RME創業メンバーで開発者の一人でもあるマティアス・カーステンズ。
ADI-2 DAC開発の中心人物である彼に、製品開発の背景や日本のユーザーがADI-2 DACについて知りたいであろう事柄について伺いました。
インタビューを終えて、ユーザーの声に真摯に耳を傾け、持てる限りの情熱と技術をADI-2 DACに注ぎ込んだ開発者の姿が見えてきました。
ミュージシャンや音楽プロデューサーがそうであるように、私たちRMEの開発者も音楽愛好家であり、空いた時間には好きな音楽を楽しむ一人の消費者です。
今、市場を見渡すと様々なDACが発売されていますが、私たちもみなさんと同じように様々な製品を購入して試してきました。
「買わないで自分たちで作れば良いのでは?」と思われるかもしれませんが、一つの製品を作り上げるにはとても長い時間が必要ですし、市場の製品は箱を開ければすぐに聴き始められますからね。
このように様々な製品を試してきましたが、残念ながらプライベート・ユーザーとして満足できる製品には出会えませんでした。
ホーム・シアター向けのAVアンプの傾向が強いDAC製品が多く、純粋なオーディオ向けのシンプルなハイレゾ音源用の機能が乏しかったり、オーバーに装飾された音場シミュレーション機能などはあっても、ハイファイ・オーディオの進化の過程で登場した音質補正系の様々な機能が無かったり、メニューの深い階層に埋もれていたりしました。
また、これらの製品を計測すると製品カタログ・スペックに記載されている値が実際の計測値ではなく、DACチップ・メーカーが発表しているチップそのもののスペック値であることもしばしばありました。
そのような市場を鑑みて、私たち自身の手で「DAC」を開発することに決めました。
ちょうどその当時2チャンネル・コンバーター「ADI-2」の後継機開発を考えていたこともあり、ADI-2に最新テクノロジーとそれまでに培ったノウハウを盛り込み、オーディオ・リスニングのための機能も追加しようと考えました。
またADI-2に最新のAD/DAチップを搭載したところ、業務用測定器として使用できるほど精度を高めることができ、それらのチップはDSDにも対応していたため、RMEでは初めてとなるDSDの録音・再生機能を搭載することができました。
最終的にADI-2 Proとして製品化し、非常に高いレベルでPCMとDSDの録音と再生が行なえ、それぞれを比較できるなど、他に類のないユニークな製品になりました。
ADI-2 Proはスタジオでの使用も想定され非常に多機能です。それら全てが万人向けの機能と言うわけではではありませんが、初めてADI-2 Proを使ったほとんどのオーディオ・リスナーが、それらがあるとないとでは音楽体験が劇的に変わることに気付きます。 おかげさまでADI-2 Proは私たちの想像以上に高い評価をいただき、世界中で様々な賞を受賞することができました。
再生専用ADI-2 Proというアイデアは、多くのユーザーからの熱いリクエストにも後押しされ、製品化する勇気をもらいました。
AD変換は録音には必須ですが、多くのユーザーは音楽再生が目的なのでUSBやデジタル入力で十分ですし、ADを搭載しないことによって価格を抑えられます。
ヘッドフォン出力に関しても、使用しているユーザーがより多いIEM(インイヤー・モニター)に最適化した出力を搭載しようと考えました。
リモコンを付属したことも、ユーザーからのリクエストが多かったためです。
再生専用のリクエストやリモコン以外にも、ADI-2 Proユーザーからたくさんのフィードバックがあり、その意見を数多く採用しました。
もっとも多かった意見は、ADI-2 Proの操作方法や挙動などを理解するのが難しいというものでした。
多くのユーザーは音楽を聴く際に、クロックやシンク、USB要件などは気にしないので、スタジオ仕様のADI-2 Proでは多機能過ぎたのです。
ADI-2 Proはプロフェッショナルの業務でもあらゆるケースに対応できるようきわめて柔軟なシステムになっています。
そのため適切なクロック設定が不可欠で、さらに入力ソースを変更した際には、変更された入力とそのサンプル・レートに従って本体自体をリセットしなければなりません。
この問題を解決するもっとも簡単で多くのDACでも採用されている方法は、一定のサンプル・レートを使用することです。
しかし私たちはこの方法を選びたくありませんでした。
代わりに私たちはADI-2 Proのファームウェアを更新し「DACモード」を追加しました。
このDACモードでは、USBエンジンを他のモードや入力から隔離し、USB接続が有効な場合でも、問題が生じることなく本体が再設定できるモードになっています。
DACモードを追加しましたが、それでもなお多くのユーザーが求めるシンプルさには辿り着けませんでした。
なぜならADI-2 Proはデジタル、アナログをあわせて「6 in 8 out」のマルチチャンネル・インターフェイスであり、すべてのI/Oを正しく機能させるためには厳密なクロック要件があるからです。
