TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND RMEユーザー・インタビュー - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
RME Users
導入事例
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND

2019年1月から放送中の「賭ケグルイ××」の音楽担当をはじめ、アニメを中心に多方面でご活躍されている『TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND』(以下、テクノボーイズ)。2014年にはポピュラーミュージックでは史上初となるDSD11.2MHzマルチトラック・レコーディングを実施されるなど、ハイレゾへの取り組みにも力を入れられています。 今回ADI-2 Pro Anniversary Editionを3台(1人1台)導入し、レコーディングを行われていると知りお話を伺いました。
「Prophet-5の鍵盤を押したとき、発振器が発振する音まで録れる」と彼らが語るADI-2 Proの実力とは?!


テクノボーイズでは、以前よりハイレゾで録るシンセサイザーの音にこだわられて作品を作られている印象ですが、どういった経緯で始められたのでしょうか?

フジムラ:「visible invisible」という作品で、当時発売されたばかりのDSDマルチトラック・レコーダーを使ってDSD11.2MHz録音をやるという雑誌の企画を行ったのが最初のハイレゾ録音です。この企画のために曲を書き下ろし、DSDだったので編集なしの一発録りで制作しました。 また同じ頃「good night citizen」という作品のハイレゾ・ミックスをテクノボーイズのプロデューサーが作り、聴いてみたら「なんじゃこれは!空間表現がまったく違う!!」となりまして(笑)

石川:ちょうどその頃「シンバルってこんなにいい音だったっけ?」というデータがあったのですが、あとで見直したら設定を間違えて192kHzで録音していたことが判明したということがありました。

フジムラ:そのような様々な要因が2014年頃に重なって「最初からハイレゾで録ろう」となったのが「トリニティセブン」というアニメ作品の劇伴でした。それまで24bit/48kHz環境だったのを、32bit/96kHz環境に移行しました。当時は192kHz対応のエフェクターが揃っていなかったこともあり、この環境で制作することになりました。

当時だとハイレゾ配信される楽曲はクラシック、ジャズなどが中心だったと思いますが、反響などはいかがでしたか?

松井:思っていた以上にオーディオ業界の方から反響をいただきました。マルチトラックでハイレゾを録るというチャレンジを、暖かく見守っていただいたというか(笑)

石川:当時はソフトシンセ全盛期だったので、ハードシンセを使っている人が少なかったのも期待に応えられたというか

フジムラ:ソフトシンセにはないハードシンセの音をすべて記録することが、僕たちがハイレゾに取り組んでいる理由で。

石川:レンジを広げて録れる音域を増やす。ハイレゾでないと録れない音がアナログシンセにはあります。

松井:僕たちのやっている音楽だと音の太さとか空間表現をコントロールできるので、そこを最初に評価してくれたのがオーディオ業界の方々でした。

フジムラ:ヘッドフォン祭などでお話を伺うと、「トリニティセブン」をリファレンスにされている方が大勢いてくださって。それまでもハイレゾのアニソンはあったのですが、徹底してハイレゾに取り組んだ作品はそれほど多くなくて、多くの方に手にとっていただくことができました。

松井:あとクラシックやジャズの楽器には出せない帯域でも、シンセサイザーは音を入れられるんですよね。例えばキックの低域でも「普通は余白になってる帯域を埋めようとするやつらがいるぞ」と言われたり。

一同:(笑)

確かにシンセサイザーにしかできないことですね。
今回ADI-2 Proをご導入いただいたわけですが、実際ご使用いただいていかがでしょうか?

石川:私のハイレゾ体験はシンバルの音から始まったわけですが、192kHz以上の音が録れるなら録るしかないなと。

松井:究極的にはアナログテープに近づけたいという思いがあります。やはり192kHzを体験してしまうと、96kHzは物足りなさが出てしまいますし、最終的にはCDの44.1kHzにまで落として発売されたりするのですが、ハイレゾで収録しておくとCDフォーマットに直したときもハイレゾの余韻が残っていて、48kHz収録で作業していた時よりも緻密なミックスができていますね。

石川:アナログテープの時代でもあったことですが、録った音は変わってしまうんですよね。ミュージシャンのジレンマなんですが、こだわって作った音が変わってしまうと意外とショックで。

フジムラ:狙いで音を変える方法論があったり、テープはテープなりの味も出たりするんですが、それが積み重なるとストレスになります。なので音が変わらずそのままの音を録ってくれるので、ADI-2 Proはミュージシャンにとって楽です。ストレスが無くなります。

テクノボーイズはハードシンセを使われているので、シンセのDA、それこそ出力端子まで含めて音作りをされていらっしゃいますので、変わらない音っていうのは重要ですよね。

石川:そうなんです。ハイレゾで収録するようになって、シールドや電源にもこだわるようになりました。それまではあまり目を向けていなかったのですが、制作環境全体で見直すきっかけになり、すべてをORBに切り替えました。それまで使っていたケーブルとは音の再現性が別次元でした。

フジムラ:僕たち3人がそれぞれの自宅で制作をして持ち寄ることもあるので、3人とも制作環境のクオリティは合わせるようにしています。ADI-2 Proも3台同時に購入させていただいたのは、こういった理由です(笑)

ありがとうございます。のちほど音源を聴かせていただくわけですが、この音源はどのように録音されたものでしょうか。

石川:ストリングスはサウンドシティで録音しました。内訳はバイオリン2本とビオラ、チェロのそれぞれにマイクを立て、アンビエンス用のマイクもセッティングしています。それをLEXICON 480Lを使ってPro Toolsで録った音です。当時はPro Toolsだったので192kHzでの録音です。その音源をStudio Oneで384kHzにアップコンバートしています。
シンセサイザーはProphet-5、DeepMindなどをエフェクトを切った状態でADI-2 Proに直挿しして録っています。直挿しでもまったく問題ないです。

