瀬口 晃平 - Fireface UFX+Micstasy:デジタルとアナログ ─ 両方の利点を備えたRMEの録音システム - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
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瀬口 晃平 - Fireface UFX+Micstasy:デジタルとアナログ ─ 両方の利点を備えたRMEの録音システム

ドイツのスタジオやコンサートホールでの録音経験を生かし、株式会社ラプトサウンドにてレコーディング・ディレクターを務める瀬口晃平氏。氏はそのキャリアの当初からRMEを使い、国内外、特にヨーロッパにて数多くのクラシックの録音を手がけてきました。日本ではなかなか情報の少ないクラシックの本場での録音事情など、貴重なお話が満載のインタビューをどうぞお楽しみください!


─ 株式会社ラプトサウンドに関して少しお話を聞かせてください。

ラプトサウンドは、関西を中心に活動する音楽制作会社で、クラシックのコンサートの企画やCD録音を手がけています。また、ドイツ・ハイデルベルクにある、ドイツ最大級のプライベートスタジオ「トーンスタジオ・テイエ・ファン・ギースト」と提携していますので、現地でのスタジオ収録やヨーロッパ各地への出張録音を行うことができます。経験に裏打ちされた技術を駆使した録音は、国内外の専門誌でも高い評価を受けています。

─ 瀬口さんはどのような経緯でこのお仕事をするようになったのでしょうか?

レコーディング・エンジニアとしては、最初に株式会社USENの「スタジオUSEN」でアシスタント・エンジニアに誘っていただいたのがきっかけです。BGMの国内シェアにおける最大規模の企業のスタジオでしたので、あらゆるジャンルの音楽が日々レコーディングされていました。
レコーディング・ディレクターになりたいと思ったのは、当時のチーフ・ディレクターの影響です。
その2年後ぐらいにあるきっかけがあり、そこで本格的にクラシックの録音を始めました。 そのきっかけというのは、当時、大阪音楽大学の教授がドイツからプロデューサーを招いてレコーディングをされていて、その現場で初めてファン・ギースト氏に出会いまして、氏はフィッシャー=ディスカウやヘルマン・プライなどの録音を数多く手がけ、ドイツリートの最も信頼できるプロデューサーと言われているトーンマイスターなのですが、そのときに聴いた氏の録音に感動したんです。『これまでに聴いた事がない!』という音で。そこで、この人に付いて勉強したいと思い、思い切ってその場でお願いしたんです。そしたら幸運にも快諾いただきまして、スタジオに研修生として入る事ができて2年後に正式に入社しました。

 

─ そのスタジオが先ほどラプトサウンドが提携していると仰っていた「トーンスタジオ・テイエ・ファン・ギースト」なのですね?

はい。ドイツの名門スタジオで、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団や、イギリス室内管弦楽団をはじめ、多くのアーティストに利用されているレコーディング・スタジオです。
数々のゴールドディスクやグラミー受賞作品がここで制作されてきました。8年間に渡りこのスタジオで体験した経験、音楽、人との出会いは今の僕にとってかけがえのないものになっています。

 

─ ドイツでもRME製品をつかって録音されていたのですか?

はい。初めてRMEに出会ったのがドイツでした。研修で入った当初から、トーンスタジオ・テイエ・ファン・ギーストでもRMEが使われていました。最初はMADI Converterが1台のみでしたが、徐々にその使い勝手の良さや音質の良さから、Multiface、Digiface、OctaMicと多数のRME製品が導入されていきました。その後、OctaMic IIとDigifaceの組み合わせで、10カ国以上のヨーロッパのさまざまなオーケストラの録音を行いました。オーケストラの待つコンサートホールまで、時には国境を越えて車で1000km以上走ります。ワンボックスに機材を積んでドイツのアウトバーンを走る事のできるコンパクトさと丈夫さを兼ね備えたこの組み合わせは、まさに我々にうってつけの録音機材でした。スタジオの先輩トーンマイスターである、エカート・シュタイガー氏と共に担当したCD作品「Salieri:Overtures & Stage Music」がグラミー賞にノミネートされた時のレコーディング・セッションもOctaMic IIとDigifaceの組み合わせでした。

 

─ 日本に帰って来てからは、ずっとラプトサウンドでレコーディング・ディレクターを?

