名古屋芸術大学・碧南市芸術文化ホール共催 トーンマイスターワークショップ2016 - Synthax Japan Inc. [シンタックスジャパン]
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導入事例
名古屋芸術大学・碧南市芸術文化ホール共催 トーンマイスターワークショップ2016

クラシック音楽レコーディングの「実際」を学ぶワークショップ

トーンマイスター(Tonmeister)とは1949年よりドイツの音楽大学ではじまった、録音・音響技術と音楽的知識・センスをもった、「音に関するマスター = トーン マイスター」を養成するトーンマイスターコースを修了した、音楽プロデューサー・ディレクター、バランスエンジニアの総称。その教育は、音楽収録や中継において、「より芸術的な音楽の伝達」を行うために、録音・音響技術のみではなく、音楽の演奏や音楽理論を始め、管弦楽法、総譜演奏、演奏解釈批評など、演奏家と同等以上のスキルを身につけるという内容で、音楽収録・中継現場でのリーダーでありながら音楽家のパートナーとなるスペシャリストを養成することを目的としています。現在ドイツでは、ベルリン芸術大学とデトモルト音楽大学にトーンマイスターコースがあり、また、その他、オーストリア、スイス、イギリス、フランス、オランダ、デンマーク、ポーランドなど欧州の音楽大学でもほぼ同様の教育がおこなわれており、欧州の音楽収録や中継の現場では、これらの教育を修めたトーンマイスターが活躍しています。

今回は、本場のドイツ・ベルリンからトーンマイスターを招き、本来ベールに包まれていることがほとんどであるクラシック音楽レコーディングの「実際」を学ぶことができる非常に貴重なワークショップのレポートをみなさまにお届けします。

トーンマイスターワークショップ 2016

エバハート・ヒンツ氏

名古屋芸術大学・碧南市芸術文化ホールの共催にて催されたこのワークショップは、2007年よりこれまで4回にわたり開催されており、5回目となる今回も、ベルリンより現役のトーンマイスターであるエバハート・ヒンツ氏が特別客員教授として招聘され、同じくベルリンで活躍するトーンマイスター、アキ・マトゥッシュ氏が通訳を担当し、素晴らしいアコースティックを持つ碧南エメラルドホールにて、「ピアノのセッション録音」をテーマとして特別講義が行われました。

今回のワークショップでは、実際に長年RMEを使い数々の作品を録音してきたヒンツ氏の約40年の音楽録音のキャリアを振り返りながら、音楽録音の哲学、セッション録音の方法、ピアノの録音事例、マイクアレンジ、実際のセッション録音について、その考えや様々なアイデアが紹介されました。初日は、名古屋芸術大学の学生を集めた公開講座。そして二日目は放送関係などのオーディオ・プロフェッショナルの方やピアノ調律師など約30名が参加し、半日をかけてトーンマイスターにより紹介される「クラシック音楽の録音の実際」を体験。

録音に使われた機材は、もちろん、ドイツのプロフェッショナル・オーディオ機器メーカーであるRMEのMADIソリューション。そして使用されたソフトウェアは、同じくドイツ生まれのSEQUOIA。非常に優れたオーディオ・エンジンを持つSEQUOIAは、マスタリング用のソフトとして有名で、国内外問わず数多くの商業マスタリングスタジオにて採用されていますが、本場ドイツではRMEとのコンビネーションでクラッシックの録音と編集に使われることが大変多いことでも有名なのです。
なお、ヒンツ氏は、長年、OctaMic II、Multiface II、Digiface といったRME製品と一緒にMAGIX社のSEQUOIAを愛用するトーンマイスターの一人。特にSEQUOIAに関しては、ベーターテスターを長年務めるほどのヘビー・ユーザーです。

トーンマイスターワークショップ 2016 ダイジェスト

お昼までの数時間は、ヒンツ氏から、トーンマイスターが考える音楽録音に対する哲学についての講義が行われました。

講義の模様

講義の模様

ヒンツ氏からは、録音はライブ録音とセッション録音の大きく分けて2つの方法があり、どちらの形態においても、その仕上がりで求められるものは、最終段階として作品を鑑賞する「リスナー」に演奏家の音楽についての解釈やその表現がきちんと伝わり、また、どれだけ編集してあっても「一貫性」がある演奏となることが重要であるということ。また、そのゴールはライブコンサートで素晴らしい音楽を体験しているような錯覚を得るような「作品」をつくることである。そのためには、その音楽にふさわしいアコースティックをもった場所で、素晴らしい品質をもった収録機器とマイクを使用する必要があり、そのどれか一つ欠けてもよい作品を創り上げることはできないという考えが参加者に述べられました。