フジムラ:RMEはHAも一つの魅力ですし、途中になにか挟むことによって余計な色を足したくなかったですね。

松井:素のままの音を取り込んで、あとはコンピューターとアウトボードで処理をするのが僕たちの考え方なので、とにかく余計なものは削ぎ落としていって最短距離で録音しています。

石川:384kHzの環境で間になにかを挟むと、途端に違和感を感じたり良いところが失われてしまうような気がして、精神不衛生な状態になってしまいます(笑)電気を音に変えて録るということを見直して、一つ一つの音の導線を良くしたことが具体的にやったことでしょうか。

フジムラ:という録音をいまやっている真っ最中でして、384kHz環境でのミックスはこれからになります。今まではPro Toolsを使っていたので、Studio Oneでのミックスもはじめての作業になりますし、エフェクトも384kHz対応のものはほとんどないので、これから誰もやったことがない試行錯誤が始まると思います。

石川:実験的に「ハイレゾ対応のエフェクトがないならホールで録ればいいじゃない……」ということで、実際にホールで録音をしてみたり、トンネルで録音してみる話がでたり、ADI-2 Proは軽いのでどこへでも持ち運べて録れるのも魅力の一つですね。

松井:みんながやっていることを同じようにやっても意味がないと思いますし、音も楽しくならないので、こういった試行錯誤が僕たちらしい音を作るきっかけになっているんだと思います。

石川:あとディスプレイのアナライザーが便利ですね。録っているのが見えるのがいい。実際に音を出してみて、500Hzが足りないなとかが感覚でなく、見た目でわかるのは嬉しいところです。

フジムラ:最近のプラグインは良いものが多いので、録りがいまいちでもあとでなんとかするって考えてしまいがちですが、やっぱり録り音がいいほうがいいよなって。

松井:より良い素材、いい魚が取りたいっていう気持ちですね。(笑)

石川:384kHzでレコーディングしてみて一つ発見したことがありまして、Prophet-5の鍵盤を押して発振器が発振を行う音まで録れちゃうんですよ。それまでの作品にも残っていなかったので意識していなかったんですが、鍵盤を押すと出る「ジッ」っていうごくごく僅かな音まで入っているんですよ。

フジムラ:本当にそのままの音が録れていて、使い始めた当初はプレイバックを聴くことがタイムマシンに乗っているような不思議な感覚でした。知らず知らずのうちに録った音は別物っていうフィルターが頭の中に組み込まれてしまっていたんですね。

松井:レコーディングの話ばかりでしたがADI-2 Proはリスニングもいいですね。CD音源であっても解像度が高い、定位感のしっかりした音で鳴らしてくれて「あれ?こんな音してたっけ?」っていう発見が自分の曲でもあったりします。

フジムラ:それまでのRMEの製品と比べても、DSD対応も含めてオーディオ・リスニングでの使い方にも向いてますね。その昔、Babyfaceがオーディオ・リスニングに使われていると聞いたとき驚きました。オーディオ機器は大きいっていうイメージがありましたし、音楽制作用の機材をリスニングに使うのかっていう新鮮な驚きでした。

ADI-2 Proはテクノボーイズの皆さんのようなミュージシャンやエンジニアの方だけでなく、リスニングの方たちにも非常に喜んでいただいております。特に録音にも対応しているため、レコードのデジタル化にチャレンジされている方も多いようです。今回はPCMでの制作ですが、以前行われたDSDとどのように違いを感じておられますか?

フジムラ:DSDはレコード・アナログというイメージ、それに対してPCMはCD・デジタルというイメージですね。DSDは編集が行えず苦労が絶えないので、制作するにはPCMがいいですね。

松井:音質的にもポピュラー・ミュージックをやるのであればPCMの方が向いている気がします。以前のDSD収録のときはDSDで映えるような曲を作って臨みました。

石川:私はDSDでピアノをがっつり録りたい(笑)でもADI-2 ProはPCMとDSDのどちらにも対応していますし、PCMとDSDの特性の違いを録った機材で聴くことができます。PCMもDSDも究極的には鳴っている音が変化なく録れて、変化なく聴くことができることだと思います。ADI-2 Proはこの大きさでどこでも持ち運べて、録音をしたりライブで使ったり、色々な楽しみ方を見つけてください。

本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。


アーティスト・プロフィール

TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND

TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND

フジムラトヲル(コンピューター・ベース・ボーカル)、松井洋平(コンピューター・サンプラー・ボーカル)、石川智久(コンピューター・キーボード・ボーカル)の3人組。

1994年、結成。2006年に1stアルバム「music laundering」をリリース。2007年公開のアニメ映画「EX MACHINA -エクスマキナ-」では音楽監修を務めた細野晴臣の指名により、楽曲「LOST SECOND」を提供した。2014年に2ndアルバム「good night citizen」をリリース。同年から「ウィッチクラフトワークス」「トリニティセブン」など多数のテレビアニメ作品の劇伴やテーマ曲を手がける。2015年にはテレビアニメ「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」の劇伴とエンディングテーマ「打ち寄せられた忘却の残響に」の制作を担当。このED曲はTECHNOBOYSにとって初となるメジャーレーベル・Lantisよりシングルリリースされた。また「おそ松さん」に提供した「SIX SAME FACES」はゴールドディスクを獲得。2017年にはテレビアニメ「魔法陣グルグル」「賭ケグルイ」の音楽、2018年には「深夜!天才バカボン」のOP楽曲制作を担当。アニメ「ガイコツ書店員本田さん」では主題歌を含む全音楽を担当、EDでは高野寛とのコラボレーションも。2019年3月27日、結成25周年記念ベストアルバム「MUSIC FOR ANIMATIONS」をリリース。

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