しかしADI-2 DACはシンプルな「2 in 2 out」のインターフェイスで、クロックやシンクを意識しなくても、USB、SPDIFオプティカル、SPDIFコアキシャルの入力をリモコンで切り替えればすぐに再生できます。このようにADI-2 Proをシンプルに再生専用に特化させたモデルとしてADI-2 DACが誕生しました。
RCA端子は基本的にTS端子やフォン端子と同じもので、RCA-TS変換アダプターなども頻繁に使用されています。
RCA端子はホーム・オーディオのデファクト・スタンダードなので、ADI-2 Proで搭載したTS出力を、ADI-2 DACではRCA出力に変更することは必然とも言えます。
また通常RCA出力はTS出力よりもレベルが低いため、ADI-2 ProのTS出力では+19 dBu/+13 dBu/+4 dBuに設定されているリファレンス・レベルを、ADI-2 DACのRCA出力では+13 dBu/+7 dBu/+1 dBu/-5 dBuに設定しています。
また、6dB低いADI-2 DACのRCA出力に接続しても、ADI-2 Proと同様の完全な解像度を維持するために、低出力でのS/N比とTHDに最適化するようにアナログ出力段に変更を加えています。
次にIEM出力についてです。
ADI-2 DACやADI-2 Proが搭載しているExtreme Powerヘッドフォン出力のLow Powerモードでも、世界でも有数の低ノイズ・ヘッドフォン出力であることは間違いありません。
それでもなお超ロー・インピーダンス・インイヤー・モニターは非常に感度が高いため、ノイズを拾ったりボリュームが上げられない可能性がありました。
こういった現象が発生した場合、通常、ユーザーは自身でアッテネーターを用意し、使用することでダイナミック・レンジを確保して、相対的にノイズを押さえ込んでいると思いますが、この方法では音質への影響がないとは言えません。
またIEMは非常に人気がありますが、一般的なヘッドフォンよりも感度が高く、誤った設定で出力した場合、大音量でIEMを破損する可能性もあります。そのためADI-2 DACではIEMに最適化した出力段を搭載しました。
この出力段はExtreme Powerには対応しませんが、Extreme Powerヘッドフォン出力と同等のTHDを達成しながらも、その最大出力レベルはわずか-3dBuです。ほとんどのユーザー、特にミニTRS端子を持つ一般的なイヤフォンやポータブル・ヘッドフォンなどを使う方にとっては、この出力端子だけで事が足りてしまうでしょう。
0.1Ω以下の出力インピーダンスを持つこのIEM出力では、平面磁界型ヘッドフォンからインイヤー・モニターまで、あらゆるヘッドフォン、イヤフォンのリファレンスとしてADI-2 DACをご活用いただけます。
当たり前の話ですが、S/N比やダイナミック・レンジなどの性能はDAチップの仕様が上限となります。
接続する機器によって求められるリファレンス・レベルは様々ですが、接続する機器によってS/N比が大きく変わることは好ましくありません。
ADI-2 DACではアナログ出力に接続されたデバイスのリファレンス・レベルに合わせてハードウェア・ベースの最適なリファレンス・レベルを6dB毎に選択でき、レベル変更をアナログ・ハードウェア領域で行うことにより、+19 dBuであっても僅か+1 dBuであっても、すべてのリファレンス・レベルにおいてDAC出力のS/N比/ダイナミクス・レンジが最大限確保できるように設計されています。
例えばリファレンス・レベルは+19dBuに、音量は-20dBに設定されているとします。この場合のDACの出力における有効なS/N比は、117dB - 20dB = 97dB (RMS unweighted) となります。
この設定でノイズが聴こえるわけではありませんが、例えば、リファレンス・レベルを+1dBuに変更すれば、ボリューム・ノブを-2dB(最大ボリュームより2dB低いボリューム)にすることでも同じ音量を得ることができます。
そして、この場合での実質的なS/N比は115.4dB - 2dB = 113.4dBとなり、先程の値よりも16.4dB改善できたことになります。通常はこの操作はユーザー自身が行わなければなりませんが、ADI-2 DAC(ADI-2 Pro)にはこれらのリファレンス・レベルを自動に設定する「Auto Ref Lev」という機能があり、ボリューム・ノブを回すだけでS/N比を最適化することができます。
ボリューム・ノブで設定したゲイン値とリファレンス・レベルの関係を判断し、最適なS/N比が得られるようにリファレンス・レベルを1つ上、または1つ下に設定を自動的に切り替えます。音量を上げたり下げたりする度に、「Auto Ref Lev」は常に最適なリファレンス・レベルを設定してくれるのです。