また、実際の録音に際してどのような準備が必要となるかという部分においては、録音は演奏家がもっとも演奏に集中できるようにさまざまな部分に配慮しながら組織する必要があり、特に、演奏家がホールに入った時にはすべての技術セッティングを終えている必要があるということ。そして、演奏家がリハーサルをしている時に、マイクの位置を検討して、録音の時間がきたら、すぐに録音できるように、演奏家に技術や電気を感じさせない配慮をする必要があることもヒンツ氏から語られました。 さらに、ライブコンサートでは例えば1つの音が間違ってしまっても、その場で聞いている人間の記憶からは消えていくが、録音では、間違ったままの演奏はそのまま記録され、再生の度に間違った演奏がきこえてくるので、本来作曲家が求めた最もふさわしい演奏となるように、(必要であれば) さまざまなテイクを用いて編集していくべきであり、その場合、当然、録音は1回だけするのではなく、トーンマスターが客観的な意見を演奏家に伝えながら、何回もテイクを重ね、ベストなテイクを紡ぎ出す必要がある、という本来はあまり語られることのない「編集」についても多く触れられ「クラシック音楽の録音の実際」を垣間見ることができました。また、ヒンツ氏とマトゥッシュ氏から、実際にドイツで行われたピアノの録音事例も紹介されました。

ヒンツ氏はドイツ・シャルプラッテンの1968年ドレスデン・ルカ教会で行われたピアニスト ディーター・ツェヒリンのベートーヴェンピアノソナタの録音事例、そして、マトゥッシュ氏は2015年ベルリン・イエスキリスト教会でおこなった、ピアニスト 倉澤杏菜氏のブラームスピアノソナタの録音を紹介。

ドレスデン・ルカ教会

ベルリン・イエスキリスト教会

下段、中と右の写真はナクソスジャパンのホームページより引用

当時の資料や写真から、録音はマイク配置や収録機材だけではなく、まず楽器がその音楽に求められたふさわしいアコースティックの中で鳴っているかということが大切であると、そして、トーンマイスターのみではなくピアニストや調律師とのチームワークが大切であるという考えが参加者に伝えられました。

午後は、半日かけての実際の録音の講義となり、ピアニスト 戸田 恵氏を招き、ロマン派、近代といった時代の異なるピアノ曲を、「その音楽にとってもっともふさわしい録音作品」となることを目指したセッション録音が行われました。

セッション録音
ディレクションするヒンツ氏

録音の手順としては、最初にまず、コンサートのように通したテイクを録音し、その後に一旦ピアニストを一緒に録音したテイクをプレイバックし、曲についての解釈や表現についてのディスカッションをおこないます。そして、全体を通して演奏するのではなく、どのように切り分けて録音を行うと音楽的によいかを相談しながら、演奏する箇所を決めてゆくという流れになります。その後は、箇所ごとのテイクを重ねていきながら、テイクごとにその演奏の「気づき」をコメントしディレクションをしていくという、音楽性を重要視したドイツトーンマイスターの王道的スタイル。トーンマイスターであるヒンツ氏が、ピアニストにどのように接し、ポテンシャルを引き出してゆくのかのプロデュースワークを実際に見ることができる大変貴重な内容となっていました。

マイキング

今回の録音では、現在のクラシック音楽のステレオ録音において、なぜ無指向性のABメインマイクが用いられるかを理解するために様々なマイキングでの録音を同時に行う比較収録が行われました。

比較のために用意されたマイキング・スタイルと配置は以下の通りです。

  • A-Omni AB Stereo
  • B1-Omni AB Stereo+ Spot (5msec DLY) + Room (Out of Phase)
  • B2-Omni AB Stereo+ Spot + Room
  • C-Cardioid AB Stereo
  • D-Cardioid XY
  • E-Cardioid ORTF

なお、比較音源は、以下リンクよりダウンロードすることができます。

44.1kHz 16bit Stereo WAV 259MB

注:ダウンロード音源の権利は名古屋芸術大学に帰属いたします。

 

