MADIface XTの開発を始めたモチベーションは、やはりポータブルなマルチチャンネルMADIインターフェイスが作りたかったという点にあります。MADIface XTをリリースする前に、同じく3系統のMADIを搭載したPCIeカードタイプのMADIインターフェイスであるHDSPe MADI FXをリリースしていたのですが、より柔軟性が高く持ち運びが簡単なデバイスを作りたかったのです。
持ち運びできるMADIインターフェイスを、ということで私たちはUSB3に注目し、1年半ほどUSB3の開発に費やしました。Thunderboltはその当時まだそれほどポピュラーではなかったので、まずは確実にスタンダードになるUSB3を選択したのです。それに、USB3は、扱えるチャンネル数こそ少なくなりますが
USB2との下位互換があります。この部分もポイントでした。それから、ちょっと驚くかもしれませんが、MADIface XTは内部的にはPCIe規格を使っているんですね。PCIeはRMEにとっては慣れ親しんだスタンダードな規格ですので、技術的にはとても簡単でした。ですので、MADIface XTではPCIeをUSB3に変換してさらにUSB3の他にミニPCIeポートも実装した、という流れになります。PCIeポートは最高の伝送スピードと信頼性を誇る規格ですし、PCIeポートをThunderboltに変換するアダプターも市場に存在するため、USB2もUSB3もThunderboltも使うことができる、非常に柔軟性が高く実用性も高いインターフェイスとして、MADIface XTを世に送り出すことができました。
MADIface USBですが、これは以前リリースしていたHDSPe MADIfaceの後継機種となります。ご存知のように最近のPCにはExpressカードのポートが搭載されていないため、新しく生まれ変わる必要がありました。また、多機能多チャンネルなMADIface XTのシンプル・バージョンとも考えることができます。さらに技術的な背景として、USBチップセットやコンピューター自体の性能向上のため、USB自体が昔に比べよくなったという部分も開発の理由として上げられます。実際にテストをしてみると、USB2で70チャンネルの伝送が可能ということがわかり「じゃあ、4〜5年前にはできなかったことをやってみよう」ということになりました(笑)。こうして、MADIを1系統搭載した64チャンネルのUSB2インターフェイスが誕生しました。ある意味、テクノロジーが私たちのやりたいことに追いついた、とも言えます(笑)。
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MADIface XTとMADIface USBの開発は同時期におこなわれたのですが、MADIface USBの開発はMADIface XTのUSB部分を使うだけでしたので比較的シンプルだったのに比べ、MADIface XTのUSB3ポート部分には開発に1年半かかりましたので少々苦労したと言えるかもしれません。USB3は当時まだ完全に動作していないというか、なんといったら良いのでしょうか・・・表現が難しいのですが、ある種ケーブルやチップの性能のギリギリのところで動作していた感があり、まだ規格として100%信頼できる感じではありませんでした。オーディオの開発者だけではなく、実際、多くの開発者が苦労していたと思います。 例えば、USB3接続のハードディスク・ドライブをつないでも二回に一回は認識しなかったりだとか、また、例えば128MB/秒転送しないないといけないところを60MB/秒しか転送できなくて繰り返しエラーが出たり、といったその手の話はよく聞きました。
オーディオでもそれは同じでした。開発をしてみるとUSB3でのオーディオ伝送もまだ完全ではなかったのです。USB3の公表スペック通り100%正確に動作するためには、良いコンピューターと良いケーブルが揃っているという条件が必須でした。USB2が大変安定していて信頼がおける規格に成長したように、きっとUSB3も2年後にはおそらく信頼のおけるスタンダードな規格になっていると思います。もちろんMADIface XTが今のUSB3で動作しないという訳ではないですよ!(笑)XTを使っている人は、全員XTの動作に満足しています。
これに対してThunderboltは、内部は基本的にPCIeですので開発も簡単です。USB3のような苦労は必要なく、単にAppleとIntelからライセンスを買うだけです。この部分はUSB3とは大きく異なります。USB3の開発には高い技術が必要なのです。