はい。そうですね。

 

─ レコーディングは、やはりクラシックが中心ですか?

はい。90%以上はクラシックですね。

 

─ ちなみにDAWソフトはなにを使っていらっしゃいますか?

ドイツで録音をしていた当時から、MAGIX社のSequoiaですね。今も慣れているのでSequoiaをずっと使っています。

 

─ ヨーロッパではやはりSequoiaがメジャーなんでしょうか?

日本で見かける機会は多くないですが、ヨーロッパでは放送局やスタジオでよく見かけます。


「我々の楽器の音が聴こえる」

─ 瀬口さんが手がけた録音に関していくつかお話を聞かせてください。まず、一昨年に手がけられたロータス・カルテットのブラームス弦楽四重奏曲とシューベルト弦楽五重奏曲の2作品ですが、これらもRMEを使って録音されたのでしょうか?

Brahms String Quartets op.51
Schubelt Strings Quartet D956

はい。ブラームスの方はDigifaceとOctaMic IIで録音しましたが、シューベルトの方はFireface UFXMicstasyを使いました。ロータス・カルテットは4名のメンバーのうち3名は日本人なんですが、もう20年以上ドイツで活躍されている方々なので、収録は先ほどお話ししたドイツのスタジオで行い、リリースは日本で行いました。専門誌でも高く評価して頂き、Stereo誌で優秀録音盤、レコード芸術誌で特選盤に選ばれました。

 

─ Fireface UFXとMicstasyはいつ頃導入されたのですか?

UFXは2011年、Micstasyは2012年から使い始めたと思います。Micstasyを導入してからの周りの反応には目を見張るものがあります。Micstasyを使用したピアノの録音では、高域は澄んだ透明感があり、低域は臨場感のある密度の高い音が収録できます。いままで聞こえなかった共鳴音やハンマーが弦にあたる瞬間の音、倍音豊かなサウンドを聴くことができるのは、その解像度の高さのおかげだと思います。これは、録音をしている私だけではなく、演奏家も同じことを言ってくれます。今回のロータス・カルテットのレコーディング・セッションでも、録音テイクを聴いていただいた最初の感想は「我々の楽器の音が聴こえる。」というものでした。 私は、作曲家の心の表情や演奏家が持っているそれぞれの個性や魅力が聴き手に伝わるような録音を目指しています。MicstasyとFireface UFXの組み合わせで今回それが実現できたと思います。

 

─ マイクはどのようなものを使いましたか?

今回は、第一、第二ヴァイオリンとチェロには、ノイマンのU-47やU-87、ヴィオラにKM86、オフマイクにSCHOEPSのmk3とmk4を使いました。 U-47やU-87はその時の楽器の音を聴いて選びますが、ヴィオラは他の楽器の音に埋もれてしまわないようにKM86を良く使います。このようにスタジオでは、各楽器にマイクを立ててミックスすることが多いです。

 

─ OctaMic IIの音質の印象はいかがでしょう?

Micstasyもそうでしたが、OctaMic IIもとにかく音がクリアですね。スタジオでの響きがそのまま録れるといった印象です。他のブランドのマイクプリも使う事があるのですが、それと比べても圧倒的なクリアな音質だと思います。

 

─ レコーディングした際になにかご苦労された事はありましたか?

いえ、特にトラブルもなく、安定した動作で非常にスムーズな収録を行う事ができました。

 

─ 今回の作品はCDフォーマットでリリースされていますが、収録はハイレゾで行っているのでしょうか?

そうですね。96kHz/24bitです。ドイツでも96kHzはスタンダードになりつつあります。最終的なフォーマットが44.1kHzだとしても、やはりハイレゾで録っておく意義はあります。この間も192kHzで8チャンネルの収録を行いました。USB接続のUFXで内蔵のHDDに録りましたが、特にPCに対する負荷も感じませんでしたね。Fireface UFXとMicstasyは、デジタルのクリアさとアナログの音の太さの両方の利点を兼ね備えた、素晴らしいプリアンプとインターフェイスだと思います。