今回録音に使われた機材は、マイクプリアンプも、オーディオインターフェースもすべてRMEが使われました。
これは、実際にヒンツ氏も使用している機材というだけではなく、ドイツでのクラッシック音楽の現場では、余計な色付けを一切せずに素材をそのまま100%取り込むことができるRMEの高い能力が高く評価されており、同時に、RMEとSEQUOIAとのコンビネーションは「鉄板」として非常に多くの音楽制作の現場で使用されていることが理由です。
また、名古屋芸術大学では2014年に、RME MADIface XTとMicstasy/ OctamicXTCを中心としたMADI収録機器が導入されホールなどでの録音実習をおこなっており、今回も収録に関わるほぼすべての機材が大学から持ち込まれました。

今回録音に使われた機材は、マイクプリアンプも、オーディオインターフェースもすべてRMEが使われました。これは、実際にヒンツ氏も使用している機材というだけではなく、ドイツでのクラッシック音楽の現場では、余計な色付けを一切せずに素材をそのまま100%取り込むことができるRMEの高い能力が高く評価されており、同時に、RMEとSEQUOIAとのコンビネーションは「鉄板」として非常に多くの音楽制作の現場で使用されていることが理由です。また、名古屋芸術大学では2014年に、RME MADIface XTとMicstasy/ OctamicXTCを中心としたMADI収録機器が導入されホールなどでの録音実習をおこなっており、今回も収録に関わるほぼすべての機材が大学から持ち込まれました。

 

録音機材

名古屋芸術大学が所有するRMEのマイクプリOctaMic XTC(ラック上)とMicstasy M(ラック下)。ラックの上に置かれているのはFireface UFX+。 すべて、MADIオプティカルケーブルにてシリアル接続され、インターフェースが置かれているロビーまでケーブル1本で伝送。

ロビーに置かれたルーターとインターフェース

ロビーに置かれたルーターとインターフェース。メインのインターフェースにはMADIface XT。サブのインターフェースにはMADIface Pro(ラックの上)が使われた。
下段のラックには、ホールに置かれたマイクプリからのMADI信号を分配するためのMADI Routerが収められている。

録音と編集

SEQUOIAですべてのテイクが録音されると、次は、いよいよ編集です。

ヒンツ氏のスコアには、録音が終わった時点で、「この箇所はこのテイクを使用すると」明確に明記されており、それに基づいて編集をしていきました。

スコア

編集には、クラッシック音楽などクリックを使用しない(つまりテイクごとに微妙にテンポのことなる)録音、そして現代的なPOPミュージックなどの制作現場にて行われるような各楽器を取り重ねて(オーバーダブして)楽曲を作って行く方式とは異なる、すべての演奏者がホールや教会など、一つの空間に集まり全員が同時に演奏するのを、複数のマイクロフォンにて録音するスタイルに特化した編集機能を持つ録音編集ソフトウェアであるSEQUOIAを使って、実際にどのように編集作業をおこなっていくかについてを見ることができました。

SEQUOIAでの作業の流れ

セッション内の裏に裏にとテイクを録り貯めるPro Toolsのプレイリスト方式とはことなり、SEQUOIAでは、水平方向へとテイクを録り貯めてゆきます。録り貯められたテイクは、別セッション・ファイル(SEQUOIAではVIPファイルと呼びます)にSource Destination編集(ソース・ディスティネーション編集)を行って紡いでゆきます。Source Destination編集とは、イン点とアウト点を指定し希望する範囲の全トラックを同時に切り貼りする編集方法で、紡がれた各テイクは、極めて細部まで設定できるSEQUOIAのクロスフェードエディターで、最も自然につながるように編集することができます。SEQUOIAのクロスフェード機能は、高性能かつ直感的で使いやすく、様々なタイプのクロスフェード状況に素早く対応することができ、1作品に対して数百の編集点がある場合でも、クオリティを下げることなく作業効率をアップさせることができるように様々な工夫がされているため、クラッシックの録音編集だけにとどまらず、様々なジャンルの音楽編集に効果的です。下図のようにクロスフェード作業で必要になる機能はすべてひとつのウィンドウに収められ、ボタンひとつで呼び出すことが可能です。

