RMEフラグシップ・マイクプリ12Micを使った「Air/Mei」録音プロジェクト - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
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RMEフラグシップ・マイクプリ12Micを使った「Air/Mei」録音プロジェクト

12Micを使った「air/Mei」録音プロジェクト

シンタックスジャパンでは、演奏会場の空気感も余すことなく録り込んだ録音段階から24 bit / 96 kHz以上の真のハイレゾ・コンテンツを供給するために、2013年にRME Premium Recordingsという音楽レーベルを立ち上げました。以後RMEを中心としたシステム設計や、録音から作品の販売までを行っています。その作品は名誉ある日本プロ音楽録音賞でも度々受賞しています。

2021年6月にRMEのフラグシップ・マイクプリアンプ「12Mic」が発売されましたが、発売にあたり、私たちは製品を現場レベルで深く理解し、その知識をお客様へと共有するために、「既存のマイクプリアンプとの機能と音質の違い」や「実際のオペレーション操作」、「AVBとMADIの音質の違い」を確認する必要がありました。

MADI & AVBネットワーク・オーディオ対応12チャンネル・デジタル制御マイク・プリアンプ「12Mic」
MADI & AVBネットワーク・オーディオ対応12チャンネル・デジタル制御マイク・プリアンプ「12Mic」

そこで実力派アーティストを手がけるマネージメント会社「Parade Artist」と協力し、シンガー・ソングライターとして活躍するMeiの新作「Air」のイマーシブ録音を行いました。「Air」は、ピアノとヴァイオリン、そしてMeiのボーカルだけという、ごまかせない編成で一発録りをするという、挑戦的なアルバムです。本アルバムでは、ピアノとバイオリンのデュオで活動する「kosame」が演奏およびアレンジを務め、トリオのライブ収録となるセッションが行われました。

録音会場は八ヶ岳やまびこホール。晴れれば2階からは3方に富士山、八ヶ岳、南アルプスが見える美しい景色に囲まれたロケーションで、過去にRME Premium Recordingsの収録が行われた三鷹市芸術文化センター 風のホールと同じ設計者によるホール。暖かい残響が印象的です。

八ヶ岳やまびこホール

八ヶ岳やまびこホール

エンジニアには、国内外でサラウンドの巨匠として知られるMick沢口氏を招き、RMEが持つ超低ノイズで解像度の高い音質を利用してマイクを使い分けるサウンド・コントロールやホールの響きの特性を音楽的に最大限に取り入れるためのマイキング、録音、そしてイマーシブ・ミックス、ステレオ・ミックスの作成を行っていただきました。

以下が今回使用されたシステム図です。

まず今回の主役となるマイク・プリアンプ「12Mic」と比較するために、同じRME製の「Micstasy M」と「OctaMic XTC」が用意され、同条件で録音するために分配器を設置し、ケーブルの長さなども揃えて設置されました。

右側:上から「Micstasy」、「OctaMic XTC」、「12Mic」の3機種のマイク・プリアンプ
右側:上から「Micstasy」、「OctaMic XTC」、「12Mic」の3機種のマイク・プリアンプ
コントロール・ルーム
楽屋に設置されたコントロール・ルーム。メイン録音PCには沢口氏が操作するPyramix、比較用のPCにはそれぞれSequoiaが使用されました。
PyramixシステムとGenelec 8341APとADI-2 Pro FS
メインの録音システムではモニター・スピーカーにGenelec 8341APを採用。GLMで部屋のキャリブレーションを行い最適なルーム補正がされている。また、沢口氏はMadiface XTからAES/EBUでADI-2 Pro FSに接続してDAする方法でベストなモニタリング環境を採用。

また、今回の録音では長年に渡るスタジオ・モニターの定番として支持を得るGenelec Japanの協力により、大楽屋内でイマーシブでミックスされたライブ演奏がリアルタイムで視聴できるように5.1.4の再生システムが用意されました。

イマーシブ・ルーム

本システムでは、一般的な商業施設でも同じ試みが可能かどうかを検証するため、マルチチャンネル・オーディオを一般のLAN回線で送受信が行えるAVBを使って伝送しています。コントロール・ルームでミックスされたオーディオは、イマーシブ再生ルームのRMEのAVB - アナログ・コンバーター「M-32 DA Pro」に送られ、DAコンバートした信号がGelenecスピーカーで再生されました。

この大楽屋は、音楽再生を主目的として設計されておらず、反響が多くモニタリング環境としては劣悪と言って良い状態でしたが、Genelecのルーム補正「GLM」を使うことで見事にフラットで聞きやすい環境を整えることができました。

M-32 DA Pro
AVB - アナログ・コンバーター「RME M-32 DA Pro」

AVB接続は、システムの中心に配置されたAVBブリッジ(スイッチング・ハブ)PreSonus SW5Eに全ての機器を接続し、PCから各機器間のオーディオ信号の流れを制御する仕組みのため、配線がとてもシンプルです。この接続方法をスター接続と呼びます。また、パソコン上からパッチベイ管理ができることから、セットアップの違う別のプロジェクトでも物理的な配線の変更が必要ありません。