良い収録が出来る時は、決まって雰囲気の良い時

─ では次の作品に関してなのですが、先日行われたというイギリスの名門オーケストラ「アカデミー室内管弦楽団」とのレコーディングに関して少しお話を聞かせてください。

ヘンリー・ウッド・ホール

ヘンリー・ウッド・ホール

ヘンリー・ウッド・ホール

はい。先日、ロンドン市内にあるヘンリー・ウッド・ホールでピアノとオーケストラのレコーディングに参加してきました。演奏はフランスの著名なピアニスト、シプリアン・カツァリス氏と、オーケストラは、長年17~18世紀の音楽を専門にしてきたイギリスの名門、アカデミー・オブ・セントマーティン・イン・ザ・フィールズ(アカデミー管弦楽団)。指揮は、サー・ネヴィル・マリナーです。この作品はカツァリス氏自身のレーベル、"Piano 21" からリリースされています。シプリアン・カツァリス氏とは、6年間に渡り20枚以上のCDを制作してきました。

コントロールルームの風景。UFXにOctaMic II2台がADAT接続されている。
コントロールルームの風景。UFXにOctaMic II2台がADAT接続されている。

─ 代表作をいくつか上げていただけますでしょうか?

ピアノという一つの楽器で様々な音楽とテクニックを楽しむのであれば、Piano Raritiesシリーズがお勧めです。現在Vol.3までリリースされています。オーケストラにも興味を持っていただけるなら、モーツァルトのピアノ協奏曲シリーズを聴いてみてください。このシリーズは、Vol.5からミックスで参加しています。特にVol.6はオーケストラと2台、3台のピアノのための協奏曲なので、ソロ楽器が左右に振り分けられていておもしろいと思います。

今回は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲 第5番「皇帝」の収録だったのですが、サウンドチェックから演奏は素晴らしく、レコーディングはとてもスムーズに進みました。

シプリアン・カツァリス氏とサー・ネヴィル・マリナー氏
シプリアン・カツァリス氏とサー・ネヴィル・マリナー氏

良い収録が出来る時は、決まって雰囲気の良い時です。私はレコーディングの時、できるだけシンプルで音質の良い機材を選定して、トラブルの回避とセッティング時間を短くすることを心掛けています。そうしてできた時間で演奏者と積極的にコンタクトを取って、楽しく、雰囲気良く収録に臨む方が良い結果が生まれやすいです。そういった点から、Fireface UFXとOctaMic II 2台をそれぞれトランクに入れてロンドンまで運びました。私がレコーディングに必要なものがコンパクトにまとまっていて非常にありがたいです。


UFXの素晴らしいところは、DURec

秋篠音楽堂
秋篠音楽堂

─ 瀬口さんは、大阪に先日オープンした地上300m日本一の超高層ビル、「あべのハルカス」に関わるお仕事もされているとお聞きしましたが、最後にそのお話も少し聞かせていただけますか?

はい。「あべのハルカス」内にオープンした、あべのハルカス近鉄本店のオープニングとクロージングの曲のレコーディングを行いました。

 

─ レコーディングはどこで行ったのでしょうか?

奈良県唯一のクラッシック専用ホール秋篠音楽堂で収録しました。シューボックス型で響きがとても美しいホールでした。 作曲と演奏は、ヨーロッパツアーを行うなど、国内外で評価の高いコンポーザー・ピアニストの天平氏が手掛けています。天平氏とは「火の鳥」という作品のレコーディングを依頼されたのがきっかけで、そちらも素晴らしい作品なのですが、今回の2曲も素晴らしい才能を持った天平氏の世界を堪能していただけると思います。

この録音も、MicstasyとFireface UFXという組み合わせを使いました。先程もお話ししましたが、Micstasyは自然で透明感のある録音ができるので気に入っています。ピアノにオンマイクでセッティングすると高域に澄んだ透明感があり、低域は密度の濃い原音に近い音を拾うことができます。天平氏のダイナミックで華やかな演奏も会場の音そのままに再現してくれます。

コントロールルームの風景。UFXにOctaMic II2台がADAT接続されている。
コントロールルームの風景

─ DURecも使っていただいているそうですね?