SEQUOIA のVIPファイル

下のビデオでは、実際にマトゥッシュ氏がSEQUOIAを使ってどのように編集が行われているかを解説しています。ご参考までにご覧ください。


ビデオを見るとひとつのトラックしか編集していないように見えますが、このSource Destination編集モードでは、自動的にすべてのトラックに同様のカットやクロスフェードが自動的に適用されています。また、波形が虹色に見える部分がありますが、これは、「コンパリソニック」と呼ばれる機能で、音の高低(周波数)が、低域は暗く、中 域は青く、高域は赤くグラデーション表現され、実際に聴かなくても、どのようなサウンドになっているのかを推察できるようになっています。

また、SEQUOIAには、通常のDAWなどではオプションで追加購入しなくてはならないような、非常に高性能なノイズ除去機能も標準装備されており、ビデオの最後には、スペクトラル・クリーニング機能を使い、マイクが拾ってしまった不必要なノイズをその周波数帯のみを選んで除去するという作業も解説されています。



最後に

7時間という長時間の講義にもかかわらず、参加者は全員集中力を切らすことなく、熱心に聞き入っていたのが大変印象的なワークショップでした。なお、下記より、ワークショップ内にて実際にテイク編集した完成テイクを試聴することができますので、是非聞いてみてください。

 




紙面の制約のないWEBとは言え、とても全ては表現できない情報量。トーンマイスターの熱のこもった講義。実際の録音編集作業を体験することでしか得られない現場のニュアンスなど、すべての面において大変貴重で素晴らしいワークショップであったと感じました。

現役トーンマイスターの生の講義が聞くことができる貴重なワークショップ。今後、チャンスがあれば皆様も参加してみてください。

 

また、特に今回のようなホール録音で活躍するRMEのMADIソリューションと、優れたオーディオ・エンジンと編集機能を有するSEQUOIAを試してみたい方は、是非、下記より気軽にお問い合わせください。専任のスタッフが、デモ機の使用方法から、システム提案までわかりやすくご案内いたします。

お問い合わせはこちら

トーンマイスター エバハート・ヒンツ

名古屋芸術大学 音楽学部 サウンドメディアコース 特別客員教授

トーンマイスター エバハート・ヒンツ
Dipl.-Tonmeister, Guest Prof. Eberhard Hinz  

1949年ドイツ生まれ。1965年-1970年 ライプツィヒ音楽大学にてヴァイオリンを専攻し、1970年-1975年 ベルリン音楽大学でトーンマイスターを専攻、卒業後 ドイツ・シャルプラッテン・ベルリン VEB Deutsche Schallplatten Berlin (ETERNA)にて数々の録音を担当。現在までにシュターツカペレ・ベルリン、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、ベルリン放送交響楽団などの著名なオーケストラや、ソロアーティストの録音を担当。現在はフリーのトーンマイスターとしてベルリンを中心に活動し、ヨーロッパ各地で高い評価を得ている。

トーンマイスター アキ•マトゥッシュ

通訳・トーンマイスター アキ・マトゥッシュ
Dipl.-Tonmeister Aki Matusch

2011年ベルリン芸術大学にてディプロム・トーンマイスターを取得。トーンマイスターとして各種レーベルの原盤制作や放送中継の分野を中心としながら主にベルリンで活動している。

ペガサスミュージックプロダクション所属
http://www.pegasus-audio.de

ピアノ 戸田 恵

ピアノ 戸田 恵
4歳よりピアノを始める。兵庫県立西宮高等学校音楽科卒業後、渡仏。2012年6月、パリ国立高等音楽院ピアノ科併せて室内楽科、パリ・エコールノルマル音楽院卒業。2015年3月、名古屋芸術大学大学院音楽研究科卒業。2007年、第9回イル・ド・フランス国際ピアノコンクール第3位。 2011年7月、ブルガリア国立ソフィアフィル交響楽団のワークショップに参加、最優秀アーティストに選出される。2012年11月、ブルガリア・ソフィアにて、ブルガリア国立ソフィアフィル交響楽団定期演奏会にソリストとして招 待され、共演。 2013年、第10回シャトゥー国際ピアノコンクール(仏)第2位、併せて武満作品の演奏に対し日仏友好賞受賞。など、国内外で多数受賞。Official Web

名古屋芸術大学サウンドメディアコースのホームページのレポートもあわせてご覧ください。

http://soundmedia.jp/20160703Tonmeisterworkshop/

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