PAの現場などでLANを採用したシステムとしてDanteが現状使われていますが、AVBはAVB対応の特別なスイッチを使うため、ITやネットワークの知識がなくてもスイッチが自動的にオーディオの伝送優先順位を計算し、精密なタイミングで音声の伝送をコントロールします。この精度の高さが、AVBが自動化された工場製造ラインや車などで採用されている理由のひとつでもあり、特に設備や大規模なシステムでは大きなアドバンテージとなります。

AVBインフォメーション

SW5E
PreSonus SW5E

次にマイクとマイクの設置について解説します。以下がマイキングとホール内のセットアップ図です。

ご覧のように、ホール録音では演者がお互いの顔を確認する必要があるため、三角になるように演者が配置されました。またスタジオ録音と違い、ホールの響を聴きながらそれにあ合わせて演奏するのでモニターにヘッドフォンは使用せずに、フォールドバック(FB)スピーカーとしてGenelec 8020DPMが2台設置されました。マイキングとポジショニングは、スピーカー音を如何に拾わないようにするかが工夫され、演者の配置、最適なマイク選び、ポジショニングが考えられています。

 

演者が希望するバランスとマイクポジション、FBスピーカーの位置、角度を微調整する様子
演者が希望するバランスとマイクポジション、FBスピーカーの位置、角度を微調整する様子
Vangard V13
ボーカル・マイクにはチューブ・コンデンサーのVangard V13が採用。沢口氏は「キャラクター・コントロールに加えてディエッサーの役割をも果たすことができる」と語ります。横に配置されたAustrian Audio OC818は、FBスピーカーへのモニター用。
SONTRONICS APOLL
バイオリン・マイクに採用されたSONTRONICS APOLLはリボン・マイクでありX/Y録音が可能な珍しい仕様。
Austrian Audio OC818
ベーゼンドルファーのコンサート・グランドにはAustrian AudioのコンデンサーOC818を採用。左のマイクはLeft、真ん中がRight、右がCenterでそれぞれカーディオイドで設定されている。
Sanken CO-100
ステージ前方の左右に天井に向かって配置されたのはSanken CO-100で、ミックスではリア・サラウンドのアンビエンスとApfのハイト・チャンネル成分の収録の役割も果たす。
Sanken CUW-180
2階席両脇に設置されたSanken CUW-180は、X-Yステレオ・マイクでハイト・サラウンドとボーカルのリバーブ成分の収録も兼ねている。

録音、ステレオおよびイマーシブ・ミックスが完成し関係者での視聴会が行われ、同時にMicstasy M、OctaMic XTC、12Micの視聴比較と、12MicのMADI、およびAVBの視聴比較を行いました。沢口氏は12Micのサウンドについて「現代的な解像度の高さとバランスの良さがあり、それに対して15年前に発売されたMicstasy Mは12Micと比べアナログのような質感がある」とコメント頂きました。

これらの音源は、以下のリンクからダウンロード、ご視聴いただけますので、皆様も是非視聴比較してみてください。

 12Mic (AVB経由)

 12Mic (MADI経由)

 OctaMic XTC (MADI経由)

 Micstasy M (MADI経由)


この録音プロジェクトでは2日間で計10曲が収録され、Picnic Recordsより現在各種配信サービスにて販売開始されています。

Mei-Airアルバム:Air
アーティスト:Mei
リリース:2021.07
picnic record
PIC002

詳細

プロフィール

ミック沢口ミック沢口

プロデューサー、録音、ミックス、マスタリング

1971年千葉工業大学 電子工学科卒、同年 NHK入局。ドラマミキサーとして「芸術祭大賞」「放送文化基金賞」「IBC ノンブルドール賞」「バチカン希望賞」など受賞作を担当。1985年以降はサラウンド制作に取り組み海外からは「サラウンド将軍」と敬愛されている。2007年より高品質音楽制作のためのレーベル「UNAMAS レーベル」を立ち上げ、さらにサラウンド音楽ソフトを広めるべく「UNAMAS-HUG / J」を 2011年にスタートし 24bit/96kHz、24bit/192kHz での高品質音楽配信による制作および CD制作サービスを行う。2013年の第20回日本プロ音楽録音賞で初部門設置となったノンパッケージ部門 2CHで深町純『黎明』(UNAHQ-2003)が優秀賞を受賞。2015年には第22回日本プロ音楽録音賞・ハイレゾリューション部門マルチchサラウンドで『The Art of Fugue(フーガの技法)』が優秀賞を、続く第23回では、ハイレゾリューション部門マルチchサラウンドで『Death and the Maiden』が優秀賞を受賞。さらに第24回日本プロ音楽録音賞の前同部門において最優秀賞を受賞、第25回日本プロ音楽録音賞・ハイレゾリュージョン部門「クラシック、ジャズ、フュージョン」において最優秀賞・スタジオ賞を受賞。日本プロ音楽録音賞4年連続受賞の快挙を成し遂げる......ハイレゾ時代のソフト制作が如何にあるべきかを体現し、シーンを牽引しつづけている。


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