導入事例
東京は麻布台に居を構える著名な総合音楽スタジオ、Sound City。都内屈指の広さと天上高を持つAstは、フルオーケストラの同時録音にも対応しており、美しいストリングスの響きには定評がある老舗スタジオとして有名です。2013年にはSound City Annexとして新たに別棟にスタジオ棟をオープンし、ますます意欲的に事業を拡大中の同社ですが、昨今のライブ収録需要の増加に伴い、コンサートSRの世界も含め広くレコード会社やアーティスト・サイドからの依頼に応じて、高品位な収録からトラックダウンまでを専門スタッフがトータルサポートする事業を新たにスタートさせました。
事業を開始するにあたって同社が導入したのは、RMEのMADI機器を組み合わせたレコーディング・システム。ステージ・サイドに置かれるHAには、RME OctaMic XTCを採用。8台のOctaMic XTCにより計64chの入力を確保しています。OctaMic XTCは、MADI端子を装備しているため、カスケード接続によってオーディオ・インターフェイスとなるRMEMADIface XTにダイレクトかつシンプルに接続。太くて重いアナログマルチケーブルを引き回す必要もないため、最少人数でのオペレーションが可能となり、且つ接続間違え等、現場でのトラブルを最小限に抑えることが可能です。また、オプティカル・ケーブルを使用しているので、ノイズの影響を受けず、信号の劣化もなく、OctaMic XTCとMADIface XT間を最長2,000m離すことが可能です。 2台のMADIface XTは、メインとバックアップで2式のNuendo Liveにて使用され、1台目のMADIface XTに入力されたMADI信号を、そのままスルーさせて2台目のMADIface XTに入力することにより、同一のMADI信号を2式のNuendo Liveで録音できるシステムが構築されています。 MADIface XTはスタンドアロンとしても動作しますので、万が一、メインのPCがクラッシュしても音途切れなくバックアップのPCへと信号が流れ続けます。
また、MADIface XTをオーディオ・インターフェイスとして据えた、このシステムであれば、96kHz / 88.2kHzのハイレゾでの収録も、チャンネル数を減らすことなく64chで行うことができます。
今回、私たちが取材でお邪魔したのは、お台場のZepp Tokyoにて行われたライブ。メインアクトは結成15周年を迎えたバンド「FACT」。そして、Zepp Tokyoで行われた「SOUL'D OUT」の2ステージ。これらの収録現場に関して、Sound Cityオーディオ技術部 部長の中澤智氏に、現場での体験をコメントしていただきました。後日行われたインタビューのビデオと共に、是非ご一読ください。
今回、RMEのOctaMic XTCとMADIface XTから構成される、コンパクト+軽量なシステムを導入した事により、搬入から設置、搬出まで、大きく時間を短縮することができるようになりました。また、スタッフも少人数で済みます。
録音は、AppleのMacBook Pro 13インチを2台使用しています。OctaMic XTCの収められたステージラックは、パッシブのスプリッターと一緒にラックに収め、各16chに分割しています。こうする事により、段差のある現場での搬入、搬出、設置も簡単に行えますし、設置も場所を選ばず、会場の適当な分岐場所へ設置することができます。
ちなみに、最下部はストッパー付きキャスターラックにして台車としても使用できるように工夫しています。
また、オーディオ・インターフェイスにあたるMADIface XTや録音用の外部ドライブが収められたメインラックは更にコンパクトな為、場所を取りません。 そのため、設置後に「やはり場所を変えて欲しい」という要望があったとしても、迅速な対応が可能です。
Zeepではモニター卓後方。Coastでは、廊下のラウンジ的スペースにメインラックを設置しました。
ステージラックは基本常に結線を行った状態にしてあり、各OctaMic XTC間は、MADIオプティカルケーブルで接続しています。現場に着いたらステージラックからメインラックまでMADIオプティカルのドラムケーブルを接続するだけ。とてもシンプルで、結線はとても簡単です。