はい。レコーディング時におけるUFXの素晴らしいところは、DURec機能です。これは、UFXにUSBメモリーや外付けハードディスクを直接接続することで、PCに録音されるものと同じ信号を同時にバックアップできる機能なのですが、この機能があるおかげで収録時に安心して作業ができます。いままでバックアップ用に別途ハードディスクレコーダーを用意していたので、それに比べるとセッティングがずいぶんと楽になりました。それまでは、マイクプリからアナログでバックアップのためのハードディスクレコーダーに結線するのも手間でしたし、その場合、結局全く同じ信号ではないので悩みの種でもありました。その点、DURecはメインと同じUFXのインプットから直接信号をバックアップに録ることができるので、音質面でも完璧です。また、インターリーブファイルで録音するので安定性も非常に良いですし、大きなハードディスクを用意すればレコーディングが始まってから終わるまでずっと回しておけるのでライブ収録では特に心強いです。
コントロールルームが、やっとハードディスクレコーダーのファンの雑音から解放されたのも嬉しいです(笑)。

また、今回は商業施設の空間演出ということで、実際に放送される環境に柔軟に対応しなくてはなりませんでした。後日、実際の環境に合わせてミックスすることを考えて、多くのマイクを用意しました。Micstasyを使えば、これだけ高音質なヘッドアンプをピアノソロ収録には十分なチャンネル数確保できることも大きな魅力でした。

ピアノに配置された6本のマイク
ピアノに配置された6本のマイク

─ マイク・アレンジはどのようなものだったのでしょうか?

マイクは、アンビエンスにSCHOEPSのMK3と、ピアノの近くにNEUMANNのU87を6本使いました。マイクをMicstasyに接続し、MicstasyとUFXをADAT接続、96KHzでレコーディングを行いました。UFXからUSB接続でPCに録音し、また、同じ信号をバックアップ用にDURecを使ってUFXに直接HDDを接続し録音しました。現場でのモニターもUFXのアナログアウトから直接接続するという、いたってシンプルな結線をしています。たまに、MicstasyとUFXをアナログで接続して192KHzでレコーディングをすることもありますが、その場合もとても安定しています。

─ サンプル・レートにもよりますが、例えばUFXですと最大2台のマイクプリをADAT接続できますが、合計20チャンネル分のマイクを使って、クラッシックの録音の場合どのような編成まで録ることができるものでしょうか?

ソロや声楽、アンサンブルはもちろん、室内オーケストラは20チャンネルで十分各パートにマイクを立てて収録ができます。先程ご紹介した、カツァリス氏のモーツァルト・ピアノコンチェルト・シリーズは、16チャンネルで収録しています。大編成のオーケストラでも、会場が良ければ20チャンネル以下でとてもダイナミックなレコーディングが可能です。RMEのFireface UFXとMicstasyなどのマイクプリを使えば、コンパクトながら音質に一切の妥協がない録音をバックアップも含め行う事ができるので、日本でもこれから多くの現場で採用されていくだろうと思います。また、私自身も、これからもドイツで学んできた技術と音楽の心を日本でのレコーディングに生かしていきたいと思います。

 

─ 本日はありがとうございました。


瀬口 晃平/レコーディングディレクター プロフィール

瀬口 晃平

クラシック音楽を専門とするレコーディングディレクター。
2001年、株式会社ラプトサウンドに入社。
スタジオUSENでアシスタントエンジニアを経験後、2004年に退社して渡独。2年の研修期間を経て、ドイツ・ハイデルベルクにあるレコーディングスタジオ、Tonstudio van Geest社に入社。
Claves、ECM、Hänssler Classics、NAXOSなどのレーベルの依頼により、 シプリアン・カツァリス、シュトゥットガルト室内管弦楽団、ラ・プティット・バンド、アルボ・ペルト、エストニア交響楽団など、数多くのCD作品の制作を手掛ける。 レコーディング技術、デジタル編集を担当した、「マンハイマー・モーツァルトオーケストラ」のCD作品は、2011年ロサンゼルスで開催された、「グラミーアワード」にノミネートされた。

 

株式会社ラプトサウンド オフィシャルサイト:http://www.rapt-sound.com/

ロータス・カルテット
プロフィール:http://www.kojimacm.com/artist/lotus/lotus.html
オフィシャルサイト:http://www.lotus-string-quartet.de/

天平 オフィシャルサイト:http://tempei.com/

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