ライン出力では「Auto Ref Lev」がデフォルトで有効に設定されています。
現在の音量はdBr (dB relative) という相対値で表示され、ダイナミクス・レンジは最適化されたリファレンス・レベルに自動的に切り替わります。
ヘッドフォン出力でも「Auto Ref Lev」は使用できますが、音量の上げすぎを防ぐためにデフォルトでは無効になっています。
長くなりましたが、ADI-2 DACでは4段のリファレンス・レベルで民生機から業務用機まであらゆる機器をカバーし、すべてのリファレンス・レベルでダイナミクス・レンジを最大限活かしたノイズのない再生が可能になるということになります。
ADI-2 Proではバランス接続の効果を最大限に活かすために、S/N比を3dB改善し、THDをさらに改善し、平均偏差と最大出力レベルを2倍にしました。
ハイエンドのヘッドフォンではバランス駆動モデルも多く、それらのヘッドフォンはハイ・インピーダンス・モデルなのでバランス接続のメリットがあります。
しかし元々バランス駆動ではないヘッドフォンをバランス駆動に変更した場合では、必ずしも効果があるとはいえません。
IEM出力の実装は、現在のトレンドを反映したものです。
以前はモバイル機器でのみ使用されていたIEMですが、近年のIEMはリファレンスとして使用できるレベルに到達し、素晴らしい音質を実現しています。
IEM出力では、IEMの破損をふせぐため低電力で動作し、超低ノイズ・フロアなためノイズの影響を受けやすいIEMであってもまったく影響を受けず、歪みのないサウンドで、IEMをポテンシャルを最大限引き出します。
ADI-2 DACのIEM出力は、RME独自のリファレンスとなることを確信しています。
ADI-2 ProとADI-2 DACは、DIGICheckの解析エンジンをハードウェアに組み込んだ初めての製品で、アナライザー等の解析結果を本体の高解像度IPSディスプレイに鮮やかに表示します
「State Overview」画面は、サンプル・レートやSync状態、各チャンネルのソースの検出、PCMとDoPで送られるDSDの切り分け、エンファシス信号の検出など、様々な情報を一画面に表示し、ひと目で確認ができる他の製品にはない特徴です。
難しく考える事はありません。
まずは2つのエンコーダー・ノブから直接アクセスできるBassとTrebleの設定から初めましょう。
ユーザーガイドからの引用ですが、 「一般的なハイファイ・ステレオ・アンプでおなじみのBass/TrebleによるシンプルなEQが搭載されています。Bass/Trebleを用いることで素早く簡単に好みのサウンドを作ることが可能です。(低音をもっと増やす/減らす、高音をもっと増やす/減らす)。プレイリスト内の曲に特性のばらつきがある場合、曲に合わせて低音または高音を僅かに調整することができます。プロデューサーやマスタリング・エンジニアによっては独自の趣向が反映されている場合や、他のミックスにくらべて平均的なサウンド・レベルに達していない場合があります。その場合はすぐにエンコーダー1とエンコーダー2を回しBass/Trebleを調整してください。完璧なサウンドが得られるはずです。」
対して、5バンド・パラメトリックEQは、BassやTrebleでできることよりも、さらに細かいサウンド・コントロールが必要な上級ユーザー向けの機能で、様々な用途に使用できます。
例えばヘッドフォンやスピーカーに特徴的なクセがあった場合、ピークをカットしたり、周波数特性の一部の増幅や低減を改善し、 好みに合うようにサウンドを整えることができます。
パラメトリックEQでは非常に多くの使い方があります。様々な設定でどのように音が変わるのか、ぜひ一度チャレンジしてみてください。
またクロスフィード・エミュレーションはヘッドフォン出力で使用する機能です。
こちらもユーザーガイドからの引用ですが、 「ヘッドフォンはソースの音像を広げてくれます。ステレオ・スピーカーの音場を左右に極端に広げることで全てを聴きやすく、確認しやすくしてくれます。しかしその一方で標準的なスピーカーのセットアップに近い音像でヘッドフォン・モニタリングを楽しみたいと思うユーザーもいるはずです。この要望に応えるべくADI-2 DACにはCrossfeed(クロスフィード)機能が搭載されています。スピーカーから出力することで適切なステレオ・イメージを作り出すアンビエンス成分は、ヘッドフォンで聴くとスピーカーと異なる不自然なイメージで聴こえる場合があります。クロスフィード機能を使うことで、スピーカーで聴いているかのような自然なアンビエンス感を得ることが可能です。バウアー・バイノーラル理論により、高音域のステレオ幅を5段階で調整可能です。僅かな遅延と周波数特性の補正によるこの先進技術の効果は絶大です。ADI-2 DACのユニークな機能の一つです。」
いくつかの設定が用意してありますので、1つ1つを自由に試していただき、好みの音を探ってみてください!