現場で、たくさんの音声、映像、照明ケーブルの下敷きになったとしても、ひと昔前の光ケーブルと違い、非常に丈夫です。 更にオプティカルケーブルの特性として、電位差、電磁波などによるノイズの心配は皆無です。
弊社所有のドラムケーブルは100mまで引き回せるので、モニタリング環境を良くするため、ステージから離れた楽屋などで録音ブースを設置することも簡単にできます。またケーブル自体が細く、軽量、柔軟な為、ちょっとした隙間があれば簡単に引き回せのは大きな利点だとおもいます。
ちなみに、Coastでは、事前に現場での録音ベースが正確に決まっていませんでしたが、特に不安も無く、結果30m程で済みました。
弊社システムでは現状、OctaMic XTCを8台所有しており、合計64chのインプットが可能です。また、インターフェイスとなるMADIface XTは、48kHz時で最大192ch分のMADIチャンネルを搭載していますので、マイクプリの増設も簡単に行えます。
MADIface XTには、MADIに加え、アナログ、AES/EBU入出力が2ch有り、現場に合わせ臨機応変に対応できることも魅力です。例えば、Coastでは、ボーカル回線のみ普段使い慣れたHA、アナログ・コンプを使い、録音中も手元で操作したいという要望が有り、そのような場合にも柔軟に対応することができました。また、AES/EBU入力もありますので、ワイヤレス受信機からコンバーターを経由して直接受ける事ができ、とても便利です。また、別の現場では、ワイヤレス受信機からの信号をRMEのADI-642を使いAES/EBUからMADI変換し、その信号をOctaMic XTCにカスケード接続して収録した事もありました。どのような要望にも柔軟に対応できるのもMADIの魅力だとおもいます。
サンプリングレートですが、最近ではハイレゾ音源の配信等の流れもあり、96kHzの録音が増えてきましたが、問題無く安定しています。
弊社ではROSENDAHL MIF4を使用しています。現在は映像と同期せず、フリーの録音が多いですが、BB、タイムコード、共に映像との同期が可能です。
様々な現場があり、現場の大きさによって使用するマイクの本数も異なりますが、現在はステージラックのOctaMic XTCに直接マイクを接続して録音しています。また、ステージ周辺のマイクはステージラックに直接入力するので、あまり長距離ケーブルを引き回す必要もなく、ノイズが乗る可能性は低いです。吊りマイクや、大きな会場では、どうしてもある程度の距離、マイクレベルの信号がアナログケーブルを通ることになるため、ノイズ対策として、バッテリー付きのHA等でラインレベルにする、もしくは、MADI対応のマイクプリを増設する事を考えています。また、現状でも近くにトランク回線や電源がある場合、HAで増幅をするようにしています。
アンビエンスに使用するマイクですが、弊社はレコーディング・スタジオやMAスタジオも運営していますので、AKG451の様な被りの少ない物、そして更に被りの少ないSENNHEISER MKH416、どこに置いても邪魔にならないバウンダリーのPCC160、吊りマイクでは、SCHOEPSやDPA。他にはNUEMANN各種、AKG414。などなど…スタジオで所有しているマイクを現場に合わせ使用しています。
ライブ録音はスピード、ノイズ対策、打ち合わせ等、様々な対応が必要な現場です。
RMEの製品は、高い音質に加え、MADIの技術にも信頼があり、多種多様の機材ラインナップがあるため、あらゆる現場に対応することが可能なのが魅力だとおもいます。
また、バックアップ・サポートもスピーディーで、他社の製品と併用する場合も対応して頂いております。技術進歩、マーケットの変化が激しい中、RMEには今後も現場に合った製品を期待しています。そして、RME製品の新システム導入により弊社ライブ録音事業を更に躍進させ精進して行きたいと思っております。今後とも宜しくお願い致します。
Sound City オーディオ技術部 部長 中澤 智
いかがでしたでしょうか。
搬入搬出等のセットアップ時間の短縮、そして、設置場所の関係上できるだけコンパクトな機材であること、さらに、当然の事ではありますが、ベストな音質と鉄壁の安定性が求められるライブ収録の現場。 このような様々な制約の中、ノイズの心配をすることもなく、極力「音」そのものに集中することができるのが、MADIの最大の利点なのかもしれません。