、いちばん大事なことは何だとお考えですか。

GOH 今はハイレゾのソースも増えていて、24bit/96kHzなどで録音されたものがそのままのスペックでリスナーに届きますから、ダイナミックレンジを大きくとって作ることが多くなりました。CDでレベルを上げるのは時代に逆行するようになりましたよね。一方で僕が興味を持っているのが、配信のためのマスタリングです。CDの場合は、高級なCDプレーヤーだとものすごくいい音なんだけど、安いCDプレーヤーだとそこそこの音しかしない。配信の場合は、聴く環境の違いがそれほど音に現れないと思うんです。しかも配信ではBluetoothで聴くことが多い。つまり、元々圧縮された音源を、さらに圧縮して飛ばしているわけです。これからは、そんな環境でもちゃんと音楽として成り立つようなマスタリングが必要なんじゃないかと思っています。

−−では最後に、SEQUOIAユーザーもしくは関心をお持ちの方に向けて、メッセージをお願いします。

鈴木 GOHさんもすぐに使いこなしていらっしゃるように、SEQUOIAはユーザー・フレンドリーなDAWだと感じます。そして、こうしたソフトが登場したことで、マスタリングという仕事の環境面のハードルは昔ほど高くはなくなってきていると思います。もちろん、いろいろと勉強は必要ですが、だれにとってもチャレンジしやすくなっていることは間違いないですね。

GOH  SEQUOIAを使い始めてまだ半年しか経っていませんが、意外なほどスムーズに移行できました。また、音がいいというのは大きいですよね。そして、今後に向けて楽しみなのは、MIDIやテンポを読み込んで通常のDAWとして使っていくと、グリッドに合わせたマスタリングができるんじゃないかと思うんです。そうすれば、よりリミックスに近づいていくようで楽しみです。マスタリングに限っても、いろんな可能性を秘めたDAWだと思います。

−−ありがとうございました。


作業日にも関わらず、我々の取材に快く応じてくれたGOH HOTODAさんと鈴木夢時さん。お二人が共有しているのは、大切な音楽が今の時代にどう響くかを大事にするという視点だろう。松任谷由実さんの名曲に「中央フリーウェイ」がある。もしこの曲がそのような視点でリマスターされて甦れば、車窓に流れる景色もいくぶん更新されたものになっているに違いない。


補記

2018年9月24日よりGOH HOTODAさんと鈴木夢時さんによるリマスタリングが施された、松任谷由実さん全オリジナル楽曲の一斉配信が開始されています。
『ユーミンからの、恋のうた。』とあわせてお楽しみいただけましたら幸いです。

 

また本記事の公開とあわせまして、SEQUOIAとADI-2 Pro / ADI-2 DACの特別なバンドル・セット発売と、SEQUOIAユーザー様向けADI-2 Pro / ADI-2 DAC特別優待価格でのご案内を開始いたしました。
世界中の録音やマスタリングの現場で愛される世界最高峰の高音質ソリューションを、お得にお求めいただけます。

 

SEQUOIA+RMEバンドル

シンタックスジャパン


エンジニア・プロフィール

GOH HOTODA

GOH HOTODA

1960年生まれ。東京出身。マドンナ『VOGUE』(1990年)をはじめ、ジャネット・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストン、坂本龍一、宇多田ヒカルなどの一流アーティストのミックスを手がけるプロデューサー/ミキシング・エンジニア。Studio GO and NOKKOを拠点に、近年はマスタリング・エンジニアとしても手腕を発揮している。

すずき ゆめとき

鈴木 夢時

1985年生まれ。東京出身。JVCマスタリングセンター、ユニバーサルミュージックスタジオでのエンジニア経験を経て、現在はフリーランス。手がけた作品は、ジャズや洋楽のリマスタリング・タイトルなど。

松任谷由実『ユーミンからの、恋のうた。』

ユニバーサル・ミュージック UPCH-20479/81(3枚組)◎ユーミンが「今聴いてほしい」と思う45曲をセレクトした、アルバム・デビュー45周年を記念したベスト・アルバム。2018年4月発売

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