その黎明期より長年に渡って高品位なMADI関連機器を世に送り続け、MADIの普及に大きな役割を果たして来たRME。そのひとつの集大成としてMADIface XTを始めとするMADIの新シリーズが続々と登場。2014年、独フランクフルトで開催されたmusikmesse会場にて、RME創始者のマティアス・カーステンズにインタビューを敢行。RMEの製品開発の中心人物がMADIの開発について語る。
RMEがMADIの開発に着手した理由としては、まずMADIは非常にシンプルなケーブルで多くのチャンネルを長距離伝送できる非常に優れた規格である、という点があげられます。もちろん、短い距離でも非常に有益なわけですが、なんと言ってもたった1本のケーブルで64ものチャンネルを伝送できますからね。それに、ケーブルも安い。でも、開発を始めた当時は多くの人々が「MADIは高い!」と言っていました。確かに実際、当時多くのMADI機器は非常に高価な物が多かったと思います。そこで、私たちは「どうしてMADI機器はこんなに高価なのか?もっと安くてもいいはずだ」という思いからMADI機器の開発を始めたのです。実際に最初のMADIカードであるHDSP MADIがリリースされた時は、多くの人から沢山の賞賛を受けましたし、なによりMADI自体がより一般的に人々に受け入れられるための扉を開いたと自負しています。
HDSP MADIの次にリリースしたのは、ADI-648でした。ADI-648には8つのADATポートが搭載されており、これによりADATとMADIの双方向のコンバートができるようになりました。ADATは当時から非常にポピュラーな規格でしたので、「じゃあ、是非ADATとMADIという2つの異なるプロフェッショナルスタンダード規格をつなげよう!」ということになり開発しました。実際に、この製品は多くの人々に受け入れられ、とても成功しました。
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実際、MADIの開発自体はそれほど難しいものではありません。 なぜならMADIはAES/EBUを基本としていますので、フォーマットやデータストリームも似ていますし、フレームの構造は同じです。AES/EBUが2チャンネルなのに対してMADIは64チャンネルというだけです。
ただし、MADIはセルフ・クロッキングの信号ではないため、やはりクロックには注意が必要です。技術的なことを話すと長くなってしまうのですが、MADIはその特性上80ns以上のジッターを持っていますので、RME独自の技術であるSteadyClockのように高精度で超低ジッターなクロック・スキームがどうしても必要になるのです。そのような独自のクロック技術を持たない他社は、ワードクロックやAES11を使いMADIの開発をしていたようですが、私たちの場合はSteadyClockを使えば瞬時に入力信号にロックすることができますので、最初からその心配は必要ありませんでした。
また、MADIには56chフォーマットと64chフォーマットという異なる規格があるのですが、RMEはそのどちらにも互換性があります。56chフォーマットの場合、最初の56chでオーディオ・データを扱い、残りのチャンネルでコントロール・データを扱うようになっています。この場合、残りのチャンネルがどのようなコントロール・データを扱うのかは、開発するメーカーによって異なってしまいます。
このように、基本的には特に大きな問題もなくMADIの開発を行っていたのですが、ただひとつ、SONYの「PCM-3348」には大変苦労した思い出があります。
このデジタル・マルチトラック・レコーダーのMADIアウトのチャンネル・アサインは通常とは異なっていたため、当然、初期段階ではRMEのMADI機器とも互換性が取れませんでした。ただ当時、身近にすぐに試せる「PCM-3348」があったため、幸運にも直に対応策を講じることができました。ある意味この御陰で、RMEはどのメーカーのMADI機器とも互換性があるという名声を得た部分があります(笑)。