ADI-2 DACで使用される水晶発振器のジッターは1ピコ秒未満(フェムト秒領域)となりましたが、現時点ではオーディオ・パフォーマンスに相当する値を測定するための有効な測定方法がありません。
さらに、これを測定しようとする高額なテスト装置でも、比較対象となるような数字が提示されません。最新の水晶と水晶発振器のスペックを表すためのより良い方法は、周波数帯における位相ノイズを測定することです。
その方法で表すならば、ADI-2 DACの水晶は10Hzで-105dBc、100Hzで-135dBc、1kHzで-165dBcに達しています。これらの値は全てオーディオ帯域内にあり、驚くべき値です。
新しいSteadyClock FSの回路では、超低位相ノイズ水晶発振器がDDS回路および周波数を調整するデジタル/アナログPLLをドライブし、外部からのジッターを除去する2つの特別なフィルターを備えることにより、極めて正確なクロックを提供します。
したがってSteadyClock FSは今までのSteadyClockより低いセルフ・ジッターを実現していますが、先述の理由と、それ以外のいくつかの理由により、ジッター値を公開していません。
最終的にDACや音響機器を語る上で唯一重要となるのは、DA(AD)変換の品質と私たちは考えます。
DA (AD) 変換に使用されるクロックで変換に影響を及ぼすジッターが含まれていた場合、スペクトル解析で簡単に可視化することができます。
実際にこれは標準化された測定方法ですが、ほとんどのケースで具体的なジッター値を得ることができません(スペクトル解析からジッター値を計算する式が様々なため、結果も異なり比較できません)。
しかし、スペクトル解析の視覚化された画像の場合は、あらゆるジッターが、ノイズ・ジッター、ノイズによる劣化、側波帯やスプリアス・トーンなどの原因となりスペクトル解析に現れるため、可視化することができます。
もちろんスペクトル解析を行ってもジッターが現れない場合は、音に影響を与えるジッターがないということになります。
そして、ADI-2 Pro / ADI-2 Pro FSやADI-2 DACがこれに当てはまります。
非常にわかりやすい変更点としてはリモコンとAutoDarkモードを追加したことです。
どちらの機能も自宅でご利用される方やリスニング・ユーザーに、より快適に使用していただくために採用しました。
今までのRMEの製品では、こういった形のリモコンを付属したことはありません。
ADI-2 DACに付属するリモコンは、使いやすさにこだわって厳選されたボタン配置で、あらゆるユーザーの要望に応えられるものになっています。
使用頻度の高い機能を、手元を見なくても操作することができ、また好みの機能を割り当てられる4つのボタンを活用することで、さらに使いやすさが向上します。
AutoDarkモードもとても便利な機能です。
電源ボタンや液晶画面などすべての照明が消えるため、例えばテレビの下においたときなどでもテレビ視聴の妨げになりません。
照明が必要な場合は、リモコンや本体のボタンを押すことで、数秒間点灯させることができます。
AutoDarkモードのオン/オフは、デフォルトではリモコンにも登録され、もちろん本体でも可能です。
シンプルな機能ですが、必要とされる方は多いのではないでしょうか。
日本の皆様から私たちの製品を絶えず信頼していただけることに感謝しています。
またRME製品が日本市場において成功することができ、誰もがそのことを誇りに思っています。
皆様のご期待に応えられる最高の製品とサービスをこれからも提供できるよう、さらなる努力をお約束します!
ADI-2 Pro FS R Black Edition | ADI-2 DAC FS |
2チャンネル・ハイエンドAD/DAコンバーター | PCM 768kHz / DSD 11.2MHz 対応 リファレンス・クラス・マスターDAコンバーター |