現在NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] で会期中の「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME」(2018/3/11まで)。
この作品にテクニカル・アドヴァイザーとして参加されている矢坂健司氏は、数々のサウンド・インスタレーション作品で長年RMEインターフェイスをご愛用されております。
氏はなぜRMEインターフェイスを選ばれたのか。非常に興味深いお話を伺うことができました。
どうぞご覧ください!
ー まずは矢坂さんのプロフィールといいますか、簡単に自己紹介をいただけますでしょうか。
音楽を始めたのは大学からです。SFC (慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス) にはコンピューター音楽のゼミがありまして、それを目当てに入学し、楽器は弾かずにプログラムだけで音楽をやるという活動を行ってきました。
93年暮れくらいから日本にもWEBが入ってきて、「これは面白い!」ということでWEB関係も並行してやっています。95年頃WEBで打ち込めるリズムマシンを作って、ICCの「on the Web-ネットワークの中のミュージアム-」で、当時電気グルーヴの砂原(良徳)さんに音を作ってもらって、僕はその仕組みを作ってという展示を行っていました。
その頃、坂本龍一さんがD&Lライブ・アット武道館でインターネット中継を行うということでお声がけいただきました。
ー 「f」キーを押すと拍手が送れるライブでしたか?
それは97年ですね。95年のD&Lは一般の方はほとんど見られてない思います。
その時に裏方のチームに入らせていただいて、そこから坂本さんとのお付き合いが始まりました。
そのあと2001年位に日本科学未来館のジオ・コスモスのサウンド・インスタレーション部分をやらないかと言うお話を坂本さんからいただいて実装させていただいたり、そのあと汐留の電通新社屋36階のサウンド・インスタレーション「windVibe」も一緒に作ったり。
当時からMaxを使って作品を作っていたのですが、実は2001年のジオ・コスモスでもRMEを使っていました。
ー ジオ・コスモスではその後Ferrofish A32なども導入されましたよね?
そうですね。2001年当時はPCIカードタイプのRMEインターフェイスで稼働を始め、その後Fireface UFXに(PCの更新とともに)変更になり、現在はMADIface XTとFerrofish A32で稼働しています。
それ以外にも坂本さん関係の仕事では2007年の「LIFE -fluid, invisible, inaudible…」の音の部分を担当し、18chのデータMaxで制御したりしていました。
「LIFE -fluid, invisible, inaudible…」では当初DM2000を使用していたのですが、海外巡回の際にシステムとしては規模が大きすぎるということで、見直しを検討していたのです。その時に、シンタックスジャパンにFireface 800のデモ機をお借りしてテストをしたんですよ。
その際RME以外にも2社のインターフェイスも含めた3台を並べてテストを行ったのですが、ご本人(坂本龍一氏)に「どれがいいですか?」と確認したところ、「RMEが一番クセがなくていい」というお話で、それ以来ずっとRMEを使っています。
ー ありがとうございます。非常に光栄です。それでは改めまして今回の展示についてお話を伺わせてください。
2017年8月下旬頃、ICC主任学芸員の畠中さんから「坂本さんのasyncの展示を行うので手伝ってくれないか」というお話を僕と平川(紀道)君にいただき、そのときには濱(哲史)君もプロジェクトに入ることが見えていたので、実作業というよりはアドバイザー的な立場で携わっています。会期直前に足りていないことが見つかると坂本さんや他のスタッフと調整したり、ニューヨーク事務所とのコミュニケーションであったり、展示に使う機材プランをクリアにしたり。
また12月10日のライブイベントの際のPAをzAkさんが担当し、土屋(真信)さんには坂本さん側の機材の提供、サポートをしていただきました。土屋さんはオフィス・インテンツィオという会社をやっていまして、YMO時代から機材周りのサポートを行なっておりますが、僕はインターネット中継の頃からお世話になっていて、zAkさんとは(当時)京都造形芸術大学の渡邊(守章)先生、浅田彰さんが行われたマラルメ・プロジェクトIIIで出会ったり。
かつての活動が縁となって今でもお付き合いさせていただいております。
ー なるほど。それにしてもこのピアノの展示には圧倒されますね。
このピアノは宮城県名取市の高校で使われていたもので、津波にまきこまれ海水につかったものを、坂本さんが譲り受けて今回使わせていただいています。 演奏はヤマハさんにピアノの製品チェックのための機器をお借りして、打鍵用のトリガーを延長していただき、MIDIで動作するようにしてあります。ピアノ自体をMIDIピアノにする方法もあったのですが、ピアノ自体には手を極力入れないコンセプトがあったので、この方法を選んでいます。弦が切れていたり、錆びていたり、ホコリなども極力そのままにして展示を行っています。
ー ピアノの演奏データはどのように作られているのでしょうか?
サウンド・プログラミングは濱君が担当し、毎朝世界各地の1ヶ月分の地震データを取得して1日分に圧縮し、それをMIDIに変換するというプログラムが走っています。ですので毎日演奏の内容は変わります。 地震データの取得はPythonで行ない、MIDIに変換する部分や音響生成ではMaxを使用しています。
ー 今回の展示ではFireface 802を使われているのですね。
はい、今回は2台のFireface 802をADATで接続するセッティングになっていて、Maxのインターフェイスとして使っています。 入力にはピアノに設置したコンデンサ・マイクが2本とコンタクト・マイク1本を入れています。床に設置したラジオにもマイクを入れる計画があったのですが、ラジオ自体の音が大きかったため、1chは使っていません。出力はメインがムジークのRL901Kが4台と各柱にRL906、それとピアノ用にRL904が2台という構成です。
ー 周囲のLEDパネルは音響と連動しているのでしょうか?
LEDは会場で流れている楽曲と連動するようになっています。楽曲はasyncの楽曲と未発表曲で、曲によって映像の演出が異なりますが、音の大きさや位置などと連動するようになっています。映像制作は高谷史郎さんと平川君が手がけています。
また曜日によっては若手の演奏家や学生さんの生演奏もここで行っています。
ー 即興演奏ですか?
即興ではないのですが、坂本さんから与えられたフレーズの羅列から演奏する順番を自由に組み合わせるであったり、自分のテンポを守って演奏する指示が出ていたり、即興性の強い演奏ですね。編成も日によって変わるのですが、たいてい5人以上で演奏しています。
ー それはとても興味深いパフォーマンスですね。ぜひ演奏のある日にもお伺いしてみたいものです。 本日はありがとうございました。
矢坂健司 プロフィール
プログラマ、エンジニア。慶應義塾大学SFCでコンピュータ音楽を専攻し、博士課程単位取得退学。ICMC'98にて"Experiment 6"入選。有限会社シネティクスの共同代表取締役としてWEBシステムのバックエンドプログラムの開発をしつつ、時々サウンドインスタレーションのシステムをMaxをベースに制作。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コースにて非常勤講師としてサウンド、デバイスアートを担当。
会期:2017年12月9日(土)—2018年3月11日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA
開館時間:午前11時—午後6時(入館は閉館の30分前まで)
* 休館日:月曜日
* 3月2日(金)-4日(日)、9日(金)-11日(日)は開館時間を午後8時まで延長(入館は閉館の30分前まで)
入場料:一般・大学生 500円(400円)
*( )内は15名様以上の団体料金
* 身体障害者手帳をお持ちの方および付添1名,65歳以上の方と高校生以下は無料